第90話「桐西祭」

 大学の学園祭当日となった。

 今日と明日はいつもの大学の雰囲気とは違って、お祭り模様だ。まぁ普段もけっこう明るく楽しい雰囲気はあるのだが、それ以上だなと思う。

 大学の校門のところに、『桐西祭』と大きな看板が出ていた。美術系のサークルが作ったものらしいが、すごいなと思った。

 僕は研究棟へ向かう。入口のところにサークルメンバーがいるのが見えた。


「おっ、団吉くんおはよー!」

「おはようございます。ついに当日になりましたね」

「やあやあ、おはよう団吉くん。そうなんだ、ボクはこの日が楽しみで夜しか眠れなかったよ!」

「慶太、それ当たり前だから……まぁそれはいいとして、今日明日とみんなで楽しむことにしようかー!」


 川倉先輩が声を上げると、みんなが「おー!」と反応した。


「ふふふ、亜香里先輩、写真の展示フロアはみんなで交代で誰かいるようにするんですよね」

「あ、そうそう、誰かいて案内することにしようねー。一応順番も決めていたけど、一番最初は私か、まかせといて!」


 川倉先輩がポンと胸を叩いた。


「よし、それじゃあ交代の時間までそれぞれ自由行動としようか! みんな楽しもうではないか!」

「ふふふ、みんなたくさん楽しみましょう!」

「そうですね、僕は妹たちが来ると言っていたので、待ちたいと思います」

「おっ、団吉の妹さんか、じゃあ俺は団吉についていってみようかな」

「ああ、うん、いいよ。大学広いから、校門のところで待ってみようかな」


 拓海と二人で大学の校門へ行く。RINEを確認するともうすぐ着くと連絡があった。みんなが来るのを待っていると、


「――あ、お兄ちゃん!」


 と、声がした。見ると絵菜と日向と真菜ちゃんと長谷川くんが来ていた。


「ああ、みんないらっしゃい。ようこそ桐西大学へ」

「私は入学式の時に来たもんねー! わぁ、たくさん人がいる!」

「なんか高校の文化祭思い出すな。あ、印藤、お久しぶり」

「ああ、沢井さんも来たのか! お久しぶり。こちらが妹さんかな?」

「ああ、僕の妹と、絵菜の妹と、僕の妹の彼氏さんだよ」

「あ、はじめまして! 日車日向といいます!」

「はじめまして、沢井真菜と申します。いつもお兄様がお世話になっております」

「は、はじめまして! 長谷川健斗といいます!」

「お、おお、はじめまして、印藤拓海といいます。みんな高校生かな、しっかりしてるなぁ」


 ちょっとビックリしていた拓海だったが、みんなとも楽しそうに話していた。


「そういえば、お兄様が撮った写真があるんですよね? 私見てみたいです」

「あ、お兄さん、僕もぜひ見たいです!」

「ああ、じゃあ写真の展示フロアに行ってみようか。みんなついて来て」


 僕たちはみんなで研究棟へと行く。みんなキョロキョロと大学を見回しているようだ。


「団吉、やっぱり大学って広いな……」

「そうだね、なんか学園祭の盛り上がりも高校の時以上で、ちょっと楽しい気持ちになっているよ」


 絵菜は何度かここに来たことがあるが、大学の広さに改めて圧倒されているようだった。

 研究棟へと行くと、川倉先輩が笑顔で迎えてくれた。


「おっ、団吉くんたちじゃない! あ、絵菜ちゃんだ! お久しぶりー!」


 川倉先輩はそう言って絵菜に抱きついていた。なんか高梨さんを思い出すな。


「あ、お、お久しぶりです……」

「あはは、絵菜ちゃん変わらず可愛いねー、団吉くんもこんな可愛い彼女がいて、にくいなー!」

「え!? そ、そうですかね……あはは。あ、こちら僕や絵菜の妹たちです」


 日向たちと川倉先輩が挨拶をしている。川倉先輩は「わぁ、みんな高校生かな、可愛いねー!」と言っていた。


「あ、みんな写真見て行って。僕たちサークルメンバーが撮った写真がたくさんあるから」


 そう言って僕はみんなを案内した。みんなが写真を見ながら「すごーい!」と言ってくれている。僕は嬉しい気持ちになった。


「まあまあ、お兄様たちはこんな素敵な写真を撮っているんですね!」

「ほ、ほんとだ、お兄さん、これとかすごいですね……空にいるみたい」

「ありがとう、僕と拓海はまだスマホで撮ってるんだけどね、もう少ししたら一眼レフでもほしいなぁと思っているところで」

「ふふっ、団吉もプロのカメラマンみたいになるんだな」

「いやいや、まだまだ先輩方に習わないといけないことは多いけどね。一通り見たら大学内を歩いてみようか」

「じゃあ俺は亜香里さんと交代しようかな、亜香里さん、代わるから行ってきて」

「あ、うん、拓海くんありがとー! じゃあ私と団吉くんでみんなを案内しようか!」


 みんなで大学内を歩いてみることにした。色々な出店があって、楽しい気持ちになる。


「あ、お兄ちゃん、たこ焼き食べたい!」

「ええ、また日向は食べるつもりなのか……まぁいいけど」

「やったー! お兄ちゃん大好き!」


 僕と日向のやりとりに、みんな笑った。やっぱり相変わらずだなと思われてそうだな……。


「あはは、団吉くんと日向ちゃんは仲が良いんだね、兄妹で仲が良いっていいねー」

「あ、そ、そうですかね、甘やかしすぎもよくないなと思っているのですが……あはは」


 みんなでたこ焼きを買って、中央の広場にあった特設ステージへ行く。今はお笑い研究会の漫才が行われているところだった。観客もなかなか多い。あちこちから笑い声が聞こえる。


「お笑いというのは高校の時はなかったな、なんか大学生って感じするな」


 僕の隣にいた絵菜が笑いながら言った。


「ほんとだね、そういえば高校三年生の時に演劇やったよね。あれもまぁいい思い出なのかな」

「うん、あれも楽しかった。最初団吉は嫌そうだったけど」

「ま、まぁ、そんなこともあったね……あ、これが終わったら軽音サークルの演奏があるのか」

「あれ? 団吉くんは二年生の時、可愛い女の子になったって慶太が言ってたよね? そっか、演劇もやったのかー、楽しそうだね」

「ああ!! か、川倉先輩、それはどうか忘れてください……」

「ふっふっふー、お兄ちゃんの可愛い姿、まだ持ってるもんねー、見せちゃおーっと!」

「ええ!? ひ、日向、それはやめてくれ……!」

「やだよーだ、いつも勉強しろとうるさいお兄ちゃんの言うことは聞けませーん」


 結局みんなにあの時の女装の写真を見せている日向だった。あああ、それは本当にやめてほしいのに……! 川倉先輩は「あはは、可愛いー! 団吉くん女の子でもいけそうだね!」と言っていた。そ、そんなことはないです……たぶん。

 そ、それはいいとして、みんなで学園祭を楽しんでいた。僕も楽しい気持ちになったので、まぁいいかと思うようにしよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る