第58話「二次会」

 同窓会は終わりとなり、僕たちは元三年五組のメンバーが集まる二次会へと移動することにした。商業施設の近くの大きな居酒屋に行くみたいだ。まぁ、居酒屋といっても僕たちはまだ未成年なのでお酒は呑めないのだが。

 そういえば火野たちの一組も同窓会の後集まると言っていた。きっと楽しい話をするのだろう。

 居酒屋の扉を開けて中に入ると、すぐに声をかけられた。


「おっ、みんなおひさー! 遅いぞー」

「み、みんなお久しぶりだね」


 声をかけてくれたのは、杉崎さんと木下くんだった。木下くんは以前話した時にちょっと悩んでいたこともあったが、こうして二人が並んで座っているところを見ると、悩みは解消されたのかもしれないなと思った。


「ああ、お久しぶりだね、RINEでは話してたけど、こうして会うと新鮮だね」

「そうだなー、そろそろ日車もあたしの胸が恋しいだろうしさー、大悟と一緒に触ってもいいんだぞ、ほれほれ」

「はひ、え!? い、いや、それはない……のかな」

「え!? い、いや、それは遠慮しておく……って、絵菜も変な目で見ないで!」


 僕と木下くんが慌てていると、みんな笑った。うう、なんかいつもこんな感じのような気がする……。


「姐さん! デートして以来ですね! お久しぶりです!」

「あ、ああ、お久しぶり……その後杉崎は大丈夫か?」

「あははっ、大丈夫です! こんな感じで仲良しなんで!」


 そう言って杉崎さんが木下くんに抱きついた。木下くんは「ええ!? あ、さ、沢井さんお久しぶりだね」と、ちょっと恥ずかしそうにしていた。そういえば絵菜と杉崎さんはデートしたと言っていたな。

 とりあえずみんなで固まって席に着いて、それぞれ飲み物を注文した。先ほどの同窓会でけっこう食べたが、ここでもみんながそれぞれ食べ物も注文している。みんなよく食べるな……いや、僕もまだ食べられそうな感じがするのは、高梨さんのように成長期なのだろうか。


「……あ、あれ? お、おかしいわね、日車くんの隣に沢井さんがいるのはいいけど、反対側にいつの間にか九十九さんがいる……なんでそんなに早いのかしら……ブツブツ」

「お、大島さん? また何かブツブツ言ってるね……あ、九十九さん、そういえばあれから男の人に声かけられたりしてない? 僕も大島さんと一緒で心配になって」

「う、うん、声をかけられることもあるんだけど、友達もいるしなんとか振り切ってる……ありがとう」

「そっか、まぁちょっと心配だけど、むしろいい人が現れるといいよね」

「う、うん……日車くんはやっぱり優しいな……カッコいい」


 そう言って九十九さんが僕の手をきゅっと握ってきた。い、いつも通り……というと変なのだろうか。


「つ、九十九さん!? なんでそんなに自然なのかしら……!」

「……団吉?」

「ああ!! い、いや、これは久々に会ったからというか、なんというか、ご、ごめん!」

「ふふっ、慌てる団吉も可愛い。でもやっぱり大島と九十九は野放しにできないな……ブツブツ」

「え、絵菜? 野放しって何のこと……?」

「……相変わらず日車くんはモテモテだね」

「ほんとですね……! でも、この光景もなんだか懐かしい気がします……!」


 ニコニコしながら言う相原くんと富岡さんだった。


「い、いや、モテているというわけではないと思うけどね……あはは」

「……いや、日車くんを見てきて、日車くんがモテる要因がよく分かったよ」

「そうですね……! ずっと見てると分かりますよね、日車さんの優しくて頼りたくなるオーラというか……!」

「大島ー、日車があたしの胸とお尻見れないからつまんないって言う~」

「なっ、日車くん、そんなに杉崎さんの胸とお尻がよかったの? それにしても相変わらず杉崎さんは大きいわね……くそ、なんで私は大きくならないのかしら……ブツブツ」

「え!? い、いや、そんなこと言ってないから!」


 また僕が慌てていると、みんな笑った。うう、どうしてこうなってしまうのか……。


「あははっ、あ、みんな飲み物揃ったから乾杯しないとなー! じゃあここは日車に乾杯の一言もらうかー!」


 杉崎さんが大きな声で言った……って、ええ!? 僕!? な、なんで……と思ったが、クラスのみんなが「日車くん一言どうぞー!」「日車ー、頑張れー!」と拍手しながら言っていた。ま、マジか……こうなったら仕方ない、僕はとりあえずグラスを持って立ち上がった。


「で、では……コホン。みんなお久しぶりです。まだ卒業して半年弱くらいですが、みんなの顔を見ると懐かしい思い出がよみがえってきます。今日はそんな思い出話や近況の話で盛り上がりましょう。乾杯!」


 僕がそう言うと、みんな「かんぱーい!」と言ってグラスを当てた。本当ならお酒の方が盛り上がるのかもしれないが、それは来年以降にとっておくことにしよう。


「団吉すごいな、私はみんなの前で一言とかできないかも……」

「あはは、もしかしたら生徒会で鍛えられたのかもしれないね、以前の僕だったら無理かもしれ――」

「なんだよ日車ー、カッコよくなったなー! 立派になりやがってー!」


 そう言って絡んできたのは野球部のクラスメイトだった。き、君まさかお酒呑んでないよね……と思ってグラスを見たらジュースだった。よかった。

 そんな野球部のクラスメイトは、「日車と相原、あの時は嫌なこと言って悪かったな、ごめん!」と言っていた。相原くんは「……ええ!? あ、いや、大丈夫……」と、ちょっと恥ずかしそうにしていた。

 間延びしたしゃべり方をする学級委員も「日車くんってこんなにモテたんだねー、私も加わればよかったかなぁー、でもめんどくさいからやめとこー」と言っていた。い、いや、モテていたわけではないと思う……たぶん。

 それからしばらくみんなで楽しい話をして盛り上がった。隣にいる絵菜も楽しそうだ。たまにはこうしてみんなで会うのもいいな……という気持ちは、昔の僕からは考えられないことだなと思った。

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