第66話「ナンパ」
「あー絵菜! こっちこっち!」
「ご、ごめん、遅くなったかな」
「大丈夫だよー、私たちもさっき着いたところだから。じゃあ行こ行こー!」
いつものように春奈が元気な声を出した。今日は私と春奈と佑香の三人で遊びに行こうということで、ショッピングモールに集まった。やはりいつもここに来ている気がするが、細かいことは言わないでおこう。春奈と佑香がまたクレープが食べたいと言っていたからだ。
まぁ、前と一緒でいわゆる女子会というやつだ。たまにはいいよなと思った。
「季節は夏なのにさー、秋物の服がもう売ってるよねー、あ、これ絵菜に似合いそう!」
「そ、そっか、こういうのもありだな……あ、こっちのブラウスとか佑香に似合うんじゃないか?」
「……うん、私こういうの好きかも」
三人で楽しく服などを見て回った。さっき私が言ったブラウスを佑香が買っていた。意外と流されやすいタイプなのかな? と思った。
「佑香よかったじゃーん、秋が楽しみだねー。じゃあお待ちかねのクレープ食べに行きますかー!」
春奈がそう言って鼻歌を歌いながら歩いて行く。私と佑香も続いた。
「な、なんかいつも以上に春奈は元気だな」
「……大丈夫、いつもあんな感じ」
「そ、そっか、まぁいいか、クレープ美味しいしな」
「……うん、私もこっそり楽しみにしてた」
クレープ屋に行くと、三人でメニューを見ながら「むむむ……」と悩んでいた。私はカスタードイチゴ、春奈はイチゴブラウニー、佑香はブルーベリーレアチーズケーキを選んだ。
「よーし、食べよー、いただきまーす! あ、美味しい! 絵菜と佑香のは美味しい?」
「あ、うん、美味しい」
「……美味しい。この世のものとは思えない」
「あははっ、佑香ったらまた面白いこと言ってるー!」
クレープを回して交換して、お互いのものを食べてみる。うん、春奈と佑香のも美味しい。甘い物はやはりいいな、私たちは幸せな気持ちになった。
「あー美味しかったー! ねえねえ、この後またちょっと見て回らな――」
「ねーねー、お姉ちゃんたち三人で遊んでるのー?」
その時、私たちに声をかける人がいた。見ると男の人が三人、ニコニコしながらこちらを見ていた。私は知らない人だな……春奈と佑香の知り合いだろうか?
「え? あ、いや、まぁ、そうなんだけど……」
「おー、三人とも可愛いねー、ねーねー、俺らと一緒に遊ばない?」
「そーそー、悪いことはしないからさー、一緒に遊ぼうよー」
「え!? い、いや、それは……」
春奈が言葉に詰まっている。どうも知り合いではないっぽいな……ということは、これはナンパというやつだろうか。春奈もどうしたらいいのか分からないのか動けずにいる。まずい、ここは私が……と思っていると、
「……春奈、絵菜、行こ」
と、佑香が立ち上がり春奈の手を引いた。春奈も立ち上がる……が、行く手を男の一人がふさいだ。
「そんな冷たいこと言わずにさー、お、こっちの黒髪のお姉ちゃん、可愛いじゃん。ねー、一緒に遊ぼうよー」
「……い、いや……」
そう言ってその男は佑香の腕を掴んだ。もう一人の男が春奈を捕まえている。まずい、二人が引っ張られる。
「お、おい! その子たちから手を離せ!」
思わず私は声を上げた……が、男の一人に私も腕を掴まれてしまった。
「おー、こっちの金髪の子、元気あるじゃん。可愛いねー」
私は振り払おうとするが、男の人の力には勝てなかった。ま、まずい、このままだと……と思ったその時――
バシッ!!
手を叩く音がした。見ると春奈と佑香の前に男の人が一人立っていた。二人をかばうように手で制している。長身で髪の長いその男は……小寺だった。
「……こ、小寺……?」
「……俺のツレに、なんか用かな?」
小寺が恐ろしく低い声で三人に言う。男たちの一人が「な、なんだこいつ……!」と言って小寺に殴りかかろうとする。あ、危ない! と思ったその時、小寺は男の手を振り払い、胸元と腕を掴んで足を払って男を抑えつけた。倒れた男を横目に小寺は私を掴んでいた男の手をバシッと叩いた。私の前に小寺が立って私を手で制している。
「あまり一般人に手を出しちゃいけないんだけど、これは正当防衛だよな。もう一度聞く、俺のツレになんか用かな?」
じりじりと小寺が男三人に近づくと、「や、やべ、逃げろ……!」と言って男三人は去っていった。
「……ふぅ、危なかった。三人とも怪我はない? 女性に手を出すなんて、とんでもない奴らがいるもんだな」
そう言って小寺が私たちの頭をポンポンと叩いた。
「……こ、小寺、そういえばあんた、小さい頃から空手と柔道やってた……!」
「ああ、そうそう、だからあまり手を出しちゃいけないんだけどね、今回は正当防衛ってことで。あれ? 正当防衛って合ってるのかな?」
小寺が首をかしげたので、私は思わず笑ってしまった。
「ご、ごめん小寺、ありがと。危ないところだった……」
「ああ、いえいえ、たまたまここに遊びに来てたら、三人を見つけてね、嫌な予感がしたので出て行ったまでだよ」
小寺が私の目を見てニコッと笑った。一応小寺もイケメンなんだよな……一応というのは失礼か。
「……あ、あんた、ほんとにたまたまなの……? 私たちを追いかけて来たのでは……」
「ガーン! ほ、ほんとにたまたまだって! 三人が一緒にいるなんて知らなかったし! ほんとだよ! 信じてよ~」
「そ、そっか、その、あの……ありがとう……助かった」
「いえいえ! 池内さんにありがとうって言われたの久しぶりな気がするよ! 小学生の時に誕生日プレゼントを渡して言われて以来――」
「わ、わーっ! そんな昔のこと今頃掘り返すなーっ! さっきのありがとうは撤回! あんたはやっぱりいつもの小寺だった!」
「ガーン! そ、そんなぁ~、沢井さん、なんとか言ってくれないか~」
いつもの春奈と小寺のやりとりに、思わず笑ってしまった。そうだった、この二人は小学生の時からの知り合いだった。
春奈がポカポカと小寺を叩いているが、嫌そうな感じではないなと思った。これでなんとか小寺と仲良くなってくれたらいいな……と思ったが、そううまくはいかないのだろうか。
その時、顔を真っ赤にして小寺を見ている人がいることに、私は気づかなかった。
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