第82話「写真撮影」

 十月になり、夏の暑さは少しずつやわらいでいき、過ごしやすい日が出てきた。秋とはこのことかと思っていた。

 今日は講義が終わってから研究棟に行くことにしている。もちろんサークル活動なのだが、今月末に大学の学園祭が控えている。僕たち写真研究会も写真の展示を行うことにしていた。そのための写真撮影や写真のまとめをみんなで行おうと話していた。

 講義をみっちりと受け、僕は急いで研究棟へ向かう。部室に行くと、先輩方も拓海ももう来ていたようだ。


「おっ、団吉くんお疲れさまー」

「お疲れさまです。すみません遅くなりました」

「いやいや、大丈夫だよー、講義もちゃんと受けないといけないからねー」


 川倉先輩が笑顔で言った。そういえば川倉先輩の気持ちを聞いていたのだった。みんなには内緒というのがまたドキドキしてしまう。でも僕が勝手に話すわけにはいかなかった。


「やあやあ、団吉くんお疲れさま。これでみんな揃ったね、亜香里先輩、今日はどうするんだい?」

「ああ、学園祭の準備ということでみんなに集まってもらったけど、今日はまた大学の風景を撮りに行ってみようかー」

「そうですね、部活やサークルの普段の活動風景を撮るのもいいんじゃないでしょうか!」


 先輩方が楽しそうに話している。先輩方はカメラを持っているが、僕と拓海はスマホしかない。それでもいいのかなと思った。


「あ、あの、僕はスマホしか持っていないのですが、それでもいいのでしょうか……?」

「あ、俺も一緒です。早くカメラがほしいんですが、なかなかお高い買い物なのでもう少しかかりそうっつーか」

「ああ、大丈夫だよー、前にも話した通り、スマホのカメラでも綺麗に撮れるからね。団吉くんも拓海くんも気にしないでガンガン撮っちゃってー」

「ああ、亜香里先輩の言う通りだ。団吉くんも拓海くんも、気にしないでくれたまえ! ボクも頑張っていい写真を撮るからね!」

「そうですよ、スマホでもなんでも、その人にしか見えない景色があるものです。そっちを大事にしましょう」


 な、なるほど、たしかに先輩方の言う通りかもしれない。この前の旅行の写真でも思ったように、同じ景色でも撮る人によって写真の雰囲気は変わってくる。それはカメラでもスマホでも関係ないのだろう。


「それじゃあ行ってみようかー、まずはグラウンドで活動している部活動の練習風景でも!」


 川倉先輩が元気な声を上げて、みんなが「おー!」と反応した。僕たちはグラウンドへ行く。ちょっと遠いので途中の建物や花壇など、みんなで写真を撮りながら移動した。

 グラウンドでは、野球部、サッカー部、陸上部が練習を行っているみたいだ。川倉先輩がそれぞれの部活の代表と話して、写真を撮らせてもらう許可をもらっていた。みんな快く引き受けてくれたみたいでホッとしていた。

 僕も練習風景を見ながら写真を撮った。みんな元気な声を出していて、部活動とはこういうものかと思っていた。そういえば高校時代も火野や中川くんや高梨さんが練習するところを見せてもらったことがあったが、みんな声を出していたなと思い出した。

 野球部のバッティング練習、サッカー部のパスの連携の練習など、動きがあってなかなか撮るのが難しいが、それなりにいい写真が撮れている気がする。


「団吉、どんな感じだ?」

「ああ、動きがあってなかなか難しいけど、連写してみるといいタイミングで撮れている気がするよ」

「おお、ほんとだな、俺も連写してみようかな、なかなか一発で撮るのは難しいよな」


 拓海とそんなことを話しながら写真を撮る。先輩方もカメラを構えていい写真を狙っているのだろう。やはり一眼レフがうらやましいなと思った。今度どんなものがあるか先輩方に訊いてみてもいいな。


「うん、なかなかいい感じに撮れたんじゃないかなー。じゃあ次は体育館に行ってみようかー」


 部活動のみなさんにお礼を言って、今度は体育館へと移動した。体育館も大きく、フロアが二階に分かれていた。一階で剣道部、柔道部、卓球部が活動していて、二階でバスケ部、バレー部が活動しているみたいだ。

 また川倉先輩がそれぞれの部活の代表と話して、写真を撮らせてもらう許可をもらった。こちらも元気な声が聞こえてくる。僕はそんなに運動ができるわけではないが、素人ながらもみんなの気合いというか迫力を肌で感じていた。

 ここでも連写をすることで動きのある風景を写真に収めることができていた。うん、このバスケのシュートシーンなんかいいんじゃないかな。


「団吉さん、いい写真が撮れましたか?」

「あ、はい、これとかシュートの瞬間が撮れていいんじゃないかと」

「どれどれ……ああ、ほんとですね。ふふふ、団吉さんも写真を撮るのがうまくなっていますね」

「いえいえ、まだまだ先輩方にはかなわないですよ。あ、今度一眼レフのおすすめを教えてもらってもいいですか?」

「ああ、はい、もちろん。私と亜香里先輩と慶太くんがしっかりと教えてあげますよ」


 成瀬先輩と話しながらバレー部の風景を写真に収めていた。おお、スパイクが迫力あるな。スピードがあって撮るのが難しいが、ジャンプして打つ瞬間を撮ることができた。


「よしよし、いい感じに撮れたかなー、みんなどう? 撮れてる?」

「ああ、ボクも張り切って撮りまくったよ!」

「ふふふ、私も部活動のみなさんが頑張る姿をしっかりと撮ることができました」

「僕もいい感じに撮れたかなと思います」

「あ、俺も連写を使っていい瞬間が撮れたんじゃないかなと」

「そっかそっかー、よし、そしたら部室に戻ってみんなの写真をまとめることにしようかー。現像するのはまたこれから少しずつ選んでいくということで。月末までしっかりと頑張ろうねー!」


 川倉先輩が声を上げると、またみんな「おー!」と反応した。それから部室に戻り、川倉先輩のパソコンにみんなの写真を送っていた。みんながどんな写真を撮ったのか見るのも楽しみだ。

 今後、今日は行けなかった文化サークルなどに行って、普段の活動風景を撮らせてもらうことにしようと話していた。他の部活動やサークルのことも知ることができて、僕は楽しい気持ちになっていた。

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