第70話「真菜の誕生日」
九月になった。
今日は日曜日なので、高校生や専門学校生は夏休みが一日多くなったようなものだろう。日向も明日から学校ということで、課題は終わったかと訊いたら「うん、終わったよー! お兄ちゃんのおかげだね!」と言っていた。たしか去年は課題の範囲を間違えて夏休み最終日までバタバタしたものだ。それも懐かしかった。
今日は僕はバイトがあったので、三時まで頑張って働いた。舞衣子ちゃんもバイトに入っていて、元気な笑顔を見せていた。休憩の時に少し話したが、お母さんとはうまくいっているらしい。よかったなと思った。
バイトが終わり、今日は昨日話していた通り、絵菜の家に向かうことにした。真菜ちゃんの誕生日のお祝いのためだ。RINEを見ると日向から『部活終わったので先に絵菜さんの家に行きます!』とメッセージが届いていた。僕は今から行くと返事を送って、絵菜の家まで歩いて行く。九月になったが日差しは厳しかった。
汗をかきながら歩いて、絵菜の家に着いた。インターホンを押すと、「はい」と聞こえてきたので「こんにちは、日車です」と言うと、「まあまあ、ちょっとお待ちくださいね」と聞こえてきた。お母さんかな? と思っていたら、玄関が開いてお母さんが迎えてくれた。
「まあまあ、団吉くんこんにちは。外は暑かったでしょう、中に入ってください。日向ちゃんも来てますよ」
「こんにちは、すみません妹と一緒にお世話になります。おじゃまします」
靴を揃えて上がると、リビングに絵菜と真菜ちゃんと日向がいた。
「あ、団吉お疲れさま」
「お兄ちゃんお帰りー、あ、うちじゃなかった!」
「お兄様お帰りなさい、お疲れさまです」
「ああ、ありがとう……って、日向くつろぎすぎじゃないか……?」
「ふふふ、いいのですよ、団吉くんも日向ちゃんもうちの子みたいなところありますからね。はい、団吉くんもジュース飲んでくださいね」
お母さんがジュースを出してくれた。
「あ、ありがとうございます、すみません妹が……」
「ふふふ、お兄様気にしないでください。私やお姉ちゃんもお兄様の家でお世話になっていますので……って、今日は二人が来てくれましたが、何かありましたっけ?」
「あ、そ、その、ちょっと早いけど真菜の誕生日をお祝いしようと思って二人に声かけた……」
「まあまあ! そういえばそうだ、もうすぐ誕生日でした。お兄様や日向ちゃんみたいに忘れっぽくなってしまいました」
真菜ちゃんが恥ずかしそうにしていたので、みんな笑った。
「ふふふ、真菜よかったわね、こうして大好きなお友達が来てくれるのは嬉しいでしょう」
「うん! 私ももう十七歳かぁ、不思議な感じがするなぁ」
「ま、まぁ、そんなもんだ……あ、これ、私と団吉と日向ちゃんからプレゼント……気に入ってもらえるといいけど」
そう言って絵菜が恥ずかしそうにプレゼントを真菜ちゃんに渡した。
「ええ!? まあまあ! お姉ちゃんもお兄様も日向ちゃんも、ありがとうございます!」
「真菜ちゃん、ちょっと早いけど誕生日おめでとう」
「真菜ちゃん、お誕生日おめでとうー! 三人で見に行ったんだよー」
「まあまあ! そうだったんだね! お姉ちゃん、開けてみてもいい?」
「あ、うん、開けてみて」
「なんだろう……わっ、これはヘアオイル!? あとリップもある! あっ、こっちはトラゾーだ!」
「うん、そのヘアオイルとトラゾーは、団吉が見つけた。リップは日向ちゃんが選んでくれた」
「まあまあ! ふふふ、お兄様もコスメや身だしなみを整えるアイテムはよく分からないと言っていましたが、分かるようになってきたんですね!」
「あ、いや、まぁ、たまたま見つけて、これどういうものかなって気になったというか……まだよく分かってないけどね」
「ふふふ、真菜が嬉しそうでよかったです。今日はみんなでご飯を食べましょうか。その後にお母さんからケーキのプレゼントがありますよ」
「ええ!? お母さんもありがとう! ふふふ、私嬉しすぎて天国に行ってしまいそうです」
「い、いや、それはダメ……」
絵菜がぽつりとつぶやくと、みんな笑った。でも真菜ちゃんが喜んでくれてよかった。
その後、みんなで夕飯をいただくことになった。鶏の照り焼きやシチューなど、真菜ちゃんが好きなものがたくさん並んだ。
「さあさあ、みんなたくさん食べましょう。おかわりもありますよ」
「いただきます……あ、美味しいです」
「ほんとだ! お母さん、美味しいです!」
「あ、お母さん、この鶏の照り焼きすごく美味しい! 味付け変えた?」
「いえいえ、いつもどおりの分量だけど、真菜が嬉しいからさらに美味しくなっているのかもね」
お母さんがニコニコしながら言った。真菜ちゃんも好きなものを食べることができて嬉しそうだ。
美味しい夕飯をいただいた後、みんなでケーキをいただくことになった。お腹はいっぱいだが、甘い物は別腹とはこのことだろう。
「ケーキも美味しいですね。私幸せです。みんなにこうしてお祝いしてもらえて」
「あはは、よかったよ。そういえば去年は、ぼ、僕とデートしたね、思い出した……」
「ふふふ、あれもとっても楽しかったです! 私の一生の思い出です。お兄様、よかったらまた私とデートしてくださいね」
「あ、う、うん、分かった、デートしようね……あはは」
「真菜、団吉困ってるから……って、なんかそれも久しぶりのような」
「ふふふ、大丈夫だよ、お兄様をとったりしないから。お姉ちゃんも心配なんだよね」
「なっ!? い、いや、その心配はしてない……かな」
絵菜が恥ずかしいのか俯くので、みんな笑った。ま、まぁ、デートはいつでもできるからな……。
「ふっふっふー、お兄ちゃんもモテモテだねー、昔は誰か友達と一緒に過ごすなんてなかったのに――」
「わ、わーっ! 日向、それ以上言うのはやめてくれ……!」
今度は僕が恥ずかしくなっていると、またみんな笑った。も、モテてはいないけど、たしかに友達は少なかった……悲しい過去なのです……。
そ、それは置いておいて、真菜ちゃんの嬉しそうな笑顔が見れて、本当によかった。これからもたくさん笑顔が見たいなと思った僕だった。
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