第64話「妹の心」

「ただいまー」


 あれから三人でみるくと遊んでいると、玄関から声がした。母さんが帰ってきたみたいだ。今日はけっこう早かったのか。


「あ、おかえり」

「お母さん、おかえりー」

「あ、おかえりなさい、おじゃましてます」

「あらあら、そうだったわね、今日は健斗くんが来る日だったわ。いらっしゃい、ゆっくりしていってね」

「は、はい! すみませんお世話になります」

「ふふふ、健斗くんもいつ見てもカッコいいわねー、日向もドキドキなんじゃないかしら」

「ええ!? あ、まぁ、そうかもしれないねー……あはは」


 日向と長谷川くんが同じように俯くので、僕と母さんは笑った。


「ふふふ、仲が良いってうらやましいわ……なんて言うとちょっとおばさんっぽいわね、いやねー。あ、夕飯作るわ、ちょっと待っててね」

「あ、僕も手伝うよ」


 母さんが買い物もしてきたみたいなので、僕も手伝った。日向と長谷川くんは楽しそうに話している。よかったなと思った。


「ふふふ、日向も健斗くんも嬉しそうね」

「そうだね、たまには一日一緒にいるのもいいんじゃないかな」


 母さんと二人で夕飯を作った。今日は冷しゃぶ、唐揚げ、ポテトサラダ、お味噌汁、ご飯だった。


「よし、みんなでご飯をいただきましょうか」

「あ、はーい、ここ片付けないとね」


 日向も用意を手伝って、みんなで夕飯をいただくことにした。


「さあさあ、健斗くんおかわりもあるから、遠慮せずいっぱい食べてねー」

「は、はい、いただきます……あ、唐揚げがすごく美味しいです!」

「ほんとだ! お母さん、いつもの唐揚げ粉と違う?」

「ふふふ、よく気付いたわね、お出汁を出している会社のものにしてみたわ。いつもと違って美味しいわね」

「ほんとだね、パリッとしてるし味も美味しいよ」


 長谷川くんは、「す、すみません、ご飯おかわりいただいてもいいですか……? 美味しくて」と言っていた。高校生だしスポーツもしているし、たくさん食べて当然だろう。

 夕飯をお腹いっぱいいただいた後、みんなで話していた。


「そういえば長谷川くんは進路とか考えてる?」

「あ、それがまだよく分からなくて……大学の経済学部もいいなって思っているのですが、ほんとにそこに行けるかも分からないし、将来どんな職業に就きたいかも分からないし……こんなんでいいのかなって思うのですが」

「ふふふ、いいのよ健斗くん、まだ二年生だし色々考えるのも大事だわ。団吉も二年生の頃迷っていたからね」

「え、お、お兄さんでも迷うことがあったのですか……!?」

「ま、まぁ、僕も完璧人間ではないからね……二年生の時は迷っていたこともあったよ。長谷川くんもこれからしっかり考えていくといいと思うよ」

「は、はい! まだまだ頑張らないと……」


 長谷川くんがうんうんと頷いていた。


「うんうん、で、さっきから静かな日向は進路のこと考えているのか?」

「え!? あ、わ、私はそんなに勉強ができないから、専門学校かなーって思ってるんだけど、最近ペットトリマーもちょっと興味があって、いいなーと思っているところで……」

「ああ、そうなんだね、うん、日向は動物が好きだもんな。日向がやりたいって思ったことが大事だよ」

「そ、そうだねー、勉強も嫌々言ってないで頑張らないと、真菜ちゃんと健斗くんに置いていかれる……」

「お、日向にしてはめずらしくやる気を見せているじゃないか、じゃあ明日は二人とも夏休みの課題をやろう」

「あ、はい! たくさん出ているので、お兄さんに教えてもらいたいです……!」

「ええ!? い、いや、それとこれとは別というか、まぁなんとかなるんじゃないかなーなんて……あはは」

「別なわけないだろ、その様子だとまだまだ残っているみたいだな、長谷川くんと一緒にやるんだよ」

「う、ううー、お兄ちゃんが厳しい……バカー」


 ぶーぶー文句を言う日向を見て、みんな笑った。

 その後、みんなお風呂に入ろうと話して、今日はお客さんの長谷川くんから入ってもらおうということになった。


「日向、健斗くんにタオルとかドライヤーとか、出してあげて」

「ええ!? な、なんで私!?」

「なんでって、別に出すだけだからいいじゃない。ふふふ、団吉と同じ反応なんだからー」

「あ、そ、そうだね、健斗くん、行こっか……」

「あ、うん……じゃあすみません、お先に入らせていただきます」


 そういえば僕も絵菜がお風呂に入る時に準備してあげたなと、以前のことを思い出していた。

 順番にお風呂に入り、テレビを観ながら話していた。今日は東城さんたちメロディスターズが地方のテレビ番組に出ることになっていたので、その番組を観ることにした。


「あ、東城さんだ! みんな可愛いなぁ、やっぱりテレビに出るってすごいなー」

「わ、ほんとだ、そっか、テレビにも出てるんだね……すごい」

「ほんとだね、なんかすごい人と知り合いなんじゃないかって思うよね」


 その番組が終わってから、そろそろ寝ようかという話になった。


「そろそろ寝るか、じゃあ日向の部屋で長谷川くんが寝るということで」

「ええ!? そ、それはなんかよくない気がするなーなんて……あはは」

「何言ってんだ、いつも絵菜と僕が寝てるじゃないか……って、自分で言うのもどうかと思うけど」

「あ、そ、そうだね、じゃあ健斗くん、行こっか……おやすみなさい」

「あ、う、うん、お兄さんお母さんすみません、おやすみなさい」


 そう言って恥ずかしそうに二人が日向の部屋に行った。


「ふふふ、なんだかんだ言って日向も本当は嬉しいのよねー」

「たぶんそうだろうね、恥ずかしいっていう気持ちがあるみたいだけど」

「ふふふ、団吉も一緒よ。絵菜ちゃんがいる時は恥ずかしそうにしてるからねー、なんか青春って感じでうらやましいわーって、それもおばさんっぽいわね、いやねー」

「ま、まぁ、日向が恥ずかしいという気持ちも分からなくもないかな……あはは」


 やはり恋人と仲良くしているところを家族に見られるというのは恥ずかしいものがある。日向の気持ちがよく分かる。

 それでも、二人が仲良くしてもらえるのが一番だ。なんか父親みたいだが、そっと二人を見守りたいと思った僕だった。

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