第52話「お泊まり会」

 天気も良く、暑い日が続いている。

 八月の二週目の土曜日、今日はなんと団吉と日向ちゃんが私の家に泊まりに来ることになっていた。

 この前団吉とRINEで話していたら、母さんが「たまには団吉くんと日向ちゃんを呼んだら?」と言ってくれたのだ。私は嬉しくなってすぐにそのことを団吉に伝えた。団吉は『そ、そっか、じゃあお言葉に甘えておじゃましようかな』と言っていた。

 バイトは今日と明日は休みをもらった。まぁたまにはいいのではないかと思う。ここのところバイトや教習所で忙しかったし、休みも必要だろう。

 団吉たちはまだかな……とそわそわしていると、真菜が私を見てクスクスと笑った。


「ん? な、なんか可笑おかしかった?」

「ううん、お姉ちゃんがそわそわしてるから、楽しみなんだなーって思っただけだよ」


 そ、そうか、顔に出ていたのだろうか。恥ずかしくなってしまった。

 そんなことを話していると、インターホンが鳴った。真菜と二人で出ると、団吉と日向ちゃんが荷物を持って来ていた。


「い、いらっしゃい」

「まあまあ、お兄様、日向ちゃん、こんにちは! 外は暑かったでしょう」

「こんにちは、うん、もう汗が止まらなくなってきたよ」

「絵菜さん、真菜ちゃん、こんにちは! お兄ちゃんの左手、汗だらけだよー」

「お、お前がなぜか握ってるからだろ……」


 相変わらず仲の良い兄妹だなと思って笑ってしまった。二人をリビングに案内すると、母さんがジュースとお菓子を持って来た。


「まあまあ、団吉くん、日向ちゃん、いらっしゃい。ゆっくりしていってくださいね」

「あ、すみません、急に来てしまって……お世話になります」

「お母さん、こんにちは! お世話になります!」

「ふふふ、二人とも可愛らしいですね。でも団吉くんはやっぱりカッコよくなってますね。絵菜もドキドキじゃないかしら」

「なっ!? あ、まぁ、そうかも……」


 急に言われて恥ずかしくなっていると、みんな笑った。でもたしかに団吉は今までの可愛さとともにカッコよさも出てきていた。これが大人になっているってことなのかな……。

 みんなでお菓子を食べていると、真菜が、


「あ、お兄様、夏休みの課題がまたたくさん出ているので、教えてくれませんか?」


 と言った。私も真菜に教えようとしたが、人に教えるのはなかなか難しい。団吉はすごいなと思った。


「あ、うん、いいよ。じゃあ日向も一緒に夏休みの課題をやろう」

「ええ!? わ、私は遠慮しておこうかなーなんて……あはは」

「遠慮するんじゃないよ、真菜ちゃんに課題がたくさんあるってことは、お前にもあるんだろ。一緒にやるんだよ」

「う、ううー、お兄ちゃんが厳しい……マヌケー」


 ぶーぶー文句を言う日向ちゃんを見て笑ってしまった。団吉は勉強のことになると日向ちゃんに厳しい気がする。まぁ兄として心配している気持ちもあるんだろうなと思った。

 お菓子を食べた後、勉強タイムとなった。真菜も日向ちゃんも数学をやっているみたいだ。高校時代はよく団吉に教えてもらったなと、懐かしい気持ちになった。


「お兄様、ここが分からないのですが……」

「ああ、三角関数の問題だね、ここのcosとsinがこうなって……」

「ああ! 分かりました。お兄様はやっぱりスラスラ解けてすごいですね」

「お兄ちゃんのその頭の良さが私に少しでもあったらよかったのになー。なんで兄妹でこんなに違うんだろ……」

「ま、まぁ、日頃からちゃんと勉強すればなんとかなるよ。二人とも復習を忘れないようにね」


 団吉がそう言うと、真菜と日向ちゃんが「はーい」と答えた。


「絵菜、ちょっといいかしら?」


 その時、キッチンにいた母さんが私を呼んだ。なんだろうと思って行くと、


「今日の夕飯、少し絵菜が作ってみない? 団吉くんたちも喜ぶと思うわよ」


 と、母さんが言った。な、なるほど、夕飯を作るのか。私は「わ、分かった」と言って夕飯を作ることにした。

 今日はどうやら青椒肉絲や餃子など、中華系のようだ。私は青椒肉絲を作るために牛肉を切り、しょうゆ、酒、片栗粉で下味をつけて置いておいた。その後ピーマンとたけのこをゆっくりと包丁で切る。たけのこって初めて切った気がする。

 フライパンにごま油を入れて熱して、ピーマンとたけのこを炒める。こういう炒める系は何とかなってきたかもしれない。その後お肉も入れてよく炒める。しばらくしてから酒、みりん、しょうゆなどの調味料を入れて、さらに混ぜ合わせる。いい感じになってきたかなというところで火を止めて、お皿に移した。よかった、私でも出来たようだ。まぁ母さんが隣で教えてくれたからなのだが。


「ふふふ、絵菜も出来たわね。ちょっとずつ慣れていけばいいからね」

「あ、う、うん、でも私なんかでもできるんだなって、ちょっと嬉しい……」


 三人は頑張って勉強を続けていたみたいだ。母さんが、「みなさん、そろそろ夕飯にしましょうか」と言うと、みんなで片付けて夕飯の準備をした。


「ふふふ、今日の青椒肉絲は絵菜が作ったんですよ。たくさん食べてくださいね」

「え、あ、途中から絵菜がいないって思ったら、そうだったんですね……」

「うん、みんな食べてみて。お、美味しいかどうかは分からないけど……」

「う、うん、いただきます……あ、美味しいよ」

「ほんとだ! 絵菜さん、美味しいです!」

「よ、よかった……ホッとした」

「ふふふ、お姉ちゃんちょっとずつ料理できるようになってきたね! これでお兄様と暮らしても安心だね」

「なっ!? あ、いや、まだまだだけど……」


 恥ずかしくなって少し俯くと、みんな笑った。ま、まぁ、団吉と一緒に暮らしたら私も作らないといけないからな……今のうちに練習しておかないといけないのは間違いない。自分でも食べてみたが、けっこう美味しくできていたようだ。よかった。

 夕飯をいただいた後、みんなで話しているとお風呂に入ろうということになった。いつものようにじゃんけんをした結果、団吉、日向ちゃん、私、真菜の順にお風呂に入ることになった。団吉は勝負事にはどうも弱いようだが、こういうじゃんけんでは勝てるのだなと思った。

 そうだ、今日もちょっと団吉にいたずらしちゃおうかな……と、私のいたずら心が働いてしまいそうになっていた。

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