第68話「仮免許試験」
夏の青空が続いている八月末、僕と絵菜と拓海は、教習所で仮免許の試験を受けることになっていた。
これまでそれぞれ時間のある時に学科と実技を受けていたのだが、ついにここまで来たのだ。ちょっと緊張するが、頑張ろうと思った。
「ついにここまできたなー、なんかちょっと緊張するっつーか」
隣の席で拓海が声を出した。絵菜もちょっと緊張しているような顔をしていた。
「ほんとだね、でもここまで頑張ってきたから、三人で合格しようね」
「う、うん、私も頑張る……合格できるように」
学科試験を三人で受けた。交通に関する法律や交通ルール、マナー、標識などに関する問題が出題されていた。試験時間は三十分、五十問出題されて、四十五問以上の正解で合格になるらしい。けっこう厳しいが、それだけ知っておかないといけないことが多いのだ。僕は慎重に一問ずつ解いていった。
学科試験が終わった。どの問題も一応理解できて、正しい答えが書けた気がするが、まだ気は抜けない。この後技能試験があるのだ。もちろん実際に教習所のコース内で車を運転して、学んだ運転方法を習得しているかチェックされるのだ。検定時間は十五分らしい。
「それでは日車さん、行きましょうか」
「は、はい、よろしくお願いします」
教官に呼ばれて車に乗り込む……前に、前方後方、左右の確認を忘れない。車に乗り込み、シートベルトをつけて、ミラーを調整し、車の中から前方後方左右を確認して、僕はギアを入れて車を発進させた。最初の頃クラッチの上げ方がイマイチつかめず苦戦していたが、ここまではスムーズに運転することができていると思う。
「それでは坂道で一旦止まって、発進してみましょう」
うっ、ちょっと苦手な坂道発進がきた。僕は止まってサイドブレーキを引き、ふーっと一呼吸おいてから、ギアを入れてアクセルを踏みサイドブレーキを下ろした。一瞬後ろに行くかと思ったが、ゆっくりと車は前に進んでいる。よかった、ちゃんとできたようだ。
その後クランクやバックなども行った。ゆっくりとしたスピードだが、どれもできたような気がする。まぁ、自分でそう思っているだけで教官の目にはどう映ったかは分からないけど。
「はい、お疲れさまでした。これで終了になります」
「あ、は、はい、ありがとうございました」
教習所の建物に戻ると、絵菜と拓海がいた。二人も終わったみたいだ。
「おっ、団吉お疲れ、終わったなー、どうだった?」
「お疲れさま、うーん、自分ではちゃんとできたと思うんだけど、どうかな……絵菜はどうだった?」
「わ、私も一応できたと思うんだけど、分からない……もし落ちてたらどうしよう……」
「だ、大丈夫だよ、みんなでよく頑張ったよね、合格していることを祈っておこうか」
しばらく待っていると、三人がそれぞれ呼ばれた。僕も呼ばれたので教官のところに行くと、
「――日車さん、仮免許試験は、合格です。学科は満点で、実技は九十五点でした。よくできましたね。これで次から公道での路上運転になりますね」
と、言われた。よかった、合格したようだ。僕は「あ、ありがとうございました」と言って、絵菜と拓海の方を見た。二人はどうだっただろうか。
「よかった、僕は合格してたよ、二人はどうだった?」
「お、俺も一応合格してたみたいだ、あ、一応っていうのは変だな、合格だ」
そう言って拓海が嬉しそうな顔をした。よかった、拓海は合格していたか。絵菜はどうだっただろうか。
「そっか、よかったよ。絵菜はどうだった……?」
「……た」
「え?」
「……合格してた! よかった……」
あまり大きな声を出さない絵菜が、ちょっと大きな声を出した。おお、よかった、絵菜も合格していたか。これで三人とも仮免許試験は合格だ。
「そっかそっか、よかったよ。みんなで合格できたね」
「ああ、しかし俺は学科が四十六点と、危ないところだった……もうちょっと勉強しておかないといけないなー」
「あ、私は四十七点だった……危なかった、ちゃんと勉強したつもりだったのに……」
「ああ、そうなんだね、僕は満点だったみたいだよ。ちょっと問題の質問が難しいところがあったから、そこで引っかかってしまったんじゃないかな。まぁでももう一度見直しておくといいよね」
「ああ、そうだなー、しかしこれで今度から路上運転になるのかー、また緊張しそうだなー。周りに一般の車がいっぱいいるところだしなー」
「そうだね、これまで以上にスムーズで安全な運転が求められるんだろうね。もう少し頑張ろう」
「う、うん、頑張る……あ、お昼食べに行かないか?」
「あ、そうだね、またファミレスに行ってみようか」
三人でまたファミレスに行った。お昼ということもあって多かったが、なんとか席は空いていた。奥に拓海が、手前に僕と絵菜が座った。
「よっしゃ、じゃあここは一番点数が低かった俺が二人におごるということで、じゃんじゃん頼んでくれ」
「え!? そ、そんな約束してたっけ……?」
「いやいや、これくらいさせてくれよー、バイト代も入ったしさ、全然問題ないっつーか」
「そ、そっか、ありがとう、じゃあお言葉に甘えることにしようかな」
「ご、ごめん印藤、ありがと……」
「ああ、そう言われるとちょっと恥ずかしいな。じゃあ何食おうかなー、お腹空いたからハンバーグもいいなー。二人とも遠慮せずに頼んでくれよ」
ニコニコした顔でメニューを見る拓海だった。やっぱりカッコいいな……と思っていると、
「な、なぁ団吉、やっぱり印藤、カッコいいな……」
と、絵菜がこっそり僕に言ってきた。
「ああ、ほんとだね、やっぱり火野に似ているというか、そんな感じがするよ」
「ん? 二人とも何の話してるんだ?」
「ああ、絵菜が拓海がやっぱりカッコいいって」
「だ、団吉……! 言っちゃダメ……!」
「あはは、沢井さんありがとう。女性に褒められるとなんか嬉しくなるな」
あわあわと慌てる絵菜に、恥ずかしそうに頭をかく拓海を見て、僕は笑ってしまった。
それにしても、なんとか三人で合格することができたのだ。まだまだ勉強することは多いが、僕は嬉しい気持ちでいっぱいだった。
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