第84話「試験後」

 日曜日の夜、僕は夕飯を食べた後、のんびりしていた。

 数学検定の日が近づいている。これまで僕も拓海もきちんと準備をしてきたが、いざ本番となると緊張しそうだなと思った。大学受験の時を思い出す僕だった。後でまた勉強しておこうかな。

 試験といえば、今日は絵菜がネイリストの試験だと言っていた。もう終わっただろうが、どうだったかなと気になった。

 RINEでも送ってみるか……と思っていると、


「お兄ちゃん、そういえば絵菜さん今日試験だったんだよね、大丈夫だったかなぁ」


 と、日向が訊いてきた。気になっていたのは日向も一緒のようだ。


「ああ、うん、絵菜も頑張っていたからたぶん大丈夫だとは思うけど、気になるね。ちょっとRINE送ってみようかな」


 僕はそう言ってポチポチとスマホを操作する。


『こんばんは、試験お疲れさま。どうだった?』


 忙しいかな……と思っていると、すぐに返事は来た。


『ありがと。なんとか出来たと思うんだけど、どうかな……』

『そっか、なんとか出来たならよかったよ。あ、ちょっとビデオ通話できないかな? こっちには日向もいるけど』

『あ、うん、こっちも真菜がいる』


 日向に絵菜と真菜ちゃんとビデオ通話するよと伝えると、僕の横にやって来た。僕が絵菜に通話をかけると、すぐに出てくれた。画面に絵菜と真菜ちゃんが映っている。


「も、もしもし」

「お兄様、日向ちゃん、こんばんは!」

「絵菜さん、真菜ちゃん、こんばんは!」

「もしもし、こんばんは。さっきも言ったけど、絵菜お疲れさま。ちゃんと出来たみたいだね」

「あ、うん、ありがと。真菜もモデルでいてくれたから、心強かったというか、ちょっとホッとしたというか」

「ああ、なるほど、モデルさんが真菜ちゃんだったんだね。爪に手を加えないといけないから当然か……」

「ふふふ、お姉ちゃん緊張していましたが、テキパキとこなす姿がカッコよかったです! お兄様にも見せてあげたかったです」

「ま、まぁ、教わったことを思い出しながら、ちゃんと出来た……はず」


 絵菜がちょっと恥ずかしそうにしていた。


「そっかそっか、絵菜も頑張っていたからね。きっと合格してるよ」

「うん、ありがと。そうだといいけどな……あ、日向ちゃん、練習させてくれてありがと。あとお母さんも」

「いえいえー! 私も絵菜さんの役に立ったんだなーって思うと、嬉しいです!」

「ふふふ、絵菜ちゃんお疲れさま。頑張ったのね。合格してるから大丈夫よ」


 いつの間にか母さんが僕たちの後ろに来ていた。


「あ、こんばんは、お母さんも練習させてもらってありがとうございました」

「お母さん、こんばんは!」

「ふふふ、こんばんは。絵菜ちゃんも一歩ずつプロに近づいているわね。お母さん嬉しいわー。絵菜ちゃんがプロになったら、行かせてもらおうかしら」

「あ、はい、ぜひ……まだまだ先のことですが」

「絵菜さん、私も大人になったら、絵菜さんに爪を綺麗にしてもらいたいです!」

「うん、日向ちゃんもぜひ。日向ちゃんの爪も綺麗だから、やりがいがある」


 日向が自分の爪を見ながら「えへへー」と嬉しそうだった。やはり爪にも個人差があるんだろうなと思った。


「そうだ、池内さんと鍵山さんも試験受けたんだよね?」

「うん、あの二人も自分なりに出来たと言っていたけど、ちょっとドキドキみたい」

「そっか、三人でなんとか合格出来ているといいね」

「うん、あ、そういえば団吉、前に聞いたけど団吉も試験が近いんじゃなかったっけ……?」

「ああ、うん、来週の日曜日に数学検定を受けるつもりだよ。今頑張って勉強してるところだよ」

「そっか、数学なら団吉は大丈夫だ」

「うーん、それが高校三年生までの範囲とはいえ、合格率がけっこう低いみたいなんだよね……大丈夫かなぁと心配で」

「お兄様、大丈夫です! お兄様なら数学の神様ですし、解けない問題はないです!」

「そうだよねー、お兄ちゃんなら全問正解できるんじゃないかなー」

「い、いや、さすがにそれは無理だと思うよ……でもありがとう。なんか応援してもらえると勇気が出るよ」


 数学検定の準一級は高校三年生レベルとはいえ、合格率がそんなに高くなく、けっこう厳しい試験であることは間違いないようだ。引っかかるような問題が多いのかな、数学は得意な僕だが、本当に合格できるのかとちょっとドキドキだった。でもこうしてみんなに応援してもらうと、さっき言った通り勇気が出るというものだ。


「ふふっ、団吉なら絶対に大丈夫。あ、ごめん、母さんが呼んでるので、このへんで……」

「ああ、うん、それじゃあまたね」

「お兄様、日向ちゃん、おやすみなさい!」

「絵菜さん、真菜ちゃん、またねー!」


 通話を終了した。そっか、絵菜も頑張っているのだなと思うと、なんだか嬉しい気持ちになる。

 その時、僕のスマホが鳴った。RINEが送られてきたみたいだ。送ってきたのは拓海だった。


『お疲れー、団吉は数学検定の勉強してるか?』

『お疲れさま、今ちょっと絵菜と通話してたよ。絵菜も今日ネイリストの試験だったので』

『おーそうなのか、沢井さんはネイリストの勉強してるんだな、すごいなー』

『うん、なんか絵菜が頑張っているのを見ると、僕も頑張ろうと思えるというか』

『そうだよなー、なんかそういう関係性っていいなーと思うよ。お互い刺激になるっつーか』

『そうだね、あ、川倉先輩とは話したりできてる?』

『あ、ああ、検定が終わったら一緒に出かけてみようかなと思ってるよ。なかなか緊張しそうだが……』


 僕はその言葉を見て、嬉しい気持ちになった。そうか、二人で出かけるのか。もしかして告白とか……それは早すぎるのかな。


『そっか、うん、いいんじゃないかな。緊張するかもしれないけど、いつも通りでね』

『そうだな、頑張ってみることにするよ。ああごめん、一応試験勉強しておくよ』

『うん、僕も勉強しておこうかな。それじゃあまた大学で』


 拓海とのRINEを終えて、そうだ、僕も負けないように勉強しておかねばならないなと思った。その前にお風呂か。色々なことを考えながら、僕はゆっくりとお風呂に入ることにした。

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