第60話「ホテルで」

 修善寺虹の郷を存分に楽しんだ僕たちは、今日泊まるホテルへと移動することにした。ホテルまでは慶太先輩が運転するようだ。

 修善寺から南に約一時間ぐらい下り、南伊豆にあるホテルにやって来た。おお、海が近い……! 部屋からも景色が眺められるのではないかと思った。

 チェックインして部屋へと向かう。部屋はファミリールームに男性三人、ツインルームに女性二人が泊まることになっていた。部屋に入ると、思っていた通り部屋から海が見えた。景色が最高だ。


「おおー、なんかすごいなぁ、こんなところに泊まるとかワクワクするっつーか」

「ああ、すごい景色だね! これも写真を撮っておかねばならないね!」

「ほんとですね、ちょっと贅沢というか、たまにはいいのかもしれませんね」


 そんな感じで男三人が盛り上がるのだった。

 その時、コンコンと部屋の扉をノックする音が聞こえた。出ると川倉先輩と成瀬先輩がいた。


「こっちの方が広いからさー、夜のたまり場はこっちにしようかー、おじゃましまーす」

「ふふふ、ここからの景色も最高ですね、私たちの部屋もいい景色を眺めることができました」


 色々話していると夕飯の時間になったので、僕たちはレストランへと移動した。レストランからも外が見えて、海が綺麗だった。

 ディナーは鉄板焼きのコース料理となっていた。おお、お肉が運ばれてきた。ジュージューと美味しそうな音を立てている。「いただきます」と言ってみんなでいただく。うん、柔らかくてお肉の香りと肉汁が口の中に広がってとても美味しい。こ、こんな贅沢をしていいのだろうかと思ってしまった。


「お肉美味しーい! ワインも合うねー!」

「ほんとに、美味しいです。ワインも美味しくて、幸せです!」


 女性二人はワインをいただいている。やはりこの二人は何でも呑める人なのだろうか、すごいなと思った。


「慶太先輩はワインはダメそうですか?」

「ああ、ボクはあとで部屋でゆっくりお酒をいただくことにするよ。とにかくお肉が美味しくてね、たまらないね!」

「ほんとですね、めちゃくちゃ美味しいっつーか、とろけます!」


 大満足のディナーをいただいた後、僕たちは部屋に戻り、せっかくなので温泉に入ろうという話になった。大浴場に行くと、内風呂の外に露天風呂があった。男性三人でゆっくりと浸かる。


「うおー、めっちゃ気持ちいいー! なんか日頃の疲れがとれるっつーか」

「あはは、たしかにそんな感じするね。お風呂も最高だなぁ」

「ああ! 美味しいもの食べて、ゆっくりお風呂に入って、旅の醍醐味とはこれなのかもしれないね!」


 気持ちよすぎてずっとそのまま入っていたいと思ったが、さすがにのぼせてしまうので上がって、部屋に戻ってまったりしていると、女性二人も男性陣の部屋にやって来た。手には何やら袋を持っている。


「よーし、ここでみんなで呑みますかー! お酒もジュースもおつまみもあるよー!」

「ふふふ、この時を楽しみにしてました。今日は帰る心配をしなくていいので、ゆっくり呑めそうです」

「ああ、ボクもいただくことにしようかな……って、二人はもう呑んでるのかい!? 早いよ、みんなで乾杯しよう」


 みんなで「かんぱーい!」と言ってビールやジュースをコツンと当てた。ま、また女性二人はすごい勢いで呑むのだろうか……と思うとちょっと心配だが、たしかに後は寝るだけなので、あまり気にしなくてもいいのかなと思った。


「ぷはーっ、ワインも美味しかったけど、ビールも美味しい~」

「そ、そうなんですね、それはよかった……あはは」

「……団吉くん、今私たちのことよく呑む女やねって思うとったやろ? 顔に書いてあったけんね~」

「あ、あれ!? い、いつの間に成瀬先輩はそんなに呑んでるんですか……いや、よく呑むとかは思ってないというか……」

「あはは~、団吉くんいけないんだ~、ねえねえ拓海くんもどんどん飲んでよ~」

「え、あ、はい、ジュースではありますが、い、いただきます……」

「まったく、この二人は底が知れないね。団吉くんも拓海くんもすまないね、許してやってくれたまえ」

「あ、だ、大丈夫です……なんか近いけど……あはは」


 川倉先輩と成瀬先輩がぐいぐいと僕と拓海に迫って来るのであった。ち、近い……絵菜に見られたら大変なことになりそうだ。


「あ、そういえば団吉くんと拓海くんは、教習所に通い始めたそうだね。どうだい? 少しは慣れてきたかな?」


 ビールをちびちびと呑んでいた慶太先輩が訊いてきた。慶太先輩の顔はもう赤くなっている。やはり顔に出るんだなと思った。


「あ、はい、最初クラッチの操作が戸惑いましたが、少しずつ慣れてきたかなと思います」

「俺も同じような感じです。なかなか難しいけど、なんか慣れてきたっつーか」

「そうかそうか! 二人はMTを頑張っているのだね。素晴らしいね。まぁ身体が覚えるから、そのままで大丈夫だよ」

「そーそー、運転なんて身体が覚えるもんよ~、グイッと踏めば、ビューンと進むからね~」

「ふふふ、団吉くんも拓海くんも、大人になっとるっちゃね~、二人が運転する車に乗るのも楽しみやね~」

「あ、そ、そんなもんですかね、よく分かったような、そうでもないような……あはは」


 今日車に乗ってみたが、川倉先輩も慶太先輩も、運転は丁寧だった。まだ成瀬先輩は運転をしていないが、三人が言うように身体が覚えるんだろうな。このまま頑張ろうと思った。

 そんな感じで遅くまで盛り上がった僕たちだった。慶太先輩もうとうとし始めたし、めちゃくちゃ呑んでいた川倉先輩と成瀬先輩も眠そうにしていたので、僕と拓海で女性二人を支えながら女性陣の部屋まで連れて行った。な、成瀬先輩にすごくくっつかれたが……やはり絵菜に見られたら大変なことになりそうだった。


「ふー、なんとか寝てくれたな。なぁ団吉、ちょっと話したいことあるから夜風に当たりに行かないか?」

「あ、うん、いいよ」


 二人でホテルの外に出る。裏にいくつかベンチがあったので、そこに座った。今日もよく晴れていたので星も輝いて見える。海も見えていい場所だ。

 そういえば拓海は話したいことがあると言っていたが、何だろうか。よく分かっていない僕だった。

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