第65話「勉強会」

 昨日は午前中に日向と長谷川くんの勉強を見てあげて、午後は教習所の予約を入れていたので、そちらに行った。

 車の運転の方もだいぶ慣れてきて、そろそろ僕も絵菜も拓海も仮免許の試験が近づいている。それに合格すれば今度は公道で運転することになるのだ。これまで以上に緊張しそうだが、頑張ろうと思った。

 そういえば日向と長谷川くんは二人で仲良くしていたかな。まぁあまり兄が口出すのもよくないと思うので、そっとしておこう。

 そして今日はなんと舞衣子ちゃんが僕に勉強を教えてほしいとRINEを送ってきたので、じゃあうちで日向と一緒にやろうかという話になって、舞衣子ちゃんがうちに来ることになっていた。バイトは明日二人で入ることになっている。そして日向が真菜ちゃんに声をかけて、真菜ちゃんも来ることになっていた。

 きっと舞衣子ちゃんも夏休みの課題があるんだよな……と思っていたら、今目の前であからさまに嫌そうな顔をしている日向がいた。


「ううー、毎日勉強だなんてしんどいよー、遊びだったらよかったのになぁ」

「そんなこと言うなよ、舞衣子ちゃんも頑張ってるんだよ。日向も明日からしばらく部活だろ? 今日のうちにある程度終わらせないとな」

「ううーお兄ちゃんが厳しい……頑張りますよ……」


 しぶしぶ受け入れている日向だった。

 しばらくのんびりしていると、インターホンが鳴った。出ると舞衣子ちゃんと真菜ちゃんが鞄を持って来ていた。


「あ、団吉さん、こんにちは……」

「お兄様、こんにちは!」

「こんにちは、あれ? たまたま会ったの?」

「あ、はい、偶然そこで舞衣子ちゃんと一緒になりました!」

「そっか、外暑かったよね、上がって上がって」

「う、うん、汗がとまらなくなった……おじゃまします」


 舞衣子ちゃんがそう言って胸元をパタパタとしたので、僕は慌てて目をそらした。汗をかいている二人もなんか可愛い……って、ちょっと変態くさいのでこれ以上はやめておこう。

 リビングに二人を案内すると、テーブルに突っ伏している日向がいた。


「ひ、日向、大丈夫か……?」

「……お兄ちゃん、私はいません。無色透明です。さあ二人に勉強を教えてやってください」

「い、いや、思いっきりいるだろ……分からないんだな」

「だってー、難しいよー、なんでこんなに難しいんだろ……」


 足をバタバタさせて子どものような日向だった。


「日向ちゃん、もう勉強してるの? 偉いね!」

「ううー、真菜ちゃーん、難しいよー、私生きていく自信がないよー」

「日向ちゃん、大丈夫……うちも分からないことばかりだから……」

「ううー、舞衣子ちゃーん、一緒に天国に行こう? そしたら勉強しなくていいよ」

「い、いや、いなくなったらダメだろ、ほら、二人も来たし日向も文句ばかり言わないで、しっかり頑張ってくれ」


 それから勉強タイムとなった。リビングのテーブルで日向と舞衣子ちゃんが、ダイニングのテーブルで真菜ちゃんが勉強をしている。


「お兄様、ここが分からないのですが……」

「どれどれ……ああ、初速度がこの時に、加速度がこうなって、これで……」

「ああ、なるほど! お兄様は物理も完璧ですね、さすがです」

「まぁ、数学と似たところがあるからね……そういえば絵菜は今日はバイトだっけ?」

「はい、お兄様の家に行くと言ったら、ちょっと残念そうにしていました」

「ああ、そうなんだね、絵菜も今頃頑張ってるのか……」

「団吉さん、ここ分かんない……」

「ああ、どれどれ……ベクトルの問題か、ACと同じなのがこれだから、こうなって……」

「あ、なるほど……団吉さんすごい、なんでも分かるんだね」

「い、いや、なんでもというわけではないけどね……舞衣子ちゃんは数学得意なの?」

「嫌いではないんだけど、分からないことが多い……テストの点数もあんまり伸びなくて……」

「そっか、まぁ基礎を覚えてしまえばあとは応用だからね、なんとかなる……って、日向?」


 その時、ペンを持ったまま動かない日向に気がついた。ああまた分からないんだな……。


「お兄しゃーん……ここが分かりましぇん……」

「な、なんだその言葉遣いは……ああ、ここにcos2θとsinθがあるから、こうなって……」

「あーなるほどー、お兄ちゃんすごいなぁ、いつも思うけど同じ人間とは思えないよねー」

「え、団吉さん、人間じゃなかったの……?」

「お兄様は神様だよ! あ、神様を超えた神様って感じ!」

「ちょ、ちょっと待って、同じ人間だからね? みんなおかしいよ、よく考えて!」


 な、なんかいつも変な人のように思われている気がするが……僕が慌てていると、みんな笑った。

 しばらく勉強を続けて、休憩しようかという話になった。僕はみんなの分のジュースとお菓子を用意して持って行った。


「はい、みんなお疲れさま。ジュースとお菓子で元気出そう」

「わぁ、ワッフルだ! いただきまーす!」

「お、おう、やっぱり急に元気になるな日向は……舞衣子ちゃんと真菜ちゃんは分かった?」

「あ、うん……だいぶ進んだ。数学の課題もたくさんあったけど、これで終わりそう……団吉さん、ありがと」

「私も終わりが見えてきました。お兄様のおかげですね。いつもありがとうございます」

「そっか、よかったよ。まぁ分からないことあったらいつでも訊いてもらえれば」


 やはりこうしてみんなに教えることで、みんなが分かったと言ってくれるのが嬉しい。その気持ちは忘れないでおこうと思った。


「そうだ、無事に課題終わったら、今度三人で都会に出かけてみない!? 楽しそうだよー」

「あ、うん、行きたい……楽しそう。二人におごってあげる」

「まあまあ! うん、いいね! 三人で行けばきっと楽しいよ!」

「あはは、三人とも仲が良いね、いいことだよ」


 これが女子会というやつか、みんな楽しそうだ。

 あ、そろそろ絵菜がバイトが終わる頃だろうか、僕は絵菜にRINEを送ってみようとスマホを手に取った……のはいいのだが、気づかれたのか三人にニヤニヤされた。な、なんで分かるんだこの三人は……。

 ま、まぁそれはいいとして、三人がそのまま仲良くしてもらえるといいなと思っていた。

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