第76話「練習」
朝晩などちょっと気温も落ち着いてきたかなと思う今日この頃。
私は土曜日の今日、団吉の家に行くことにしていた。というのも、来月初めのネイリスト技能検定試験が近いので、お母さんや日向ちゃんと練習させてもらおうと思ったからだ。まぁもちろん団吉に会うのも目的の一つだが。
団吉は今日はバイトだと言っていた。もう少しかかるだろう。そんなことを考えながら真菜と一緒に団吉の家に行く。お母さんと日向ちゃんがいるから大丈夫だよと団吉から聞いていたので、先に行かせてもらうことにした。
団吉の家に着き、インターホンを押す。「はい」と聞こえてきたので、「あ、さ、沢井です」と言うと、「あ、ちょっとお待ちくださーい!」と聞こえてきた。日向ちゃんっぽいなと思っていると玄関が開いた。日向ちゃんが迎えてくれた。
「こ、こんにちは」
「日向ちゃん、こんにちは!」
「絵菜さん、真菜ちゃん、こんにちは! ささ、上がってくださいー!」
日向ちゃんに促されて上がらせてもらった。リビングに行くと、お母さんがいた。
「あらあら、絵菜ちゃんと真菜ちゃん、いらっしゃい」
「お、おじゃまします」
「お母さんこんにちは! おじゃまします」
「いえいえー、団吉から聞いたけど、絵菜ちゃんは試験が近いんだって?」
「あ、はい、そうなんです……今日はちょっと練習させてもらえたらと思って」
「ふふふ、そうなのね、絵菜ちゃんも頑張ってるのねー、偉いわ。団吉はもう少しかかりそうだから、ゆっくりしていってね。お茶とお菓子持ってくるわ」
お母さんがそう言ってキッチンへと行った。ほ、褒められるとちょっと恥ずかしいけど、嬉しいというか。
「絵菜さん、試験ってどんな試験なんですか?」
「あ、ネイリスト技能検定試験っていって、まだ三級という一番簡単な試験だけど、それでも初めてだからちょっと緊張してて」
「そうなんですねー、なんかすごいなぁ! 絵菜さんがどんどんプロに近づいてる!」
「ま、まぁ、まだまだだけど……あ、日向ちゃん、手貸してもらってもいいかな?」
「あ、はい! お願いします!」
日向ちゃんが私の隣に来て、手を差し出してくれた。日向ちゃんは背も小さいからか、手も小さくて可愛い。でも爪は大きくて綺麗だ。私は日向ちゃんの手を観察しながら、綺麗に磨いていく。ちょっと伸びているところがあったので、ヤスリで整えてあげた。
「……こ、こんな感じかな、あ、薄い色つけてみる?」
「わぁ! ピカピカになった! どんな色がありますかー?」
「このへんなら派手じゃないし、いいかなと思うけど、除光液持ってる?」
「あ、はい、持ってます! じゃあお願いします!」
そんな感じで日向ちゃんにカラーリングをしてあげた。日向ちゃんは「わぁ! 綺麗! ありがとうございます!」と言っていた。
「ふふふ、お姉ちゃんも嬉しそうだね」
「あ、そ、そうかな、顔に出てるのかな……」
「はい、お茶とお菓子どうぞ……って、あらあら、日向の爪が綺麗になってるわねー、私もしてもらおうかしら」
「あ、はい、ぜひ。どの色がいいですか?」
「そうねぇ、この赤い色とか落ち着いていていいわね、これにしようかしら」
今度はお母さんの手を借りる。お母さんは私より背が高いのもあって、手もシュッとしていて大きくて綺麗だった。爪の表面の油分を消毒用エタノールでふき取り、ベースコートをエッジから爪全体に塗っていく。その後表面にカラーポリッシュを丁寧に塗っていく。カラーを長持ちさせるためには薄く数回に分けて塗り重ねていくのがコツだ。最後にトップコートを全体に塗って完成となる。
「こ、こんな感じかな……いい色ですね」
「あらまぁ! これはいいわね、落ち着いた赤色でいい感じだわー、ふふふ、絵菜ちゃんありがとう」
「い、いえ、いつもお世話になっているので、これくらいは……」
その時、玄関の方から「ただいまー」という声が聞こえてきた。団吉が帰ってきたみたいだ。
「――ああ、絵菜と真菜ちゃん来てたんだね、いらっしゃい」
「あ、団吉おかえり、お疲れさま」
「お兄様おかえりなさい、バイトお疲れさまです」
「ありがとう、なんかみんな楽しそうだね」
「お兄ちゃん見て見て! 絵菜さんに爪綺麗にしてもらった!」
「お、おお、ほんとだ、薄いピンクの色が塗ってあるのかな? 綺麗だね」
「団吉おかえり、ふふふ、お母さんも絵菜ちゃんに綺麗にしてもらったわー、どう? 綺麗でしょ」
「あ、そうなんだね、ほんとだ、母さんのは落ち着いた赤色なのか、綺麗だね」
日向ちゃんもお母さんも嬉しそうな笑顔を見せた。団吉が勉強を教えて分かったと言ってもらえるのが嬉しいように、私もこうして人の役に立っているのが嬉しかった。まぁ今回は勉強の意味も兼ねているのだが。
「絵菜は試験が近いって言ってたよね、いつだったっけ?」
「あ、十月の最初の日曜日にある……今春奈と佑香と勉強頑張ってるとこ」
「そっかそっか、なんとか合格できるといいね」
「ふふふ、お姉ちゃん、うちでも私やお母さんの手で色々練習してるんです。頑張ってるからきっと大丈夫です!」
「あ、ま、まぁ、せっかく受けるならなんとか合格したいし……あ、団吉の爪も綺麗にしてあげようか」
「え、あ、僕もか、じゃあ、練習ついでにお願いしようかな」
団吉が恥ずかしそうに手を出して来た。団吉の手は男の人らしく大きく、指が長いのかもしれない。爪もけっこう綺麗だ。ちょっと伸びていたみたいなのでヤスリで整えながら、団吉の爪を磨いてあげた。
「こ、こんな感じかな、どうだろ?」
「おお、すごい、ピカピカ光ってるね、ありがとう。やっぱりなんか自分の手じゃないみたいだよ」
「ふふふ、お兄様、男の人でも手や爪が綺麗だと、なんだかカッコイイです!」
「あ、そ、そうかな、まぁ僕はカッコよくはないけどね……あはは」
恥ずかしそうにする団吉も可愛かった。
それからみんなでお菓子を食べながら話していた。みんなに話した通り、もうすぐ試験だ。なんとか頑張って合格したいという気持ちはあるので、私はひっそりと気合いを入れていた。
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