第73話「休日デート」

 九月になったが、もうしばらく暑い日が続くということで、そろそろ気温も落ち着いてくれないかなと思っていた僕だった。

 日曜日の今日は、絵菜とデートをする予定にしていた。僕はまだ夏休みが続いているが、絵菜が学校が始まったということで、じゃあ休みの日曜日にしようと話していた。バイトは二人とも今日は休みをもらっていた。

 日向に絵菜とデートすることを話すと、「いいなーデートかー、私は部活だよー」と言っていた。以前火野が言っていたように日向たちも二年生で部活の中心になっているだろう。頑張ってほしいなと思った。

 絵菜がうちまで来ると言っていたので、しばらく待っているとインターホンが鳴った。出ると絵菜が来ていた。


「ご、ごめん、身支度に時間がかかってしまった」

「ううん、大丈夫だよ、じゃあ行こうか」

「あらあらー、二人でお出かけ? いいわねー若いって……って、そんなこと言ってるとおばさんっぽいわね、いやねー」


 玄関に母さんがやって来てそんなことを言った。


「あ、お、おはようございます」

「あ、うん、たまには二人で出かけようかなと思って……あはは」

「いいのよ、今のうちに思いっきり遊んでおきなさい。遊ぶのも仕事のうちよ」

「そ、そっか、そうするよ。じゃあ行ってきます」


 母さんに「いってらっしゃーい」と見送られて、僕と絵菜は駅前へ向かう。絵菜は白いシャツに、薄いピンクのスカートをはいていた。前にデートした時と同じスカートかな、気に入っているのかもしれないなと思った。


「絵菜の格好、今日も可愛いね」

「あ、ありがと。このスカート気に入ってしまった」

「ああ、そうなんだね、似合ってていいんじゃないかな」

「ふふっ、団吉が女性を褒めるのがどんどん上手になってる……あ、それで他の女性が団吉を好きになるのも怖いな……ブツブツ」

「え、絵菜? なんかブツブツ言ってるけど……?」


 いつものように……というのも変だろうか、絵菜が何かブツブツとつぶやいていた。長く一緒にいてもこれだけは分からないんだよな……。

 ま、まぁそれはいいとして、駅前へやって来た僕たちは、一緒に電車に乗った。今日はまた都会の方へ行ってみようと話していた。まだまだ行ったことのないところがたくさんあるし、色々見てると楽しいだろう。

 しばらく電車に揺られて、都会にやって来た。今日はここから電車を乗り換えて、さらに三駅先へと行く。このあたりも人が多く、見るところもたくさんありそうだ。


「ここもなかなか人が多いね、日曜日だからというのもありそうだけど」


 僕はそう言って絵菜の手をそっと握った。絵菜がニコッと笑顔を見せた。か、可愛い……ああ神様、僕はなんて幸せ者なのでしょうか。

 僕たちはとある商店街を通り抜けて、商業施設に行こうとしていた。商店街を歩いていると、絵菜が、


「あ、このコロッケ美味しそう」


 と言った。おお、コロッケか、揚げたてで美味しそうだ。


「あ、ほんとだね、一つ買って食べてみる?」

「うん、あ、今日は私がお金出すよ」

「え!? い、いや、それはよくないよ、僕もちゃんと出すよ」

「いや、高校生の時に私も団吉におごってもらったことあったから、バイト代もあるしそのお礼に。まぁ、かなり遅くなってしまったんだけど」

「そ、そっか、うーん……と考えるのもよくないね、じゃあ、申し訳ないけど絵菜のお言葉に甘えようかな」


 絵菜はコロッケを二つ買って、一つを僕に渡した。先に小さな公園があるのが見えたので、そこにあったベンチに座った。二人でコロッケを食べてみる。


「……あ、美味しい」

「ほんとだ、サクサクしてるし、旨味がぎゅっと詰まっている感じがして美味しいね」


 帰りに母さんや日向の分を買って行こうかな、そんなことを考えた僕だった。

 コロッケを食べた後、商店街の先の商業施設に行った。ここも色々なお店が入っているみたいだ。二人で見て回る。


「あ、鞄が売ってるな……僕、大学に行く時の鞄を新しくしようかなと思ってて」

「そうなんだな、どんなのがいいとかある?」

「うーん、A4の紙がそのまま入るものがいいんだよね。あとリュックだと取り出すのが面倒だから、斜めがけの鞄かなぁと思っているんだけどね」

「そっか、色々あるから見てみようか」


 二人で鞄を見てみる……が、今ひとつしっくりくるものがなく、ここで買うのはやめておいた。まぁ色々なところで売っているし、そんなに慌てることもないかなと思った。


「なかなかしっくりくるものって難しいね……あ、お昼なんか食べる? さっきコロッケは食べたけど」

「そうだな、軽めのものにしようか」


 僕たちは商業施設の中にあった喫茶店に入り、サンドイッチとジュースを注文した。しばらく待っていると注文したものが運ばれてきた……と思ったら、想像よりもサンドイッチが大きくてびっくりしてしまった。


「お、おお、大きいね、まぁ食べられないことはないか……いただきます」

「そ、そうだな、じゃあ私も……あ、そういえば、団吉に話したいことがあった」

「ん? 何かあった?」

「そ、その……佑香がどうやら恋をしたみたいで。私も応援したいなって思って。それと私が団吉を好きになった時のこと思い出してた」

「ああ、そうなんだね、そっか、鍵山さんが恋をしたのか……それは応援したくなるね。あ、恋といえば、拓海も川倉先輩に恋をしたみたいで。この前の旅行の時に話したよ」

「あ、印藤もなのか……こんなところで話していると、佑香も印藤も今頃くしゃみしてそうだな」

「あはは、そうだね、よし、二人を応援することにしよう。でもたしかに人の恋を見てると、自分のこと思い出すよね。僕は自分の気持ちに気づくのがほんと遅かったなぁ」

「ふふっ、でもあの頃からずっと団吉は優しいし、やっぱり団吉を好きになってよかった」

「そっか、うん、僕も絵菜と出会えて、絵菜を好きになって本当によかったと思ってるよ」


 僕がそう言うと、絵菜がニコッと笑った。か、可愛い……僕は何度神様に感謝すればいいのでしょうか。

 その後、喫茶店でも絵菜が支払うと言ってきかなかった。な、なんか申し訳ないけど、またそのうち僕がおごってあげればいいかと思って、今日は絵菜に甘えることにした。

 それから商業施設を二人で見て回った。絵菜が楽しそうで、僕も嬉しい気持ちになっていた。母さんが言っていた通り、遊ぶのも大事なことなのかもしれないなと思った。

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