第53話「本音」

 お風呂の順番が決まって、団吉が一番最初なので、私はタオルやドライヤーを出してあげるために一緒に脱衣所へ行った。


「あ、団吉、ここに置いておくから」

「ありがとう、じゃあ入らせてもらおうかな……って、あ、あれ……?」


 私は団吉が服を脱ぐのをじーっと待っていた。


「え、絵菜……? 見られるのはさすがに恥ずかしいというか、なんというか……あはは」

「ふふっ、団吉赤くなってる。可愛いな」

「え!? あ、まぁ、僕は火野とは違って筋肉がないからなぁと思って……」

「ううん、男の人って感じがする。ごめん、ゆっくり入ってきて」


 私はそう言って脱衣所を出た。恥ずかしそうにしている団吉が可愛かった。いつかお風呂に一緒に入れるといいな……と思いながら、私はリビングに戻る。


「あれ? お兄様と一緒にお風呂に入らないの?」

「なっ!? あ、いや、さすがにそれは……」

「ふふふ、絵菜ったら本当はそうしたいんでしょう、顔に書いてありますよ」

「絵菜さん、お兄ちゃんヘタレだから、ぐいぐい引っ張るのもありだと思いますよ!」

「え!? あ、まぁ、いつか機会があったらそうする……」


 ……ちょっと待て、いつか機会があったらそうするってなんだ。恥ずかしくなって俯くと、みんな笑っていた。や、やっぱり一緒に入ればよかったかな……いやいや、さすがにそれはまずいなと思った私だった。

 しばらくして団吉がお風呂から上がってきた。夏なのでTシャツとハーフパンツ姿で、ちょっとしっとりとしているところがカッコいいというか……私は勝手にドキドキしていた。


(な、なんか団吉、やっぱりだんだん大人になってきたな……可愛いからカッコいいになっている……まぁ、どっちも好きなんだけど……)


「……絵菜? どうかした?」


 私の隣に座った団吉が、私を覗き込むようにして言った。目が合うと心を読まれているような気がして、少し恥ずかしくなった。


「あ、い、いや、なんでもない……」

「そっか、あ、テレビにJEWELS出てるね、やっぱり人気だなぁ」


 JEWELSとは、オーディション番組を勝ち上がったメンバー八人で構成された人気のアイドルグループだ。たしか私たちが中学生の時にデビューしたから、もう四年以上にはなるのか。それでも人気なのはすごいなと思った。アイドルといえば東城もアイドル活動をしているが、今も頑張っているのだろうか。

 それからみんなお風呂に入って、しばらくテレビを観ながら話していたが、そろそろ寝ようかという話になった。


「あ、いつも通りですが、お兄様はお姉ちゃんの部屋で寝て、日向ちゃんは私の部屋で寝ることになっていますので」

「あ、そ、そうなんだね、いつも通りというのがよく分からないけど……あはは」

「ふふふ、お姉ちゃんがお兄様を寝かせないようにしないかと心配ですが……おやすみなさい」

「あーまたお兄ちゃんが絵菜さんを寝かせないのかー、男はこれだからいけないねー、じゃあおやすみなさーい」

「絵菜、団吉くんと仲良くするのはいいけど、ちゃんと寝かせてあげてね、おやすみなさい」

「なっ!? あ、お、おやすみ……」

「な、なんかよく分からないけど、お、おやすみなさい……」


 な、なんかいつも私たちはからかわれている気がする……また少し恥ずかしくなった。

 団吉と二人で私の部屋に行く。暑いのでエアコンを入れて、ベッドに二人で座る。


(……そういえば、団吉は私と……その、えっちなことをするのは嫌なのだろうか……私ばかりぐいぐいいくのもいけないよな……でも私は団吉と……)


「……菜? 絵菜? どうかした?」


 団吉に呼ばれてハッとした。い、いかん、なんか変なことばかり考えてしまう。団吉は前に、私たちはまだ未成年だからとしっかりと考えてくれていた。それは私のことを大事にしてくれていて嬉しい……のだが、団吉の目を見ると、私は、私は――


「え、絵菜――」


 その時、無意識に団吉をベッドに押し倒して、私が上に乗るような形になった。そのまま団吉に抱きつく。


「え、絵菜……? どうしたの……?」

「……ごめん、私おかしいんだ、団吉が私のことをちゃんと考えてくれているのは嬉しいはずなのに、団吉とくっつきたくて……さっき団吉にいたずらしちゃおうかなって思ってたけど、それだけじゃ我慢できなくて……その、え、えっちしたいって思っちゃって……」

「そ、そっか、ごめん、僕がヘタレだからいけないんだよね……いつも絵菜に我慢させてる気がする……」

「ううん、団吉は悪くない……私がよくないんだ。団吉はちゃんと我慢できてるのに……」

「ううん、ごめんね、絵菜のことをちゃんと考えてるとか言いながら、やってることは逃げてるのと一緒だよね。絵菜を引っ張ってあげたい気持ちがあるのに、そんなんじゃダメだと思う」


 そう言って団吉が私にキスをした。私は嬉しくなって自分から団吉にキスをする。お互いの舌が何度も絡まる……もうダメだ、私はおかしくなってしまいそうだった。


「……あ、え、絵菜ごめん、その……はっきり言うと、僕、避妊具を持ってない……」

「……あ、そ、そっか、そうだな、ごめん、私もすっかり忘れてた……」


 あ、危なかった、大事なことをすっかり忘れていた。そうだよな、それがないとさすがに……と思っていると、団吉が私をぎゅっと抱きしめた。


「で、でも、絵菜が大好きなのは変わりないから……こうしてくっつくのも好きだし、絵菜のにおいも好きだし……って、これは変態くさいな」

「ふふっ、そんなことないよ、私も団吉のにおい大好き……ずっと嗅いでいたい……」

「うん、ごめんね、え、えっちができなくて……もう少し後にとっておこうか」

「うん、大丈夫。でも今日はくっついたまま寝る……」


 そう言って私は団吉の胸に顔をうずめた。団吉がそっと私の頭をなでてくれている……嬉しい、ずっとこうしていたい気分だった。

 これまで人を好きになることなんてなかった私だが、恋をするとこんなにまっすぐになれるのだな。それもきっと優しい団吉だからだと思う。私は嬉しい気持ちで胸がいっぱいだった。

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