第57話「懐かしい」

 それからしばらく同窓会を楽しんだ。

 間延びしたしゃべり方をする学級委員や、野球部のクラスメイトとも再会した。野球部のクラスメイトは突っかかって来るかなと思ったけど、意外とそんなことはなく、「日車、久しぶりだな!」と元気がよかった。あの頃とは違って彼も落ち着いたのだろうか。

 先生たちからのメッセージも読み上げられた。僕たちの担任だった大西浩二おおにしこうじ先生や、保健の北川詩織きたがわしおり先生からもメッセージが来ていた。二人とも今日は来れないとのことだったが、また元気な顔を見せてくださいとのこと。高校に会いに行くのもいいなと思った。

 火野と中川くんも戻ってきた。サッカー部の同級生や先輩に会えたとのことで、楽しそうだった。高梨さんは「私ちょっとバスケ部のみんなに挨拶してくるねー」と言ってどこかへ行った。そちらもきっと楽しい話があるだろう。

 先輩といえば、慶太先輩は今日はちょっと用事があって来れないと言っていた。みんなに会いたかったと。まぁお盆期間だし仕方ないだろう。今回で終わりというわけではないし、また来年がありますよと伝えておいた。


「おっ、みんな食べてるな、俺ももっと食べようかな、腹が減って仕方がねぇぜ」

「おう、俺も食欲が増してさ、サッカーやってた頃の方が痩せてたんじゃないかな」

「ふふふ、火野さんも悠馬くんもまたサッカーするのもいいんじゃないでしょうか……!」


 そう言って火野と中川くんと富岡さんは料理を取りに行った。よく食べるとはいえあのカッコよさだもんな……くそぅ、イケメンはほんとに困る……。


「あ、絵菜もまたなんか取りに行く? 僕も行くよ」

「うん、美味しそうなのがいっぱいあるな」


 絵菜と二人で料理を取りに行く。洋食、和食、中華など、たくさんの料理が並んでいる。そうだ、今度はお肉が食べたいな……と思っていると、


「――あら、日車くんと沢井さんじゃない」

「――あ、日車くんと沢井さん、この前も会ったね」


 と、声をかけられた。見ると大島さんと九十九さんがいた。


「ああ、お久しぶり。以前大島さんの家に行ったね。ちょっと前のことなのに、もう懐かしいね」

「そうね、あれから日車くんちっとも来てくれないんだもの……って、さ、沢井さんもお久しぶりね……」

「……お、お久しぶり……って、大島の家に行ってたのか……! くそ、しくじった……ブツブツ」

「え、絵菜? なんかブツブツ言ってるけど……?」

「ふふふ、日車くんとあんなことやこんなことしちゃったわ、沢井さん残念ね来れなくて」

「……だ、団吉、何やったんだ……? 怒らないから言ってみて」

「え!? い、いや、普通に元生徒会メンバーで懐かしい話しただけだよ……大島さん、あんなことやこんなことって何……!?」


 僕が慌てていると、みんな笑った。うう、どうして僕は笑われてしまうのだろう……。

 四人で料理をとって、テーブルについた。立食形式なので座ることはなく立ったままみんなと話す。


「そういえば、大島さんも九十九さんも、その後大学生活楽しんでる? この前会った時はまだ始まったばかりだったし」

「そうね、前期の試験も終わって、今はゆっくりしているところだわ。友達もいるし、けっこう楽しいわね」

「う、うん、私も試験が終わってゆっくりしてる……楽しくやってる方かな」

「そっかそっか、それはよかった。二人なら講義も試験も問題なさそうだね」

「そうね、さ、沢井さんは専門学校だったわよね、た、楽しくやってるかしら……」

「あ、ああ、友達もできたし、勉強も楽しい……かな」

「ふ、ふーん、そうなのね、よかったわね……」

「あ、沢井さん、たしかネイリストの勉強してるんだよね? すごいな、沢井さんがプロになったら、私行こうかな……」

「ああ、九十九の爪も綺麗に磨いてあげる。よ、よかったら大島も……」

「そ、そうね、わ、私も行くことにしようかしら……楽しみね」


 あ、絵菜と大島さんはいつもぶつかっていたが、少しずつ打ち解けてきたのだろうか。なんだか嬉しくなった。


「あはは、絵菜も頑張ってるよね。それにしても、絵菜と大島さんが少しずつ仲良くなっているのが嬉しいよ」

「ち、違うわよ、沢井さんはライバルだからね、ちょっと気になっただけよ」

「……ふふっ、その様子だとまだ白馬の王子様は現れていないようだな」

「さ、沢井さん!? そ、それは今からよ、私だって可愛いんだからね、今に何も言えなくしてやるわ……!」

「わ、わーっ! 二人とも、ここにきてケンカするのはやめよう……」

「……なんか懐かしい光景がそこにあった」


 ふと声をかけられたので見ると、相原くんがいた。


「あ、相原くん、お久しぶり。RINEで話はしてたけど」

「……お久しぶり。相変わらず沢井さんと大島さんは仲が良くないみたいだね」

「ま、まぁ、なぜかこうなってしまうみたいで……あはは」

「相原くん、お久しぶり。相原くんは専門学校だったっけ?」

「……あ、うん、杉崎さんと同じとこ通ってる。九十九さんは大学だよね、俺も九十九さんみたいに勉強ができたらよかったな……」

「う、ううん、大学でも専門学校でも同じだよ。学んでいることが大事だよ」

「……そ、そっか、そんなもんなのかな。あれ? さっきまで杉崎さんと木下くんと一緒にいたんだけど、あの二人どこ行ったんだろ……?」

「ああ、そうなんだね、そのうち来るかな……あ、この後三年五組のみんなが集まるよね、そっちも楽しみだよ」

「そ、そうだったわ、なんとしても日車くんの隣の席をゲットしないと……ブツブツ」

「お、大島さん? なんかブツブツ言ってるけど……?」


 たまに絵菜や大島さんは、ブツブツと何かをつぶやいているんだよな……うーん、女性の心がよく分からない……。

 ま、まぁそれはいいとして、同窓会を楽しんでいた僕たちだった。久しぶりに会うとやっぱりいいものだなと思った。

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