第92話「後輩たち」
学園祭二日目、今日も大学はあちこち賑やかだった。
飲食店、射的や輪投げなどのゲーム系、フリーマーケット、展示ものなど、色々見てると楽しい気持ちになるのは僕も一緒のようで、まぁこれもいい思い出になるのかなと思った。
「団吉さん、楽しんでますか?」
展示フロアの当番を終えた成瀬先輩がやって来て、僕に訊いてきた。
「あ、はい、高校の時も文化祭が楽しかったですが、それ以上に賑やかで楽しいなと思っていました」
「ふふふ、そうでしたか、そうだ、ちょっと一緒に見て回りませんか?」
「はい、そうしましょうか」
成瀬先輩と一緒に大学を見て回る。体育館で映像研究会と演劇サークルによる映画が流れていたので、観てみることにした。映画の自主製作か、それもまたすごいなと思った。舞台はこの大学のようで、色々な場所が映し出されていた。演技もなかなかうまい。僕は高校三年生の時の演劇を思い出していた。
「ふふふ、なかなか面白かったですね。みなさん色々やっているんですね」
「そうですね、映像というのも撮るのが難しそうだなと思いました」
その時、僕のスマホが震えた。RINEが来たようだ。送ってきたのは東城さんだった。
『団吉さん! 大学の学園祭に来たのですが、どちらにいらっしゃいますか?』
ああ、来てくれたのかと思って、昨日舞衣子ちゃんに言ったように『校門の先の広場にいてくれるかな? 迎えに行くよ』と返事を送った。
「すみません、高校の後輩が来たみたいなので、迎えに行きますね」
「ああ、そうなんですね、私もついて行ってもいいですか?」
「あ、はい、いいですよ」
成瀬先輩と校門近くの広場へ向かう。東城さんはどこかな……と探していると、僕を見つけたのか手を振っている東城さんと橋爪さんと梨夏ちゃんがいた。後ろには恥ずかしそうにしている天野くんと黒岩くんもいる。
「団吉さん、こんにちは! 遊びに来ました!」
「日車先輩こんにちは! こ、これが大学の学園祭ですか! 盛り上がりがすごいなー!」
「だんちゃんお久しぶり! 大学ってすごいねー! いろいろあるー!」
「ああ、みんないらっしゃい、来てくれてありがとう。みんな勉強は順調?」
「あ、はい、僕もなんとか日車先輩と同じ大学に通いたいと思っているので、頑張っています」
「うふふー、私も頑張ってます! 模試でも少し判定がよくなりました! 日車先輩、私を褒めてくれてもいいんですよ!?」
「だんちゃんだんちゃん、私も勉強頑張ってるよー! 褒めてくれてもいいよー!」
「あーっ、橋爪さんも梨夏ちゃんもずるい! 団吉さん、私もアイドル活動頑張ってます! 褒めてください!」
「え!? あ、み、みんな頑張ってて偉いね……って、ち、近――」
相変わらずぐいぐいくる東城さんと橋爪さんと梨夏ちゃんだった。
「さ、三人ともそこまでで。日車先輩困ってるから……」
「……す、すみません日車先輩、後で注意しておくっス……」
「ふふふ、団吉さんは後輩に愛されているんですね」
「あ、お、お恥ずかしいところを……あ、みんな、こちら成瀬先輩。サークルの先輩だよ」
成瀬先輩と後輩たちが挨拶をしていた。
「ふふふ、みなさん可愛らしいですね。そうだ、私と団吉さんで、みなさんをご案内しましょうか」
「あ、そうですね、そうしましょうか」
僕と成瀬先輩は後輩たちを案内することにした。まずは写真研究会の写真を見てもらおうと、研究棟へ向かった。展示フロアには拓海がいた。
「おっ、団吉、もしかして知り合いか?」
「ああ、うん、高校の後輩でね、せっかくだから写真を見てもらおうと思って」
拓海と後輩たちが挨拶をしていた……と思ったら、「日車先輩、日車先輩」と、橋爪さんが小声で話しかけてきた。
「あ、あの、印藤先輩……? か、カッコいいですね」
「ああ、拓海カッコいいでしょ。絵菜も同じようなこと言ってたなぁ」
「あ、沢井先輩もですか、でも、日車先輩もカッコよくなってますよ! 日車先輩のカッコよさは三百二十ポイントくらいありそう!」
「え!? ぽ、ポイントというのがよく分からないけど、あ、ありがとう」
なんだろう、急に恥ずかしくなってしまった。
「団吉さん、これはどこの写真ですか? 竹がすごく綺麗!」
「……ほんとっスね、なんか幻想的っス」
「ああ、伊豆に旅行に行ってね、その時の写真だよ」
「あ、なるほど、伊豆でしたか。こっちは大学近くの風景ですかね、日常の一枚って感じがして、いいですね」
東城さんと天野くんと黒岩くんが笑顔で写真を見てくれていた。僕は嬉しくなった。
「写真すごいですねー! あ、日車先輩の後輩になれたら、同じサークルに入るという手もあるな……キャー! 勉強頑張らないと!」
相変わらずテンションの高い橋爪さんだった。ま、まぁいいか。
「おっ、もしかして橋爪さんはうちの大学を受けるつもりなのかな?」
「あ、は、はい! 理工学部に興味があって、今頑張って勉強しているところで!」
「おお、そしたら俺や団吉の後輩になるかもしれないのか、勉強頑張ってね」
「は、はい! 頑張ります!」
カッコいい拓海を前にして、ちょっとだけ恥ずかしそうな橋爪さんだった。
「そうだ、天野くんも文学部に興味があるって言ってたよね」
「あ、はい、ほんとに合格できるかは分かりませんが……」
「あらまぁ、そしたら天野さんは私の後輩になるかもしれないのですね、ふふふ、来年が楽しみですね」
「は、はい、僕も頑張ります……!」
こちらもちょっと恥ずかしそうな天野くんだった。
「あ、そういえば黒岩くんは生徒会長になったんだよね、そっちも頑張ってる?」
「あ、はい、九十九先輩や天野先輩みたいにはできないっスが、自分らしくやれてるかなと……」
「うんうん、しょーりんも頑張ってるよねー、私がいい子いい子してあげよーか?」
「……まぁ、潮見さんがもっと頑張るべきじゃないっスかね」
「なにー!? しょーりん、生意気なこと言ってるー! こいつめー!」
そう言って梨夏ちゃんが黒岩くんをポカポカと叩いている。なんだか懐かしい光景だなと思った。
「ふふふ、みなさん可愛いですね。ここを見たら、他も色々と見て回ることにしましょうか」
成瀬先輩がそう言って、僕たちはまた一緒に大学内を見て回ることにした。あ、昨日の唐揚げのお店が今日も出ているな、僕は後輩たちの分を買ってあげることにした。妹だけでなく、後輩にも甘いのかもしれない。
それから美術サークルのオブジェやアートを見たり、特設ステージで行われていたダンスサークルのダンスなどを見ていた僕たちだった。楽しい時間はあっという間に過ぎていく。後輩たちも楽しんでくれているようで、よかったなと思った。
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