第95話「金髪」
十一月十日、この日がやって来た。
もちろん、絵菜の誕生日だ。今日は日曜日で、RINEで絵菜と話した結果、絵菜の家に来てくれないかと言われていたので、僕は今絵菜の家に向かっている。この前買ったトートバッグをしっかりと持って歩いて行く。少し風が冷たい。まぁ冬に向かっているし仕方ないよなと思った。
絵菜の家に着き、インターホンを押すと、「はい」と聞こえてきたので、「こんにちは、日車です」と言うと、「まあまあ! ちょっとお待ちください」と言われた。真菜ちゃんかな? と思っていると、すぐにドアが開いて絵菜と真菜ちゃんが迎えてくれた。
「い、いらっしゃい」
「まあまあ、お兄様こんにちは! なんか冷えてきましたね」
「こんにちは、そうだね、もう十一月だから仕方ないのかな」
「そうだな……って、なんか団吉荷物持ってるな」
「ああ、これはちょっとね……すぐ分かると思うけど」
「ふふふ、お兄様上がってください。あたたかいコーヒー淹れますね」
絵菜と真菜ちゃんに促されて、僕は「おじゃまします」と言って上がらせてもらった。リビングへ行くと、お母さんがいた。
「まあまあ、団吉くんこんにちは。外は寒かったでしょう」
「こんにちは、おじゃまします。ちょっと手が冷たくなってしまいました」
「ふふふ、絵菜にあたためてもらうといいと思いますよ」
「なっ!? あ、まぁ、そうしないこともない……って、わ、私何言ってるんだろう」
慌てる絵菜を見て、僕は笑ってしまった。
「お兄様、はいどうぞ、コーヒー飲んでください。今日は日向ちゃんは部活ですか?」
「ありがとう真菜ちゃん。うん、日向は元気よく部活に行ったよ。あ、そうだ、これ渡さないと……」
僕は持って来たトートバッグの包みを絵菜に差し出した。
「絵菜、お誕生日おめでとう。これ、僕と日向と真菜ちゃんと舞衣子ちゃんからプレゼント。みんなで見に行ったんだ」
「ふふふ、お姉ちゃん、お誕生日おめでとう!」
「え!? そ、そうだったのか、あ、ありがと……開けてみてもいいか?」
「うん、ぜひぜひ」
「なんだろう……わわっ、トートバッグ!?」
「うん、絵菜も学校に行く時持って行くものがあるよね、それらが入っていいんじゃないかと思って」
「そ、そうだな、これ可愛いな……ほんとにありがと。大事に使う」
嬉しそうにバッグを見つめる絵菜が可愛かった。
「ふふふ、絵菜よかったわね。今日は団吉くんも来てくれたし、お母さんからもプレゼントがあります……って、いつも通りケーキなんですけどね」
「え、そ、そっか、母さんもありがと……なんか恥ずかしいな」
お母さんがケーキを出してくれて、みんなでケーキをいただくことにした。うん、いちごのショートケーキが甘くて美味しい。
「お姉ちゃん、ケーキ美味しい?」
「あ、うん、美味しい……ていうか自分の誕生日のこと忘れてた……私も忘れっぽくなったのかな」
「あはは、そういえば絵菜の誕生日は平日が多かったから、学校でも火野や高梨さんがお祝いしてくれたね。なんだか懐かしいな」
「まあまあ、ふふふ、お姉ちゃんがたくさん愛されていて、私嬉しいです! よかったねお姉ちゃん」
「あ、う、うん……嬉しい」
恥ずかしそうにしている絵菜だった。
「ふふふ、絵菜、ケーキ食べたら部屋で団吉くんとお話しておいで。二人で話したいこともあるでしょう」
「そうだよお姉ちゃん、思いっきりイチャイチャしてきて!」
「なっ!? い、いや、そういうのはない……あれ? やっぱりあるのかな」
また慌てている絵菜を見て、みんな笑った。
美味しいケーキをいただいた後、僕は絵菜の部屋に入らせてもらうことにした。久しぶりに絵菜の部屋に入ったが、いつも通り片付けられていて綺麗だった。
「絵菜、よかったね。今年もたくさんの人がお祝いしてくれたよ」
「うん、嬉しい……でも、やっぱり団吉がお祝いしてくれるのが一番嬉しい……」
絵菜が僕の隣に来て、きゅっと抱きついてきた。僕はそっと絵菜の綺麗な金髪をなでてあげた。
「そうだ、私、実はこの金髪やめようかなってちょっと迷ってて」
「あ、そ、そうなんだね、別の色にしたくなった?」
「別の色にしたいというか、昔は何もかも嫌になって反発の意味もあって金髪にしてたんだけど、もうそんな必要もないのかなって」
「そっか、でも絵菜の黒髪とか茶髪とか、あまり想像できないなぁ」
「ふふっ、どんな私でも、団吉は好きでいてくれる……?」
絵菜がちょっと上目遣いで僕を見てきた。か、可愛い……もちろん、どんな絵菜でも好きな気持ちは変わらない。そして絵菜と真菜ちゃんを守るという僕の大事な役目も忘れることはない。
「うん、もちろん。絵菜のことが好きなのは変わらないよ。そして絵菜がやりたいと思ったことを自由にやってくれるのが僕は嬉しいよ」
「ふふっ、ありがと。団吉は金髪と黒髪、どっちが好み?」
「え、う、うーん、難しいね……でも、絵菜はこの綺麗な金髪が似合ってるから、そのままでもいいのかなって思うよ」
「そっか、じゃあもうしばらくこのままにしておこうかな」
「うん、あ、もしかしたら社会に出たら、環境次第だけど金髪はダメってところがあるかもしれないね。それまでだね」
「そうだな、じゃあそれまでは金髪でいようかな……」
絵菜がそう言って僕を見つめてきたので、僕は絵菜の唇にそっとキスをした。
「そういえば、絵菜の誕生日に初めてキスしたね。な、なんか思い出しちゃった……僕、すごく緊張してたよ」
「そうだな、私もドキドキしてた……」
「絵菜の誕生日が来るたびに、そのことを思い出すのかもしれないね。絵菜、ほんとに誕生日おめでとう」
僕はそう言ってもう一度絵菜にキスをした。絵菜がニコッと笑って僕にぎゅっと抱きついてきた。
「ふふっ、嬉しい……団吉、ありがと……」
嬉しそうに僕に抱きつく絵菜も可愛かった。
そうか、絵菜の金髪は、反発の意味もあったのか。絵菜のことをまた一つ知ることができて、嬉しかった僕だった。
でも、黒髪の絵菜というのはちょっと想像できなかった。以前小さい頃の写真を見せてもらったことがあったが、あんな感じになるのかな。
さっきも思ったように、どんな絵菜であっても僕は絵菜が大好きだ。僕は大事な人を守りたい。これからも、ずっと……。
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