第87話「数学検定」

 数学検定を受験する日がやって来た。

 僕はこれまで学校のテストの時と同じく、しっかりと準備を行ってきたつもりだ。合格率は低いようだが、なんとか合格したいという気持ちが大きかった。

 大学で拓海と待ち合わせにしていたので、僕は大学へと行く。校門のところに拓海がいるのが見えた。


「おはよー、ついに本番になってしまったなー」

「おはよう、ほんとだね、なんか受験の時や、免許取った時と同じく緊張してるよ」

「団吉もか、俺もだ。受けるからにはなんとか合格したいしなぁ。それじゃあ行こうか」


 拓海と電車に乗って、都会へ行く。試験は都会にあるビルで行われる。いつもの場所ではないところがより緊張する。


「団吉は勉強順調だったか?」

「まぁ、それなりにできたんじゃないかとは思うけどね。合格率が低いってことは、けっこうひねっている問題もあるんだろうなと思っていたよ」

「そうだなー、簡単にはいかないんだろうな。まぁでも合格するって信じないとな」


 その時、僕のスマホが震えた。見ると絵菜からRINEが来ていた。


『団吉おはよ、今日試験だよな』

『おはよう、うん、今拓海と会場に向かっているところだよ』

『そっか、団吉なら合格できるから、大丈夫』

『ありがとう、なんとか精一杯頑張ってくるよ』


 絵菜が『頑張れー』というプラカードを持った猫のスタンプを送ってきた。絵菜も応援してくれているのだ。なんとか頑張りたいところだ。


「おっ、もしかして沢井さんと話してるのか?」

「あ、バレたか……うん、試験のことは話していたので、応援してもらったよ」

「あはは、いいなー二人ともラブラブだなぁ。あ、もうすぐ電車降りなきゃな」


 僕たちは都会に着き、しばらく歩いて行く。十分くらい歩いたところにビルはあった。中に入り受付を済ませて、自分の席はどこだと確認する。


「俺はちょっと離れたところみたいだ。よし、じゃあ頑張ろうぜ」

「うん、あ、そうだ、これやっておかない?」


 僕が右手を出すと、拓海も右手を出してグータッチをしてくれた。よし、気合いが入った。頑張れそうな気がした。



 * * *



 数学検定は一次の計算技能検定、二次の数理技能検定が行われる。一次が六十分、二次が百二十分で、合格基準は一次が全問題の七十パーセント前後、二次が全問題の六十パーセント程度らしい。準一級は高校三年程度の問題が五十パーセント、高校二年程度の問題が四十パーセント、それ以外の特有の問題が十パーセントで構成されている。この緊張感は受験の時を思い出す。僕は計算ミスに気をつけながら問題を解いていった。

 試験が終わった。それなりに解けたと思うのだが、どうだろうか。ふーっと息を吐いていると、拓海がやって来た。


「お疲れー、どうだった?」

「お疲れさま、まぁそれなりに出来たような気がするけど、どうかな……拓海はどうだった?」

「さすが団吉だな。俺もまぁそこそこ分かったっつーか。これでなんとか合格していればいいんだけどなぁ」

「そうだね。あ、ちょっと遅くなったけどお昼何か食べに行かない?」

「お、そうだな、せっかくこっちまで来たし、近くのお店にでも行くか」


 僕たちはビルを離れ、近くにあった定食屋に入ることにした。そこそこ人はいたが待つことなく席に座ることができた。僕は牛カルビ焼肉定食、拓海はステーキ定食を選んだ。


「いやー、高校生までの内容とはいえ、なかなか難しかったなぁ」

「そうだね、計算ミスしてないかちょっと気になったよ。あの内容だったら合格率が低いのもなんか分かるかも」

「そうだなー、まぁこれが最後ってわけじゃないし、気楽に考えておいてもいいのかもな」


 拓海と話していると、注文していた料理が運ばれてきた。おお、鉄板が熱くなっていてジュージューと音を立てている。お肉が美味しそうだ。


「いただきます……あ、美味しい」

「おお、俺のステーキも美味しいよ。けっこう量もあるな」

「そうだね、あ、話変わるんだけど、試験が終わったら川倉先輩と出かけるって前言ってなかったっけ?」

「あ、ああ、今度の水曜日、俺も川倉先輩も講義は午前中で終わるから、午後から二人で出かけてみようかって話になってさ……って、は、恥ずかしいな……」

「ああ、そうなんだね。うん、いいんじゃないかな」


 そういえば拓海の想いも、川倉先輩の想いも僕は聞いていたのだった。お互いがサークルの先輩後輩ということで、それ以上の感情はないのではないかと不安になっていた。大丈夫だよと喉まで出かかったが、これは僕が言ってはいけないことだ。ぐっと飲み込んだ。


「あ、ああ、二人きりってなかなかないからさ、かなり緊張しそうだなって……」

「まぁそんなもんだよ。僕も絵菜と初めてデートした時は緊張して心臓が口から飛び出すかと思ったよ」

「あはは、そうなんだな、まぁでも、いいデートになるといいなと思ってな」

「うん、肩の力抜いて、いつも通りにね。そうすればきっと川倉先輩も分かってくれるよ」


 美味しい定食をいただいた後、お茶を飲んでいると拓海がスマホをポチポチと操作していた。


「あ、もしかして川倉先輩とRINEしてる?」

「あ、ああ、『試験お疲れさまー』ってRINEが来てたからさ、返事していたとこだ」

「そっかそっか、なんかいいよねそういうの。応援してもらったら頑張れるというか」

「そうだな、団吉も沢井さんにRINE送らなくていいのか? きっと今頃気にしてると思うぞ」

「あ、そ、そうだね、ちょっと送ってみるよ」


 僕はスマホを取り出して、絵菜にRINEを送ることにした。


『試験が終わったよ。ちょっと緊張したよ』


 忙しいかな……と思ったが、すぐに返事は来た。


『お疲れさま。問題は解けたのか?』

『うん、ちょっと難しかったけど、なんとか出来たんじゃないかなと思うよ』

『さすが団吉だな。朝も言ったけど、団吉なら大丈夫だ』

『ありがとう。あとは合格しているように祈っておこうかな』


 絵菜が応援してくれたので、僕は嬉しい気持ちになっていた。拓海もきっと同じような思いだろう。


「よし、じゃあ帰るか、あ、そうだ、俺のデートがうまくいくようにさ、さっきのあれやってくれないか?」


 そう言って拓海が右手を出してきたので、僕も右手を出してまたグータッチをした。うん、拓海も川倉先輩も、頑張ってほしいなと思った。

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