第77話「修学旅行」

 絵菜と真菜ちゃんがうちに来た次の日、日曜日の今日は、日向がウキウキだった。

 というのも、今日から日向たち高校二年生は修学旅行に行く。行き先は僕たちと同じくオーストラリアのケアンズだ。僕も二年前に行ったのを思い出していた。

 そういえばジェシカさんから先日メールが来ていた。どうやら相原くんとビデオ通話したらしく、『シュンの英語が少し上手になってた! すごいすごい! シュンも頑張ってるんだねー』と書かれてあった。そうか、相原くんも頑張っているのだな。

 メールのお返事に『今度の日曜日から日向が修学旅行でオーストラリアへ行きます』と書いておいた。そのお返事が昨日届いて、『ワオ! そうなんだね! ぜひ楽しんでもらいたいなー!』と書かれてあった。やはり懐かしいな……と思いながらリビングへ行くと、スーツケースを見ながらそわそわしている日向がいた。


「あああー、ついに当日になってしまったー! オーストラリアってどんなところだろー」

「お、おう、待ちきれないって感じだな」

「そりゃそうだよー、あああ、英語話せるかな、ジェシカさんみたいな綺麗な人に話しかけられたらどうしようー」

「ま、まぁ、スマホのアプリで調べられるし、何とかなると思うよ」

「そ、そうだね、お兄ちゃん、オーストラリアって下の方だよね?」

「し、下ってなんだよ、南の方だな、南半球だから、これから夏に向かって暑くなるのかな。まぁケアンズは一年中けっこう暖かいみたいだけど」


 どうも日向は地理も弱いようだな……と思っていると、母さんがニコニコしながらみるくを抱いて来た。


「ふふふ、日向も嬉しそうねー、二年前の団吉を思い出すわ」

「え!? こ、こんなにテンション高かったっけ……?」

「ふっふっふー、二人ともお土産期待しててね! みるくはいい子にしてるんだよー」


 みるくの頭をなでなでしている日向だった。

 三人で話していると、インターホンが鳴った。出ると真菜ちゃんと長谷川くんがスーツケースを持って来ていた。


「お、お兄さんこんにちは!」

「お兄様こんにちは! ついに私たちも修学旅行に行くことになりました!」

「こんにちは、二人とも嬉しそうだね」

「はい! オーストラリアのこと色々と調べていました! どんなところなんだろうと思って」

「僕も同じように調べてました! なんか楽しそうなところがいっぱいあって」

「あはは、なんか自分が行った時のこと思い出したよ。ていうか日向遅いな、まだ準備してるのだろうか――」

「――ああ! 真菜ちゃん、健斗くんこんにちは! なんか持って行くものが気になって見てしまった! さぁ行こうか!」


 僕と母さんが「いってらっしゃーい」と、三人を見送った。


「ふふふ、行ったわね、いい経験ができるといいわねー」

「そうだね、なんだか自分のことを思い出したよ。さ、さすがにあそこまでテンションは高くなかったと思うけど……」

「ふふふ、それにしても海外っていいわね、お母さんは高校の修学旅行は国内だったからねー、なんだかうらやましいわ」

「あ、そうなんだね、まぁケアンズもいいところだったなぁ、また行ってみたいよ」


 リビングに戻ってスマホを見ると、RINEが来ていたみたいだ。送ってきたのは絵菜だった。


『そっちに真菜行ったかな?』


 ああ、もしかして絵菜も気になっていたのかなと思って、僕は返事を送る。


『うん、さっき来て日向と長谷川くんと一緒に行ったよ』

『そっか、あ、ちょっと通話できないかな?』

『あ、うん、いいよ、ちょっと待ってね』


 母さんに「絵菜と通話してくる」と言って、僕は部屋へ行った。絵菜にかけると、すぐに出てくれた。


「も、もしもし」

「もしもし、さっき真菜ちゃんと長谷川くんが来て、三人で楽しそうに学校に行ったよ」

「そっか、真菜も昨日の夜からそわそわしてた。楽しみなんだなって思って」

「あはは、そうなんだね。なんか三人を見てると、自分のことを思い出したというか」

「うん、私も自分のこと思い出してた。もう二年前なんだな、時が経つのが早いな」

「ほんとだね、あっという間だなぁ。ああ、そういえばジェシカさんからメールが来てたよ。相原くんとビデオ通話したみたいで」

「そっか、相原も頑張ってるんだな」

「うん、オーストラリアに行くためにバイトも英語の勉強も頑張ってるみたいだね。僕もまた行きたいなって思ったよ」

「うん、あ、やっぱり新婚旅行というのもいいかもしれないな……」

「あ、な、なるほど、ししし新婚旅行か……」


 急に顔が熱くなってきた。でも、まだまだ先のことだろうが、そうなるといいなという思いもあった。


「あ、そういえばもうすぐ教習所は卒業検定を受けることになりそうなんだけど、絵菜はどう? 順調?」

「う、うん、なんとか順調……公道はドキドキするけど」

「そうだよね、僕もいつもドキドキしてるよ。今のところ大きなミスもないみたいだけど」

「さすが団吉だな。卒業検定って実技の後に学科があるんだっけ?」

「そうそう、学科は免許センターに行かないといけないみたいだね」

「そっか、一緒に行けるといいな……印藤も」

「うん、拓海も頑張ってるみたいだからね、また三人で一緒に合格できるといいね」


 この前拓海とも話していたが、教習所の卒業検定が近づいているのだった。これまで僕と絵菜と拓海はバイトとかぶらないようにしながら講習を受けて来た。仮免許の時と同じく、なんとかまた三人で合格できるといいなと思っていた。


「うん、また頑張ろ。あ、そうだ、今日からしばらく真菜がいないのか、ちょっと不思議な感じがする」

「あはは、うちも日向がいないからなぁ、母さんと二人というのもなんか変な感じがするよ」

「ふふっ、そうだよな、二年生のみんなが楽しめるといいけど」

「もうそろそろバスの中かもしれないね。あ、ごめん、ちょっと母さんが呼んでる気がするので、このへんで……」

「うん、じゃあまたRINEする」


 絵菜との通話を終了した。リビングに行くと母さんが買い忘れたものがあるとのことだったので、僕はスーパーへ出かけることにした。

 今頃日向たちはみんなで楽しくやってるかな、やはりどこか父親のような気分だが、オーストラリアを楽しんでもらいたいなと思った。

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