第79話「話す機会」
「よし、例の作戦、実行しますか……!」
学校の授業が終わり、春奈が私にこっそりと話しかけてきた。
「あ、ああ、でもいいのかな、強引過ぎないか……?」
「大丈夫大丈夫、私たちが一緒ならいけるはずだよー」
「そ、そっか、じゃあ佑香に声かけないと……」
私たちが二人で話していることに気づいた佑香が、こちらを見てハテナを浮かべているようだった。
「佑香、この後ちょっと時間ある? また喫茶店に行かない?」
「……あ、うん、分かった」
「よーし、それじゃあ行きますかー!」
いつものように元気な春奈を先頭に喫茶店へ……の前に、私たちは寄るところがあった。
「……あ、あれ? どこ行くの……?」
「ああ、だいじょーぶ、ついて来てー」
私たちは美容科の教室の前に来た。中を覗いてあの人はいるかなと思っていると、
「……ちょ、ちょっと二人とも、ここって……」
と、佑香の顔がどんどん赤くなっていった。
「ああ、もちろんあの人はいないかなーってね。もう帰ったかな……」
「――あれ? 池内さんに鍵山さんに沢井さんじゃないか!」
そう言ってきたのは、小寺だった。私たちを見つけてニコニコ笑顔でこちらにやって来た。
「三人ともどうかした? ここ美容科だよ?」
「あ、ああ、ちょっと小寺、付き合ってくんないかな? そ、そこの喫茶店に」
あの出来事以降、春奈も少し小寺を見る目が変わったのだろうか、前のようなとげとげしさがなくなったなと思った。まだちょっと恥ずかしさみたいなものはあるみたいだが。
「あ、うん、いいよ。まさか三人に誘われるなんて思わなかったよ! 今日はめっちゃいい日だ!」
「ま、まぁ、そういう日もあるってことで……じゃあみんなで行こっか」
四人で学校の近くの喫茶店に行く。私と春奈、小寺と佑香に分かれて座った。ここまでは作戦通りだ。
そう、実は春奈とこっそりRINEで話していて、なんとか小寺と佑香が話す機会を作ってあげようと思っていた。さすがに一対一だと恥ずかしさがあると思ったので、私たちもいればちょっとは違うかなと。その佑香は顔を真っ赤にして俯いていた。
「それにしても、急にどうしたの? 何か話でもあった?」
小寺の頭の上にハテナが浮かんでいそうだった。まぁそうだよな、急に呼ばれたら何かあったのかと思うだろう。
「あ、小寺、夏休みはありがと。そのお礼と、佑香が小寺と話したいって言ってたから」
「……え、絵菜……それは……!」
「ああ、いえいえ、そんなに大したことはしてないよ。おっと、鍵山さんが俺と話したいのか! めっちゃ嬉しいよ。何でも話してね」
小寺が佑香の方を見るが、佑香は小寺を見ることができないようだ。注文していたジュースやコーヒーが運ばれて来ると、ジュースに何度も口をつけている佑香がいた。
「佑香、頑張って……」
私はそっと佑香に声をかけた。佑香は「……あ、う……」と言いながら、口を開いた。
「……こ、小寺……あの時はありがとう……そ、それと、よ、よかったらRINE教えてくれないかな……」
ぽつぽつと、小さな声で佑香が話した。RINEか、そうだな、いきなり告白というよりもRINEで色々な話をするのがいいだろう。
「ああ、RINEか、いいよ、ちょっと待ってね……はい、これが俺のRINEだよ」
小寺が佑香にスマホの画面を見せた。佑香は少し震えているだろうか、小寺のRINEを登録できたみたいだ。
「……あ、ありがとう……」
「いえいえ、あ、そうだ、せっかく四人いるから、池内さんと沢井さんのRINEも教えてくれないかな?」
「え!? わ、私たちもなの!? ま、まぁいいけど……」
春奈も恥ずかしそうにスマホを操作する。無事に四人とも登録できた。
「みんなありがとう。まさか鍵山さんにRINE教えてと言われるとは思わなかったよ! なんだろう、今日はお盆とクリスマスと正月が一気に来たような気分だね!」
「……あ、う、うん……」
いつも以上にうまく話せない佑香だった。顔が真っ赤になっているのは小寺も気づいているのだろうか。なんか気づいてなさそうだなというのは小寺に失礼だろうか。
「そ、そーいえばさ、以前話してたあの小寺の噂、本当に嘘なの……?」
「え、ああ、あれは嘘だよ! も、もしかしてまだみんな信じてたの!? 本当に嘘だからね!? 噂の一人歩きってやつだからね!?」
「そ、そっか……そ、それと、小寺は今、か、彼女とかいる……?」
「ん? 彼女はいないよ。あれ? どうしてそんなこと訊くの?」
春奈の問いかけに、小寺が不思議そうな顔をした。ま、まぁそうだよな、いきなり彼女がいるかなんて訊かれたらそんな顔になるだろう。
「あ、い、いや、私がどうなのかなって訊きたかっただけ。小寺もイケメンだし……」
慌ててフォローする私だった。
「ああ、そうなんだね! 沢井さんは彼氏がいたりするのかな?」
「あ、う、うん、一応いるというか、なんというか……」
「そうだったのか! なんでもっと早く言ってくれなかったの~、まぁ可愛い沢井さんだからね、彼氏さんもいて当然だよね!」
「あ、いや、まぁ、そんなに可愛いわけじゃないけど……」
私が少し慌てていると、みんな笑った。な、なんか今なら団吉の気持ちが少し分かる気がした。
「……そっか、小寺は彼女がいない……」
「うん、あ、池内さんと鍵山さんはどうなの? 二人も可愛いから彼氏がいそうな気がするんだけど」
「え!? あ、私もいないかなーなんて……昔付き合ったけど一瞬でフラれた……って、そんなこと思い出させるなーっ!」
「ガーン! な、なんで俺怒られてるの!? 鍵山さんはどう?」
「……あ、わ、私もいない……」
「そっかそっか、じゃあ三人は仲間だね! 独り身の寂しさがよく分かるよ」
「ああ、絵菜がうらやましい……って、う、うるさーい! わ、私だってそのうちいい人が!」
「な、なんか池内さん、一人ノリツッコミしてるね……そうだよね、俺らもきっといい人が現れるよ! ね、鍵山さん」
小寺がニコニコしながら佑香に話しかけると、佑香は「……あ、う、うん……」と恥ずかしそうにしていた。なんか佑香の気持ちを聞いた後だと、ドキドキするというか……以前の中川と富岡のことを思い出した。
それからしばらく四人で話して盛り上がった。春奈も佑香も以前のような嫌っている感じではなく、まだ恥ずかしさはあるようだが小寺と話すことができていた。よかったなと思った。
ずっと恥ずかしそうにしている佑香も、これから少しずつ小寺と距離を縮めていくことができたらいいなと、私は思っていた。
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