第80話「ただいま」
九月末の木曜日、今日はついに日向が修学旅行から帰って来る日だ。
ここ数日家には母さんと僕とみるくだけということで、不思議な感じがしていた。まぁいつも元気な日向がいないのだ。家が静かになったというか、ちょっと寂しい気持ちになっていた。
でも僕も日向も将来この家を出て行くことがあるかもしれないのだ。このくらいで寂しいと思っていてはいけないなと思った。
「もうすぐ日向帰って来るわね、『空港に着きました!』ってRINE来てたから、学校に向かっている頃かしら」
「そうだね、もう少ししたら学校に着くんじゃないかな」
「ふふふ、それにしても日向一人がいないだけでも静かね、なんかちょっと寂しい気持ちになっちゃったわー」
「ああ、うん、僕も同じようなこと思ってたよ。今までずっと一緒だったからなぁ」
母さんと二人で話しながらのんびりしていると、玄関から「ただいまー!」という元気な声が聞こえてきた。日向が帰ってきたみたいだ。
「日車日向、ただいま帰りました!」
スーツケースを引き、ビシッと敬礼をする日向だった。みるくが「みゃー」と鳴きながら日向の元へ行った。日向は「みるくーただいまー!」といいながらみるくの頭をなでている。
「お、おう、おかえり。楽しかったか?」
「うん! オーストラリアってすごいところだねー、街並みも日本とは全然違うし、外国なんだなって思った!」
「ふふふ、おかえり。日向もいい経験ができたみたいね、よかったわね」
「うん! あ、空港でなんとジェシカさんに会ったよ! お兄ちゃん私が行くこと教えてたの?」
「あ、そうなんだね、うん、日向が行く話はメールでしてたんだけど、そっか、空港まで来てくれたのか」
「うん! 会えたのは少しだったんだけど、『久しぶりー』ってジェシカさん笑顔だった! 写真も撮ってきたよ!」
そう言って日向が写真を見せてくれた。おお、ほんとだ、ジェシカさんと二人で写っている。
「おお、ほんとだね、あ、この写真僕に送ってくれないかな? 相原くんに送ってあげたくて」
「あ、そうだね! 相原さんにぜひ送ってあげて! ジェシカさんはみんな元気かなって言ってたよ。あとこれお土産! 真菜ちゃんと健斗くんと梨夏ちゃんと黒岩くんからも預かってきたんだー。お兄ちゃんに渡してほしいって」
日向が大量のお土産を僕に渡して来た。
「え!? そ、そんなに? あ、ありがとう、お礼言っておかないとな……」
「ふふふ、団吉も後輩に愛されているわね。あ、これ団吉も買ってきたクッキーじゃないかしら」
「あ、ほんとだ、じゃあみんなで食べようか」
ピロローン。
その時、僕のスマホが鳴った。RINEが来たみたいだ。送ってきたのは絵菜だった。
『団吉、日向ちゃん帰ってきた?』
『ああ、うん、さっき帰ってきたよ。真菜ちゃんも帰ってきたかな?』
『うん、真菜もさっき帰ってきた。あ、ちょっとビデオ通話できないかな?』
『あ、うん、いいよ、四人で話そうか』
絵菜がビデオ通話したいと言っていると日向に伝えると、日向が僕の横にやって来た。少し待っているとかかってきたので、僕は通話に出た。画面に絵菜と真菜ちゃんが映っている。
「も、もしもし」
「お兄様、日向ちゃん、こんばんは!」
「絵菜さん、真菜ちゃん、こんばんは!」
「もしもし、こんばんは。真菜ちゃんもお疲れさま。修学旅行楽しかった?」
「はい! もう絶景だらけでたくさん写真撮ってきました! さっきお姉ちゃんと少し見てたところで」
「そっか、よかったよかった。あ、真菜ちゃんお土産ありがとう、僕の分までもらってしまって……」
「いえいえ! お兄様からももらっていたので、これくらい当然です」
真菜ちゃんがニコッと笑顔を見せた。姉に似て笑顔が可愛いな……と言うとだんだん変態くさくなるのでこのあたりでやめておこう。
「ふっふっふー、真菜ちゃんとクラスは違うけど、ホテルで夜にこっそり集まって女子の秘密の話したもんねー」
「うん! 楽しかったなぁ、やっぱり旅行といえばみんな集まらないとね!」
日向と真菜ちゃんが「ねー」と言っている。ま、まぁ、女子の秘密の話というのが気になるが、楽しかったのであればそれでいいか。
「あ、日向ちゃん、私の分までお土産ありがと……申し訳ない……」
「いえいえ! 絵菜さんからももらっていたので、ちゃんとお返ししたいなと思っていたので!」
「なるほど、絵菜の分のお土産は真菜ちゃんに渡していたのか……あ、そうだ、全然話違うけど、今度の土曜日に教習所の卒業検定を受けることになりそうだよ」
「あ、そういえば私も同じ日だ……これに合格すれば免許がもらえるんだよな」
「そうだね、仮免許の時と同じように、また三人で合格したいね」
そう、教習所の卒業検定が決まったのだ。これまで以上に緊張するが、やってきたことをちゃんと行えばきっと大丈夫だろう。
「そっかー、お兄ちゃんがついに免許を持つことになるのかー、さすがに車を買うのはもっと先だろうけど」
「まぁそうだな、さすがに車は社会に出てからになりそうだけど、四人でどこかに行けるといいね」
「まあまあ! お兄様とお姉ちゃんの運転か、きっと楽しそうです!」
「ま、まぁ、その前にちゃんと卒業検定に合格しないと……ちょっと緊張するけど」
その時、母さんが後ろから話しかけてきた。
「団吉も絵菜ちゃんも頑張ってるわねー、絵菜ちゃん大丈夫よ、今までやってきたことを忘れずにこなせばちゃんと合格できるわ」
「あ、お母さん、こんばんは!」
「あ、はい……ありがとうございます、頑張ります」
「ふふふ、日向も真菜ちゃんも修学旅行でいい経験したみたいだし、団吉と絵菜ちゃんはまた大人になっているし、お母さん嬉しいわー。でもやっぱり海外に行けるって今どきでいいわね……って、ちょっとおばさんみたいなこと言っちゃった、いやねー」
「ま、まぁ、僕もまたオーストラリアに行きたいなって思ってるよ、とてもいいところだったし」
「ふふふ、ということは団吉と絵菜ちゃんの新婚旅行はもう決まりね」
「え!? あ、まぁ、そうなのかな、そうかもしれないね……あはは」
僕と絵菜が同じように俯いていると、みんな笑った。うう、やっぱりこうなってしまうのか……。
その後も日向と真菜ちゃんが楽しそうに修学旅行の思い出を話していた。二年生はいい経験ができたのだな。僕も嬉しい気持ちになっていた。
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