第59話「伊豆旅行」
暑い毎日が続いている。今日と明日は楽しみにしていたことがあった。
それは、サークルメンバーでの伊豆旅行だ。ついに当日になった。天気も晴れていて、絶好の旅行日和だ。かなり暑いが今日も猛暑日になるのだろうか。
「いいなー、お兄ちゃんは今日から旅行かー、あ、お土産よろしくね!」
日向がみるくと遊びながら言った。
「あ、うん、お土産買ってくるよ。じゃあそろそろ行ってきます」
日向に「いってらっしゃーい」と見送られて、僕は待ち合わせにしている大学へ向かう。やはり外は暑い。じわじわと汗をかいてきた。
大学に着くと、川倉先輩と慶太先輩がいるのが見えた。二人の後ろには車もある。
「おっ、団吉くんおはよー!」
「おはようございます、お二人とも早いですね」
「そうそう、今日が楽しみでねー、思わず早く来ちゃったよー……と思ったら、慶太も一緒みたいで」
「やあやあ、団吉くんおはよう。そうなんだ、ボクも楽しみでね、みんなで今日明日と思いっきり楽しもうじゃないか!」
「そうですね、色々見るところもありそうですし、楽しみましょう」
三人で話していると、成瀬先輩と拓海もやって来た。
「みなさんおはようございます。ついに来ましたねこの日が。私楽しみにしてました!」
「おはようございます、俺も楽しみだったっつーか、大学生らしいイベントだなーと思っていました!」
「あはは、おはよー、そうだよねー、みんな楽しみなのは変わりないということで。じゃあ揃ったし車に乗って行きますかー!」
川倉先輩が声を上げると、みんな「おー!」と言った。最初は川倉先輩が運転するようだ。助手席に慶太先輩が乗り、後部座席に成瀬先輩と拓海と僕が乗り込んだ。車で移動することがなかなかなくて、僕はそちらも楽しみだった。
そういえば僕と絵菜と拓海は教習所にも通っている。最初はクラッチの操作がよく分からず苦戦したが、少しずつ慣れてきたみたいだ。まだまだ教習所内での運転だが、自分が車を運転しているのだなと、不思議な感覚になった。
車は市街地を走り、高速に乗った。そこそこ車は多かったが今のところスムーズに流れている。車内では川倉先輩のチョイスだろうか、最近の音楽が流れている。あ、これはJEWELSの最新曲だな。そんなことを思っていた。
「団吉さんは伊豆方面に行ったことありますか?」
「あ、いや、僕は行ったことがないです。成瀬先輩はありますか?」
「私もないんです。大学でやっとこちらの方に来るようになったので、初めてのところで楽しみというか。拓海さんは行ったことありますか?」
「いや、俺もないです。俺も成瀬先輩と一緒で以前は地元ばかりだったので」
「ふふふ、そうなんですね、それはみんなで楽しまないといけませんね」
「ごめーん、ちょっとトイレ休憩するね、この先のサービスエリアに寄るよー」
川倉先輩がそう言った。出発して一時間くらいだろうか、僕たちはサービスエリアに寄ることになった。降りてうーんと背伸びをすると、なんだか空気が美味しく感じた。これも旅をしているからだろうか。
サービスエリアにお土産が売っていたので、ちらりと見た。まぁここで買う必要はないのだが、どんなものがあるか確認しておきたかった。
「お、団吉は家族にお土産とか買うのか?」
「あ、うん、妹に買ってきてって頼まれてるからね、何かいいものがあればと思って」
「あはは、そっか妹さんがいるのか、そりゃあいいものを買って行かないとな」
そんなことを話した後、サービスエリアを出発した。車は変わらずそこそこ多かったが、スムーズに流れているようだ。途中で高速を下りて、一般道を走っていく。見たことがない街並みで、僕はテンションが上がっていた。
車は中伊豆にある
「おおー、すごいねー、これは写真映えするよー!」
「ああ、そうだね! これは撮らないともったないな!」
「ほんとですね、カメラ持って来てよかったです。空気もなんか美味しい気がします」
先輩方が楽しそうに写真を撮っている。僕と拓海もスマホでパシャパシャと写真を撮った。うん、緑が綺麗に写っている。
「ほんと、暑いんだけど空気がなんか美味しい気がするっつーか、緑で癒される感じするな」
「ほんとだね、なんとなく非日常を楽しんでるって感じがするよ」
みんなで美味しい空気を堪能して、また移動する。ここからは慶太先輩が運転するようだ。竹林の小径の近くにある『修善寺虹の郷』へやって来た。ここは広大な園内に季節の花々が咲く公園のようなところだ。
小さな汽車やバスが園内を走っている。僕たちは汽車に乗り込んで移動した。色々な景色が見えてそこでもみんな写真を撮っていた。
少し遅めの昼食を園内でいただいてから、園内を見て回った。バラの花が綺麗だったし、日本庭園エリアでは和の雰囲気を味わった。
「すごいねー、お花が綺麗だし、やっぱり写真映えするねー」
「そうですね、スマホでもなかなかいい感じに撮れています。拓海はどう?」
「ああ、俺もいい感じに撮れてるっつーか。先輩方はカメラだからさらに綺麗に写ってますよね」
「ふっふっふ、帰ったらみんなで写真を見せ合おうではないか!」
「ふふふ、そうですね、同じ景色でもきっとそれぞれ見てる景色が違いますからね、それも楽しみになってきました」
たしかに、同じ景色を撮ったとしても、カメラや撮影者の違いで写る景色というものはまた違った顔を見せるだろう。色々見るのが楽しみになってきた。
僕はそうだ……と思って、絵菜に『こんなところにいるよ』と写真つきでRINEを送った。すぐに返事が来て『わっ、すごいな、綺麗な景色だ……』と言っていた。
「おっ、団吉くんは絵菜ちゃんにRINEを送っているのかな?」
「え!? あ、バレましたか……はい、綺麗な景色だって言ってました」
「ふっふっふ、団吉くん、絵菜さんも負けないくらい綺麗だよと伝えておいてくれたま――」
「慶太、あんたほんとに気持ち悪いね、絵菜ちゃんにぶん殴られても知らないからね」
「ええ!? それはないと思うのだが……亜香里先輩は厳しいね、これは本当に彼氏ができな――」
そこまで言って、川倉先輩が「うっさい!」と慶太先輩を叩いていた。い、いつも通りだなこの二人は……。
そんなこともありながら、絵菜が言ったように僕たちは綺麗な景色を楽しんでいた。
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