第55話「花火大会」

 八月十二日、今日はいつもの花火大会が行われる。

 雨になったらどうしようかと思っていたが、昼間は夏の青空になってくれてよかったなと思った。まぁ、その分かなり暑いのだが、夏なので仕方ないと思うことにしよう。

 今年も僕と日向は浴衣に身を包んだ。なんか不思議な感覚になるのは変わらないようだ。


「ふふふ、団吉も日向も可愛いわねー。あ、そうだ、そこに立って写真撮らせて~」

「え!? い、いや、それはやめておかない……? って、毎年言ってるような」

「えーいいじゃん、お兄ちゃん何してるの、こっちこっち!」


 日向に引っ張られて結局二人並んだところを母さんに写真を撮られた。ま、毎年恥ずかしい思いをしている気がする……。

 そんな話をしていると、インターホンが鳴った。出ると絵菜と真菜ちゃんと長谷川くんが来ていた。みんな浴衣を着ている。


「こ、こんにちは」

「お兄様、日向ちゃん、こんにちは!」

「あ、こ、こんにちは!」

「みなさんこんにちはー! みんな浴衣でおそろいだねー!」

「ああ、なんか不思議な感覚になるけど、みんな似合ってるよ。じゃあ行こ――」

「あらまぁ、みんな浴衣姿で可愛いわねー、ちょっとそこに並んで写真撮らせて~」

「え!? ま、また撮るの……!?」


 結局五人で並んで、母さんがまた写真を撮った。うう、また恥ずかしい思いをした……。

 それはいいとして、五人で川沿いまで歩いて行く。今年も暑い中たくさんの人が来ていた。毎年のように出店もあるみたいだ。

 僕はそうだ……と思って、長谷川くんに話しかける。


「長谷川くん、今度うちに泊まりに来ない? たまにはいいかなと思って」

「え!? い、いいのですか……!?」

「うん、絵菜や真菜ちゃんもうちに泊まりに来てるしね、日向も喜ぶと思うよ」

「そ、そうなんですね、ありがとうございます。お兄さんに勉強を教えてもらったり、男同士の話がしたいです!」


 あ、あれ? 日向とくっつくのではないのか? と思ったが、言わないことにした。まぁ女子の秘密の話があるように、男子の秘密の話もあるものだ。ちょっと楽しみになってきた。

 今日はいつものように川沿いで火野と高梨さんと待ち合わせにしている。二人はどこかな……と探していたら、二人が僕たちを見つけたらしく手を振っていた。この二人も浴衣姿でバッチリと決まっている。くそぅ、これだからイケメンと美人は困る……。


「おーっす、今日も暑いけど、たくさん人がいるなぁ」

「やっほー、ほんとだねー、今日も暑いねぇ。あ! 今年もみんな可愛いねぇー、お姉さんみんなまとめて食べちゃいたいよ……ふふふふふ」

「た、高梨さん心の声が……って、やっぱりなんか懐かしい感じがするね」


 僕がそう言うと、みんな笑った。


「そだねー、あ、今年も出店出てるから、みんな私と一緒に見て回らない? 私バイト代が入ったから、おごるよーふふふふふ」

「あ、高梨さん、お金は出しすぎたらダメ――」


 僕が言い切る前に、高梨さんは日向と真菜ちゃんと長谷川くんを連れて出店の方へ行ってしまった。


「あはは、まぁいいじゃねぇか、毎年のことだけど優子も楽しそうだし」

「う、うーん、あまり甘やかすのもよくないと思うけど、まぁいいか」

「ふふっ、団吉は優しいところもあるけど、厳しいところもあるな」

「そ、そうかな、自分ではよく分からないんだけどね……まぁ、みんな楽しいならそれでいいかな」

「――あれ? 日車くん? あ、みんなもいる」


 その時、ふと声をかけられたので見ると、なんと九十九さんが浴衣姿でいた。美人の九十九さんは浴衣姿も綺麗だ……って、ぼ、僕は何を考えているのだろう。


「あ、九十九さん、今年も来てたんだね、一人で?」

「ううん、弟と来たんだ……って、あれ? 康介こうすけ、何しているの?」


 九十九さんの後ろに隠れるようにして、弟の康介くんがいた。康介くんは身長が伸びたみたいで、九十九さんよりも大きくなっている。


「くっ、またこいつか……そしてまた違う女の人と一緒にいる……お前に姉ちゃんは絶対にやらないからな!」

「ちょっ!? 康介、何言ってるの……ご、ごめん日車くん、また弟が変なこと言ってる……」

「あ、い、いや、大丈夫だよ。康介くん、お姉ちゃんはとらないから安心して」

「くっ、そんな言葉に騙されるもんか……! 大学に行ってさらに心配なのに……ブツブツ」


 何かブツブツとつぶやく康介くんだった。やはりお姉ちゃんのことが大好きなのだな。以前から変わらなかった。


「おーっす、九十九久しぶりだな、なんか懐かしいぜ」

「うん……お久しぶり、元気そうだね。あ、沢井さんも、お久しぶりだね」

「あ、ああ、久しぶり……九十九も元気そうで、よかった」

「やっほー、みんなで回ってきたよー。相変わらず人が多いねぇ」


 高梨さんたちが戻ってきた……と思ったら、いつものように日向たちは両手にわたあめやりんご飴など、色々持っている。


「た、高梨さん、またこれ全部……?」

「そーそー、ああ、気にしないでー。ほんとに私もバイト代入ったからさ、使わせてよー。あ、九十九さんもいる! お久しぶりー」

「あ、お久しぶり……みんな元気そうで安心したよ」


 ドーン、ドーン――


 夜空に花火が打ち上がり始めた。今年も色とりどりの花火が夜空を照らす。幻想的な風景に思わず見とれていた。


「お兄ちゃん、綺麗だねー」

「ああ、ほんとだな、毎年見てるけどやっぱり嬉しい気持ちになるな」

「ふふふ、お兄様、お姉ちゃんが手をつなぎたいみたいなので、つないであげてくれませんか?」

「なっ!? あ、いや、まぁ、そうかも……」

「そ、そっか、じゃあ……」


 僕は隣にいた絵菜の手をそっと握る。絵菜は一瞬ビクッとしたが、すぐに笑顔になった。その笑顔も浴衣姿も可愛かった。


 ドーン、ドーン――


「団吉、綺麗だな……」

「うん、綺麗だね、こうして絵菜と一緒に見れるのが嬉しくて……はっ!?」


 ふと前を見ると、高梨さんと日向と真菜ちゃんがニヤニヤしながら僕たちを見ていた。うう、恥ずかしい……。

 その日は夜空に上がる花火をみんなで楽しんだ。僕は夜空を見上げながら、昔のこと、これからのこと、色々と思い出したり考えたりしていた。これから先もみんなで見に来れるといいな。

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