第62話「二日目」

 伊豆旅行二日目、僕たちはホテルを出発して、海沿いを北上していた。

 成瀬先輩の運転も丁寧だった。こんな感じで僕と拓海も運転する時が来るのかなと、ちょっと楽しみなところはあった。


「慶太と蓮ちゃんが運転するの初めて乗ったけど、二人とも丁寧だねー、なんか安心したよ」

「ふっふっふ、当たり前じゃないか! ボクは安全運転の神様と呼ばれている男だからね!」

「いや、さすがにそれは知らないなぁ……団吉くんと拓海くんも、こんな感じで運転できるといいねー」

「そうですね、そういえばこのサークルでの旅行って、毎年行かれているのですか?」

「うん、去年も行ったよー。その時は電車を使ったからね、こうして車で行くのも悪くないねー」

「ああ、去年も楽しかったなぁ、でも今年は団吉くんと拓海くんが入ってくれたから、楽しさ倍増だね!」

「ふふふ、慶太くんも嬉しそうですね。あ、建物が見えてきましたよ、車停めますね」


 みんなで話していると、時間が経つのがあっという間に感じた。僕たちは川奈ステンドグラス美術館にやって来た。ここは英国から譲り受けた伝統あるステンドグラスがあるらしい。入ってみると、英国の礼拝堂や貴賓室などが再現されており、どこも幻想的な空間を生み出していた。


「おおー、すごいねー、なんか異国の文化を味わってるって感じ!」

「ほんとですね、なんか圧倒されるな……」


 僕は圧倒されながらも、スマホで写真を撮った。ここは個人的な撮影、非商業的なものに限り撮影可能のようで、一眼レフカメラはお断りさせていただく場合があるとのことで、先輩方もスマホで写真撮影をしていた。またここもみんなで見ている景色が違うのかなと思った。

 レストランがあったので、僕たちは昼食をいただくことにした。僕はクアトロフォルマッジという、四種のチーズピザを選んだ。


「いただきます……あ、美味しい」

「ふふふ、ほんとですね、私もピザにしましたが、美味しいです」

「団吉のも美味しそうだな、俺のビーフシチューも美味しいよ」


 そんな感じでお腹を満たした後、川奈ステンドグラス美術館を後にした。ここからは慶太先輩が運転するようだ。


「よーし、最後は小室山公園に行ってみようかー!」


 川倉先輩の声に、みんなが「おー!」と反応した。最後に行くのは小室山公園。本来は二月三月頃に見られるつばき、ゴールデンウィーク頃に見られるつつじが有名らしいのだが、山頂からの景色が素晴らしいとのことだ。

 駐車場に車を停めて歩いて行くと、リフトが見えてきた。そのリフトに乗って山頂へと行く。そこには周囲がぐるりと見渡せる大パノラマがあった。


「おおー! いい景色ー! あ、あれが富士山かな?」

「ああ、どうやらそうみたいだね、あっちに見えるのは天城連山らしいね!」

「ふふふ、これは撮影しておかないといけませんね!」

「ほんとですね、やっぱりカメラがあった方がよかったかな……」

「いやいや、スマホでもけっこういい感じに撮れてるじゃんか、とりあえず今回はスマホで楽しもう」


 そんなことを話しながら景色を楽しむ僕たちだった。売店を見つけたので、そこで僕は絵菜と母さんと日向へのお土産を買うことにした。


「お、団吉は妹さんへのお土産か?」

「あ、うん、このクッキーをいくつか買っていこうかなと思って。美味しそうだし、妹よく食べるので。あと絵菜にもあげようかなって」

「あはは、そうなんだな、お土産喜んでくれるといいな」


 広大な景色を楽しんだ僕たちは、リフトを使って山を下り、大学へ帰ることにした。ここからは川倉先輩が運転するようだ。


「どこもよかったねー、また来たいなぁと思ったよー」

「ああ、写真映えする素晴らしいスポットばかりだった! いい旅行になったよ」

「ほんとに、いい思い出ができました! あ、帰るまでが旅行ですよね、最後も車の中で楽しみましょう」


 成瀬先輩がそう言うので、みんな笑った。たしかに遠足と一緒で、家に帰るまでが旅行なのだろう。僕たちは車の中で自分が撮った写真を見ながら楽しい話をしていた。

 高速を使って、一般道は若干混んでいたがそんなにひどい渋滞につかまることもなく、大学に戻ってきた。ここでみんな解散となる。


「いやー楽しかったねー、夏の思い出がまたひとつできたよー」

「そうですね、楽しかったです。先輩方は運転もしていただいて、ありがとうございました」

「あ、俺もお礼を……ありがとうございました!」

「いやいや、みんなが楽しいと思ってくれるなら、ボクはいつでも運転手になってあげようではないか!」

「ふふふ、そうですね、またみんなでどこかに行けるといいですね」


 大学で少しだけ話をしてから、解散となって僕は家路についた。電車の中でスマホの写真を眺めながら、あっという間の二日間だったなと思っていた。


「ただいまー」


 玄関を開けると、パタパタと足音を立てて日向がやって来た。


「お兄ちゃんお帰りー、どうだった?」

「ああ、伊豆もいいところだったよ。非日常を味わったという感じで」

「そっかー、いいなー、なんか大学生って感じするねー。あ、お土産は!?」

「お、おう、食いつくの早いな……クッキー買ってきたよ」

「やったー! ありがとう! みんなで食べよー!」


 リビングに行くと、キッチンから母さんがニコニコしながらやって来た。


「お帰り、楽しかったかしら?」

「あ、うん、なんかすごいところばっかりだったよ。写真撮ってきたから見せようか」


 僕はスマホで撮った写真を二人に見せた。


「へぇーこんなところがあるのかー、すごいねー! あ、お兄ちゃんが免許取って、車買ったら連れて行ってもらえるかな!」

「あ、ああ、まだまだ先になりそうだけど、その時はみんなで行ってみるのもありかもね」

「ふふふ、団吉もいい経験してるわね。お母さんも大学生の頃、友達と旅行したの思い出すわー。あ、またおばさんみたいなこと言ったわね、いやねー」


 たしかに、これも大学生らしくていい経験なのだなと思った。そうだ、絵菜にも写真を見せてあげようと思って、写真つきでRINEを送ると、『いい景色だな、楽しかったみたいだな』と返事が来た。お土産があることも伝えておいた。

 楽しい思い出がまた一つ増えた。残りの夏休みも同じように楽しく過ごしていきたいなと思った。

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