第69話「ヘアオイル」

 八月も終わろうとしている。

 今年も暑い毎日だった。もう少し暑い日は続きそうだが、バテないようにしないといけないなと思っていた。

 今日は高校生、専門学校生にとって最後の夏休みの土曜日。そんな日に僕は九月四日の真菜ちゃんの誕生日が近いので、絵菜と日向と一緒に誕生日プレゼントを買いに出かける予定にしていた。

 絵菜も毎年何をプレゼントするか迷っているみたいだ。僕も日向へのプレゼントでは迷うことが多かったので、気持ちはよく分かった。

 去年は真菜ちゃんが僕とデートしたいと言っていて、そのデートが誕生日プレゼントとなった。そんなのでいいのかなと思ってしまったが、真菜ちゃんが嬉しそうだったのでいいと思うことにしたのだった。

 絵菜と待ち合わせの時間が近づいてきたので、僕は日向と一緒に駅前へ向かう……のだが、いつも通り日向はニコニコで僕の左手を握っている。どういうことなんだろうかと思うが、ここでツッコミを入れたら負けなのだ。僕は心を無にすることにした。とはいえ、これもいつかはなくなるんだよな……と思うと寂しいものがあったりして。あれ? 毎回思っている気がするな。

 駅前に着くと、絵菜が先に来ていたようだ。


「絵菜さん、こんにちは!」

「こ、こんにちは……って、ふふっ、二人は本当に仲が良いな」

「あ、いや、いつも通りというか、なんというか……」

「はい! お兄ちゃんとは仲良しです! ラブラブです! 相思相愛です!」

「だから誤解を招くような言い方やめてくれるかな!?」


 僕と日向のやりとりに、絵菜がクスクスと笑った。また相変わらずだなと思われてそうだな……。

 駅前から電車に乗り、僕たちは都会へと向かった。いつも降りる駅からさらに一駅先で降りた僕たちは、ここも人がいっぱいだなとなんだか田舎者感を出していた。


「こっちにも色々と商業施設があるみたいだね、入ってみようか」


 僕たちは辺りを見回しながら商業施設に入ることにした。一階には化粧品売り場と雑貨売り場がある。


「そういえば、絵菜は真菜ちゃんに何をプレゼントするか決めた?」

「うーん、ちょっと迷ってて……日向ちゃんにプレゼントした時のようにコスメグッズもいいなと思ったんだけど、それもワンパターンかな……」

「絵菜さん、そんなことないですよ! 私ももらって嬉しかったので、それもありだと思いますよ!」

「そ、そっか、じゃあちょっと見てみようか」


 絵菜と日向が楽しそうに話しながら売り場を見ていた。僕はやっぱり分からないな……と思って見ていると、ヘアオイルというものがあった。これはどういうものだろうか。


「あ、二人とも、このヘアオイルってどういうもの?」

「ああ、髪の毛を整える時に使うものだな、スタイリングする時に便利。そっか、ヘアオイルもいいな」

「そうですね、真菜ちゃん長い黒髪が綺麗だし、喜ぶと思いますよ!」

「そうだな、あと真菜はリップが好きだから、一つあげようかな……日向ちゃん、この色とこの色ならどっちがいいと思う?」

「そうですねー……真菜ちゃんなら落ち着いた色のこっちですかね!」

「よし、これにしよう。けっこうあっさり決まったな、えっといくらになるかな……」

「あ、絵菜、僕もお金少し出すよ」

「絵菜さん、私もお小遣いから少し出させてください!」

「え!? い、いや、それは悪いというか……けど、三人でプレゼントにしたら真菜も喜ぶかな、じゃ、じゃあ二人のお言葉に甘えるようにしようかな……」


 三人でお会計をして、プレゼントということでラッピングもしてもらった。うん、ちゃんと決まってよかった。


「よかったね、いいものが見つかって」

「うん、団吉がヘアオイル見つけてくれたからよかった。ありがと」

「いえいえ、僕は分からなかったから二人に訊いてみたくなってね、でもなんか僕も役に立ったみたいで嬉しいよ」

「ふっふっふー、お兄ちゃんが見つけたって真菜ちゃん知ったら、喜ぶんじゃないかなぁ。あ、ちょっとお腹空いてきたかも」

「ああ、ここにも食べるところがあるみたいだね、お昼過ぎたし行ってみようか」


 三人で飲食店が並ぶフロアへ行く。僕たちはお好み焼きのお店に入った。おお、ソースの香りが食欲をそそる。

 僕はイカ、エビ、ホタテの入った海ミックス玉、絵菜はふわとろミックス玉、日向はふわとろねぎ豚玉にした。ここは席に鉄板があって、店員さんが焼いてくれるようだ。しばらく待っていると、美味しそうなお好み焼きが出来上がった。


「おお、美味しそうだね、いただきます……あ、ホタテ美味しい」

「あ、私のも肉も海鮮もあって美味しい……」

「わーいお肉ー! あ、美味しいー! お兄ちゃん、ゴチになります!」

「ええ、お前おごってもらう気か……まぁいいけど」

「やったー! お兄ちゃん大好き!」


 僕と日向のやりとりを見て、絵菜が笑っていた。やっぱり相変わらずだなと思われてそうだな……。

 お好み焼きを食べた後、僕たちは商業施設を見て回った。まだ夏は終わっていないが、お店には秋物の服なども出ていて、季節を先取りするとはこのことかと思っていた。


「すごいね、もう秋物の服も出ているね……あ! ちょっとあそこ見ていい?」


 僕はその時、売り場の一角が目に入った。そこにはトラゾーのグッズが売られていた。


「ふふっ、団吉はトラゾーが好きだな」

「お兄ちゃん、またトラゾー? 好きだねぇ」

「い、いいじゃないか、可愛いんだから……そうだ、真菜ちゃんにこのトラゾーのハンドタオルプレゼントしようかな」

「そうだった、真菜も好きだった……うん、団吉からもらったら喜ぶんじゃないかな」

「真菜ちゃんも好きだよね、よし、そうしよう」


 僕はトラゾーのハンドタオルを買うことにした。ラッピングはさすがにしてもらえなかったけど、絵菜が「帰ったらラッピングする」と言ってくれたので、絵菜に渡して任せることにしようと思った。


「よかった、プレゼントも決まって。あ、明日は団吉と日向ちゃん、うちに来てくれないか? 真菜の誕生日は平日だから、明日お祝いしようかなと思って」

「あ、そうなんだね、そしたら僕はバイトがあるから終わったら絵菜の家に行くようにしようかな」

「私も朝から部活なので、終わったら絵菜さんの家に行きます!」

「うん、ありがと。楽しみにしてる」


 そんな感じで、真菜ちゃんへのプレゼントも決まり、明日の予定も決めていた僕たちだった。うん、真菜ちゃんが喜んでくれるといいな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る