第75話「後期開始」
今日から大学の後期授業が開始される。
先日拓海とレポートを書いたので、そちらはバッチリだ。久しぶりに大学に行く。今日は二限からだったが、拓海も同じ講義を受けるみたいで、先に来ていた拓海が僕を見つけて手を挙げていた。
「おはよー、ついに夏休みが終わっちまったなぁ」
「おはよう、ほんとだね、ちょっと寂しいかも」
「俺も寂しいなーと思ってたよ。そういえば結局教習所は夏休み中に終わるのは無理だったな、まぁ俺らもバイトしてるから仕方ないところはあるっつーか」
「そうだね、でももう少ししたら卒業検定だよね、そっちも頑張らないと……」
「そうだなー、それが終わればついに免許を持つ事になるのかー、なんか不思議な感じがするっつーか」
そう、僕も絵菜も拓海も、教習所の卒業検定が近づいているのだった。公道で運転するのは未だにドキドキだが、今のところスムーズに運転できているのではないかと思う。このまま無事に試験に合格することを祈るのみだ。
「沢井さんも順調に進んでるのかな?」
「ああ、うん、時間がある時に実技も学科も受けているよ。なかなか難しいとは言っていたけどね」
「そっか、また三人で無事に合格したいよな」
拓海と話していると、先生がやって来た。講義が始まるみたいだ。僕は集中して講義を受けることにした。
* * *
「みんなお疲れさまー、後期が始まったねー」
研究棟の部室で川倉先輩の声が響く。今日は講義が終わってサークルメンバーが全員集まった。先輩方に会うのは旅行の時以来だったので、ちょっと新鮮だった。
「やあやあ、みんなお疲れさま。みんなは夏休み充実してたかい? ボクは後半はバイトで忙しかったよ」
「あ、慶太先輩は何のバイトしているんですか?」
「ふっふっふ、団吉くんよくぞ訊いてくれた、ボクは家庭教師のバイトをしていてね、中学二年生の女の子が学校の課題が終わらないと嘆いていたので、このボクが力になってあげたのだよ!」
「それ私は前も聞いたけど、慶太が家庭教師とか危ないと思わない? そのうちその女の子襲ってそうな気が」
「ええ!? そ、そんなことするわけないじゃないか! お母さんにもボクは気に入られているからね、まぁボクなら当然だよね!」
「それがなんか危なっかしいんですよね、お母さんも娘さんもパクっと食べてそうな気がしますね」
「ええ!? 蓮さんまで信用してないのかい? いやはや、二人とも厳しいね。これは彼氏なんて夢のまた夢――」
そこまで言って、女性二人にバシッと叩かれる慶太先輩だった。ま、まぁでも、家庭教師というバイトもいいなと思った。僕も教えることが好きだから、中学生や高校生相手ならできそうな気がする。
「おっと、慶太のことはいいとして、今日はみんなで旅行の時の写真を見ることにしようかー! プロジェクターも借りて来たからねー」
川倉先輩と慶太先輩がパソコンとプロジェクターを準備していた。先輩方はカメラとスマホの写真を、僕と拓海はスマホの写真をまとめて川倉先輩に送っていたのだ。おそらく川倉先輩のパソコンに全部入っているだろう。スマホの写真をまとめるのはちょっと時間がかかったが、一枚一枚を見ているとあの時のことを思い出して嬉しい気持ちになった。
「みんなの写真をまとめてるからねー、見ていくことにしようかー」
そう言って川倉先輩がポチポチとパソコンを操作する。まずは拓海の写真のようだ。おお、竹林の小径で撮られた写真がいい。地面スレスレから見上げるような感じで、竹林の迫力を感じることができる。
「おおー、拓海くんこんな写真撮ってたんだねー、いいねいいねー」
「あ、ああ、こういうアングルも面白いかなーと思ったっつーか……あはは」
川倉先輩が隣に座っていた拓海の腕をツンツンと突いている。拓海は恥ずかしそうにしていた。拓海の想いを聞いた後だと、なんか二人のやりとりにドキドキしてしまうというか……川倉先輩が振り向いてくれるといいなとひっそりと思っていた。
「うむ、拓海くんも成長しているのだね! ボクは嬉しいよ、ああこれもバラの花が綺麗ないい写真ではないか!」
「ほんとですね、やっぱり同じ景色を見ていてもそれぞれ違いますね。それも楽しいですね」
続いて先輩方の写真も見た。さすが一眼レフで撮っているだけあって、大きく映しても写真が綺麗だ。修善寺虹の郷での和の風景や、みんなが歩いているところの背中など、ふとした光景が写真に収まっている。なるほど、こういう撮り方もあるのだなと勉強になった。
「いいねいいねー……って、あ! 私と蓮ちゃんが呑み過ぎてうとうとしているところ! 撮ったの誰!?」
「ふっふっふ、もちろんボクさ、ボクも眠くなる前に二人を写真に収め――」
そこまで言って、女性二人にまたバシッと叩かれる慶太先輩だった。ま、まぁいいか、これもまたいい思い出だろう。
「まったく、慶太は余計なことするんだから……でも、これもいい思い出なのかもしれないねー」
「そうですね、あ、な、成瀬先輩が僕にくっついてるところだ……」
「わ、私こんなことしてたんですか!? ご、ごめんなさい団吉さん、嫌でしたよね……」
「あ、い、いえ、嫌ではないですよ、大丈夫です」
嫌ではないけど、くっつかれてドキドキしていたのは間違いない……成瀬先輩からふわっといいにおいがしたし……はい神様、変態な僕を捕まえてください。
「あはは、団吉もまんざらでもない顔してるな……あ、これは小室山公園の山頂ですね、すげー景色!」
「ああ、素晴らしい景色だね! 富士山も綺麗に写っているではないか!」
「ほんとだねー、山頂の空気は美味しかったなぁー、ねー拓海くん」
「え!? あ、そ、そうですね、気持ちよかったです……あはは」
川倉先輩に訊かれて、やはりちょっと恥ずかしそうにしている拓海だった。が、頑張れ……! と心の中で応援してしまった。
「こうやって色々な景色見てるとさー、やっぱりいいもんだよね。その時の思い出がリアルによみがえってくる感じでさー」
川倉先輩がそう言うので、みんなうんうんと頷いていた。写真を見ることでその時のにおい、肌で感じたこと、色々なことが頭の中によみがえってくる。いいものだなと思った。
その日は写真を見ながらみんなで盛り上がるのだった。やはり僕もそのうち一眼レフカメラを買おうかなと、心の中でひっそりと思っていた。
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