第89話「準備」
大学の学園祭まであと一週間くらいとなった。
あちこちの学部、部活、サークルなどで準備が行われている。なんだか高校の時の文化祭を思い出すようで、懐かしい気持ちになった。
学園祭は今月末の土日、二日間行われる。もちろん大学の規模が大きいため、高校の文化祭よりもさらに賑やかで楽しいものになるのだろう。僕も楽しみにしていた。
今日はサークルメンバーが集まって、写真の展示の準備をしようと話していた。これまで大学内の風景や部活動の練習風景、サークルの一コマなど、大学の魅力が詰まった写真をみんなで撮ってきた。また、大学周辺の風景や伊豆旅行での素晴らしい景色の写真を展示する予定だ。
先輩方が一眼レフで撮った写真も見せてもらったが、僕が撮る写真とはまた違っていて、成瀬先輩が言っていたように見える景色は同じでも撮る人によって変わるのだなと思っていた。そういうのも写真のいいところだろう。
僕は講義が終わって研究棟へ向かう。部室に入ろうとすると、中からにぎやかな声が聞こえてきた。もうみなさんいるみたいだなと思ってドアを開けた。
「おお、団吉くんお疲れさま!」
「お疲れさまです。なんかみなさん盛り上がってましたね」
「そうなんだ! 今日は素晴らしいニュースがあるのだよ!」
「ふふふ、団吉さん聞いたらビックリするんじゃないでしょうか!」
慶太先輩と成瀬先輩が何やらニコニコしている。何かあったのだろうか。
「ん? 素晴らしいニュースとは……?」
「ふっふっふ、でもボクが話すわけにはいかないね、さぁ亜香里先輩、団吉くんにも報告してくれたまえ!」
「な、なんで慶太はそんなにテンション高いのよ……あ、あのね、実は私と拓海くん、お付き合いすることになってね……」
「そ、そうなんだ団吉、あ、あ、亜香里さんとお付き合いすることになって……って、なんか恥ずかしいな」
な、なるほど、川倉先輩と拓海がお付き合いすることになったのか。それはたしかに素晴らしいニュースだ。
「あ、そうなんですね、おめでとうございます……って言うのも変なのかな、すいません、やっぱりこういう時どう言えばいいのか分からなくて」
「えへへ……団吉くんありがとね、背中押してもらって、勇気が出たよ」
「お、俺も団吉にお礼が言いたくて……ありがとう。めっちゃ緊張したけど、団吉がいてくれてよかったよ」
「あれ? なんかその様子だと、団吉くんは二人のことを知っていたみたいだね?」
「あ、は、はい、実は二人から話を聞いていて……」
「あらまぁ、そうだったんですね。団吉さん、なんで隠してたんですか~、もっと早く教えてくれたらよかったのに」
「え!? い、いや、僕から話したらよくないよなと思って……って、ち、近――」
成瀬先輩がぐいぐいと僕に迫ってきた。今日もメガネが似合っていて可愛いな……って、ぼ、僕は何を考えているのだろう。
「まあまあ、団吉くんにみんなには内緒でって言ったの私だからさ、ごめんね団吉くん」
「あ、い、いえ、でもほんとよかったです。これからも二人仲良くしてください」
「あ、ありがとー、ちょっと恥ずかしいんだけどね。ああ、今日はそんな話で終わるんじゃなくて、もうすぐ学園祭だから、準備しないとね」
「おお、そうだった。素晴らしいニュースで忘れるところだったよ、学園祭もしっかり楽しまないとね!」
「そうですね、あ、そうだ、亜香里先輩と拓海さんのツーショットの写真を飾るのはどうでしょうか?」
「え!? い、いや、成瀬先輩、それはさすがに恥ずかしすぎるっつーか……」
恥ずかしそうに俯く川倉先輩と拓海を見て、僕たちは笑ってしまった。
「は、蓮ちゃん、それはやめておこうか……ていうか、だいたい現像はできてるんだよねー、あとはここの一階の玄関と、展示フロアにいい感じに飾っていこうかー」
川倉先輩が現像された写真を取り出した。おお、サイズが大きいものは迫力があるな。画面で見るのとはまた印象が違う感じがした。
「おお、この小室山公園の山頂の景色、すごいですね」
「そうなんだ! これはボクが撮った写真だよ! なかなかいい感じだよね!」
「ふふふ、こっちの拓海さんが撮った部活動の風景も素敵ですね」
「あ、ありがとうございます。こうして見るとスマホでも綺麗に撮れるんだなって分かったっつーか」
「そうそう、拓海くんが言う通り、スマホの写真もいい感じだよね。けっこう枚数あるからさ、みんなでいい感じに飾っていってー」
僕も写真を持って、話し合いながら展示フロアの壁やパーテーションに飾っていった。この写真研究会のロゴや説明文は川倉先輩が書いたのかな、ポップな感じに仕上がっていた。
「おお、なんかいいですね、実は高校の文化祭でも展示ものってやったことがなくて」
「ああ、そーなんだねー、団吉くんは高校の時どんなことやったの?」
「ふっふっふ、みんな驚かないで聞いてくれたまえ、団吉くんは二年生の時、それはそれは可愛い女の子に大変身して、たくさんの人を魅了していた――」
「わ、わーっ! 慶太先輩、それ以上は言わないでください……!」
「えっ、なになに、団吉くんが可愛い女の子に変身!? 慶太、もっと聞かせて!」
「そうなんですか! まあ団吉さんは可愛いから、なんか分かる気がしますね」
先輩方が楽しそうに僕のことを話している。そう、僕は高校二年生の時、文化祭で女装をしてみんなの前に出たのだ。う、うう、あれはこれまでの人生で一番恥ずかしい出来事かもしれない……。
「あはは、団吉もなんだかんだで高校生活楽しんでたみたいだな」
「う、うう、あれは特級呪物として封印しておきたかったのに……」
「まあまあ、団吉くんいいではないか! それも高校生活の楽しい思い出の一つだよ。そして、大学の学園祭でも楽しい思い出を作っていこうではないか!」
慶太先輩にポンポンと肩を叩かれた。ま、まぁそうだな、あれも思い出の一つだということにしよう。
そして、大学の学園祭もいい思い出になるように楽しんでいこうと、飾られた写真たちを見ながら思った僕だった。
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