第93話「打ち上げ」
学園祭も無事に終了した。
今日は学園祭の後片付けということで、講義もなく午後から大学へ行って後片付けをしていた。僕たち写真研究会の展示フロアもたくさんの人が訪れてくれて、「すごい」と言ってもらった。僕はそれだけで嬉しかった。
写真を眺めていると、その時の思い出、感じたことなどがリアルによみがえってくる気がして、いいものだなと思った。先輩方が言っていたようにスマホでもカメラでも問題ない。撮る人が見ている景色というものが写真に現れるのもいいものだ。
なかなかいい経験をさせてもらっているな……と思いながら、写真を一枚一枚眺めていた。展示した写真は部室に飾ったり、気に入ったものがあれば持って帰っていいと先輩方が言っていたので、僕も自分で撮った写真をいくつかいただくことにした。来年はぜひカメラで撮った写真を展示できるといいなと思った。
「いやー、みんなお疲れさまー! 人もたくさん来てくれて、大成功と言えるんじゃないかなー!」
川倉先輩の元気な声が響く。片付けが終わってから僕たちサークルメンバーは、『酒処 八神』に集まった。これから学園祭の打ち上げというかお疲れさま会をするのだ。
「ああ、今年もいい経験ができたね! 写真もたくさんの人に見てもらって、ボクは嬉しいよ!」
「ふふふ、そうですね、楽しい思い出ができました。みなさんよく頑張りましたね」
慶太先輩と成瀬先輩が笑顔でそう言った。たしかに、これも楽しい思い出なのだろう。
「よし、終わったということで乾杯しようかー! 大将、ビール三つとコーラ二つお願いしますー!」
「おう、そう言うと思ってもう準備しているよ!」
大将がさっそくビールとコーラを持って来てくれた。
「おお、ありがとうございますー! さすが大将、分かってるー!」
「みんな頑張ったみたいだからな、最初の一杯は俺のおごりだ! そして俺も乾杯させてくれぃ!」
「なんと、ありがとうございます! じゃあ亜香里先輩、乾杯の一言お願いできるかい?」
「よっしゃー! それではみなさん、学園祭お疲れさまでした。楽しいことがいっぱいあって、今年も盛り上がったんじゃないかなと思います。今日はじゃんじゃん呑みましょう! かんぱーい!」
川倉先輩が声を上げると、みんな「かんぱーい!」と言ってグラスを当てた。僕と拓海はもちろんジュースだ。みなさんのように早くお酒が呑めるようになりたいなと思った。
「ぷはーっ、ビールがうまい!」
「ほんとですね、身体に染みわたります!」
いつものように勢いよくぐびぐびと呑む川倉先輩と成瀬先輩だった。だ、大丈夫かな……まぁでも、楽しいことがあってお酒も美味しいだろう。
「団吉くんと拓海くんは初めての学園祭だったが、どうだい? 楽しめたかな?」
ちびちびとビールを呑んでいる慶太先輩が訊いてきた。
「はい、高校の時も文化祭が楽しかったですが、それ以上の盛り上がりで楽しいなと思っていました」
「俺も団吉と同じような感じです。これが大学かーって思ったっつーか」
「そうかそうか! 二人とも楽しんでくれて何よりだよ。ああ、そして久しぶりに絵菜さんにも会えたからね! 素晴らしい学園祭となったよ!」
「あ、そ、そうですか、それはよかったです……あはは」
あ、相変わらず絵菜のことを気に入っている慶太先輩だった。
「慶太、ほんとあんた気持ち悪いね~、絵菜ちゃんドン引きしてたじゃないの~」
「ええ!? そ、そんなことはないと思うのだが……団吉くん、それはないよね? ボク、ドン引きされたら落ち込んでしまうのだが……」
「あ、は、はい、大丈夫ですよ……」
絵菜が慶太先輩のことをちょっと怖いと言っていたのは、口が裂けても言えないなと思った。
その時、あまり会話に参加していない人がいるのに気がついた。ふと隣を見ると、もうビールを呑んで焼酎に切り替えている成瀬先輩がいた。
「な、成瀬先輩も楽しかったですか……?」
「ふふふ、団吉くんとデートしちゃったけんね~、団吉くんもこんな可愛い女性を連れて歩いて、嬉しかったっちゃないと?」
な、なんと、もう成瀬先輩は出来上がっているではないか……あ、また焼酎をグラスに注いでいる。いつも以上にペースが早かった。
「えー! 蓮ちゃんと団吉くん、デートしたの~!? ずるいなぁ、あ、絵菜ちゃんが知ったら怒られるんじゃないの~?」
「ええ!? あ、いや、デートというか、一緒に見て回ったというか……あはは」
「ふふふ、団吉くん、いいんよ~、私でよかったらいつでもデートしてあげるけんね~」
そう言ってぐいぐい来る成瀬先輩だった……って、ち、近――
「まったく、蓮さんも団吉くんをからかうのはやめたまえ。団吉くんすまないね、許してやってくれたまえ」
「あ、はい、大丈夫です……あはは」
「あはは~、ねえねえ拓海くん飲んでる~? さっきからおとなしいけど、遠慮しちゃダメだよ~」
「え!? あ、大丈夫……飲んでるよ。みんな楽しそうで、つい見る側になってしまったっつーか」
川倉先輩に絡まれて、ちょっと恥ずかしそうにしている拓海だった。
「あっはっは、みんな楽しそうだな! これ、イカのフライと鶏の唐揚げだ。今日はこれもサービスするぞ!」
「えー! 大将いいの~!? ありがとう~! みんな食べよ~!」
大将が料理を持って来てくれた。僕もいただくことにする……おお、揚げたてで塩をちょっとつけて食べるとすごく美味しい。
「あ、すごく美味しい。拓海も食べた?」
「ああ、食べてるよ。ほんとだな、揚げたてでめっちゃ美味しいな!」
他にも色々な料理を前にして、先輩方もお酒がどんどん進むようだ。で、できればちゃんと帰れるくらいにしておいてほしいものだが、あまり言うのもよくないなと思って、黙っておくことにした。たぶんまた慶太先輩が送ってくれる……はず。あ、川倉先輩には拓海がいるか。
「ほんとに、二人は底なしだね。ボクはちびちびとしか呑めないから、なんかうらやましいよ」
「あはは~、慶太いいのよ、自分が呑める範囲で楽しむのが一番よ~」
「そうよ~、慶太くん、無理はしちゃいかんばい。代わりに私たちが呑むけんね~」
「か、代わりというのがよく分からないが……そうだね、自分のペースで楽しむことにするよ。団吉くんも拓海くんも、来年は一緒に呑みたいね」
「あ、はい、その時を僕も拓海も楽しみにしています」
そんな感じで盛り上がる僕たちサークルメンバーだった。本当に楽しい学園祭となった。また来年もみんなで一緒に楽しめるといいなと思った。
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