第63話「男子の秘密」

 暑い日が続いているが、あまり暑い暑いと言っても暑さが和らぐわけでもないので、ほどほどにしておこうと思った。

 今日はなんと長谷川くんがうちに泊まりに来る。いつも絵菜と真菜ちゃんが泊まりに来ているが、たまには長谷川くんも来てもらうと日向も嬉しいのではないかと思ったのだ。

 母さんは昨日長谷川くんのお母さんと話していたようだ。「健斗くんのお母さん、『いつも健斗がお世話になってます~!』と言ってたわ。丁寧な感じのお母さんだったわー」と言っていた。ま、まぁ、いつも思っているように親同士が仲良くしてもらえるのは嬉しいというか、なんというか。


「ああ、あっちも掃除してー、こっちも片付けてー、おもてなしおもてなしー」


 バタバタと部屋の片づけをする日向だった。


「お、おう、あまり張り切りすぎないようにな。いつも通りイチャイチャしていいからな」

「ええ!? あ、まぁ、いつも通りにするよ……あはは」


 ちょっと恥ずかしそうな日向だった。今日は母さんは仕事なので帰るのは夕方だろう。

 二人で片付けをしていると、インターホンが鳴った。出ると長谷川くんが荷物を持って来ていた。


「ああ、いらっしゃい」

「お、お兄さんこんにちは! すみませんお世話になります」

「いえいえ、日向が楽しみにしてたみたいだよ。上がって上がって」


 僕が上がるように促すと、「お、おじゃまします!」と言って靴を揃えて上がった。そのままリビングに案内する。


「健斗くんいらっしゃいませー、ささ、こちらにどうぞー!」

「あ、ありがとう……な、なんか不思議な感じですね、明日までお兄さんや日向と一緒にいるなんて」

「あはは、絵菜たちが泊まりに来た時、僕も同じようなこと思ってたよ。はい、ジュースでも飲んでね」

「あ、ありがとうございます! いただきます」


 三人でジュースを飲む……のだが、日向も長谷川くんもどこかぎこちないというか、恥ずかしさみたいなものがあるのだろうか。僕がいるからかなと思ったが、そんなに気にしなくていいのにな。


「なんか、僕は席を外した方がいいのかな」

「え!? い、いや、お兄ちゃんはそのままいてくれていいんだよ」

「そ、そうですよ、お兄さんの家なんですし、そのままで……」

「うーん、なんか二人がぎこちないんだよね……いつも通りでいいんだよ?」

「そ、そうですかね……あ、そういえば、お兄さんに相談があったんだった……すみませんお兄さん、ちょっと男同士でお話させてもらってもいいですか?」

「え、そ、そっか、じゃあ僕の部屋に行こうか。日向ごめん、ちょっと席外すよ」

「あ、う、うん、大丈夫」


 男同士の話って何だろうかと思いながら、僕は長谷川くんを自分の部屋に招き入れた。


「暑いね、エアコンつけようか……って、話って?」

「あ、そ、それが……日向のことなんですけど、日向はお兄さんが大好きで、それは兄妹として好きだっていうことは十分分かっているのですが、僕はあまり好かれていないのかなって、ちょっと不安になることがあって……」


 な、なるほど、日向のことか……たしかに昔から日向は僕が好きなようで、いつもくっついてまわっている。長谷川くんという彼氏ができて少しは離れてくれるかなと思っていたが、それもあまりなく今まで通りだ。そうか、長谷川くんは不安に感じていたのか。


「なるほど、日向があまり長谷川くんを見てないんじゃないかってことだね」

「は、はい……こんなこと思ってしまう自分が嫌なんですが、どうしても気になって……」

「うーん、たしかに日向は昔から僕のことが好きみたいでね、今でもくっつくのをやめないし、僕としてもそれはよくないんじゃないかって思っていたところはあるよ」

「そ、そうなんですね……やっぱり僕は好かれていないのかな……」

「でもね、僕のことはあくまで『兄として好き』という感じだから、そんなに気にしなくていいと思うよ。長谷川くんのことは『異性として好き』という感情を日向は持っているはずだよ。いつか日向が言っていたんだけど、『お兄ちゃんはお兄ちゃん、健斗くんは健斗くん』ってね。長谷川くんのことが好きじゃないとか、そういうことではないよ」

「な、なるほど……」

「うん、それと、長谷川くんがもっとぐいぐい引っ張ってもいいんじゃないかな。恥ずかしい気持ちもあるかもしれないけど、日向はどうも恋に対して消極的というか、自分から前に出ないところがあるみたいだからね。長谷川くんが引っ張ってあげると、日向も嬉しいんじゃないかな」


 兄としての目線だが、日向は最初は自分の恋が分からなかったのもあって、どうしたらいいのか分からないところもあるのではないかと思った。そういう時こそ長谷川くんが引っ張ってあげるべきではないかと。絵菜のことを引っ張ってあげたいと思っている自分を思い出した。


「な、なるほど、そうなんですね……さすがお兄さんです。日向のことが何でも分かっていて、すごいです」

「あはは、まぁ兄妹としてずっと過ごしてきたからね、だからこそ分かるところもあるというか。まぁ長谷川くんが気になるのは分かるけど、あまり考えすぎずにね」

「はい! ありがとうございます。あ、お兄さんも日向から離れるとか、あまり考えなくていいと思います! 日向のお兄さんであることは変わりないんだし!」

「え、あ、そうかな、あいつちょっとくっつきすぎな気もするんだよね……」

「いえいえ、仲が良いっていいことだと思います。世の中にはそんなに仲が良くない兄妹もいるはずだから、それに比べると仲が良い方がいいんじゃないかと。あ、さっきまでの落ち込みは何なんでしょうね」


 長谷川くんがそう言って笑ったので、僕も笑った。そうか、長谷川くんも恋で思い悩んでいたところがあるのだな。それでも長谷川くんは長谷川くんらしく、日向を引っ張ってもらえると嬉しいな。

 二人でリビングに戻ると、日向が不思議そうな顔をしていた。


「あ、戻ってきた。何の話だったのー?」

「え、あ、あれだ、男子の秘密の話」

「そ、そうそう、お兄さんと男同士の話をさせてもらったよ」

「そっかー、まぁ私たちも女子の秘密の話しているから、同じようなもんかー」


 日向がそう言って笑ったので、僕たちも笑った。それから長谷川くんは日向と一緒にスマホを見ながら楽しそうに話していた。うん、難しいことは考えずに、二人仲良くしてもらえるのが僕の望みでもあった。

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