第49話「団吉の家で」

 八月最初の日曜日。

 今日は絵菜、真菜ちゃん、火野、高梨さんが、うちに遊びに来ることになっている。一昨日の夜にRINEで話していると盛り上がって、久々に集まろうという話になった。たまにはこうして楽しむのも大事だよなと思った。


「お兄ちゃん、みなさん来るんだよね、まだかなぁー」


 日向がリビングを掃除しながら言った。


「ああ、さっき駅前に集まったと言ってたから、もうすぐじゃないかな」


 ちなみに今日は母さんは絵菜たちのお母さんとランチに出かけている。あの二人は話が長そうなので、しばらく帰って来ないだろう。

 そんなことを思っていると、インターホンが鳴った。僕の膝に乗っていたみるくを抱いて出るとみんなが来ていた。


「あ、団吉、こ、こんにちは」

「お兄様、こんにちは!」

「おーっす、久しぶりだなー」

「やっほー、ほんとだねー、お久しぶりー。あ、みるくちゃん可愛いー!」

「いらっしゃい、外は暑かったよね、エアコン入ってるから上がって」


 みんなが「おじゃましまーす」と言って上がった。リビングに案内すると、日向がお茶を持って来てくれた。


「みなさまいらっしゃいませー、ささ、麦茶をくいっと飲んで、のどを潤してください!」

「おーい、なんかどこかのサラリーマンみたいだな」


 僕と日向のやりとりに、みんな笑った。と思ったら、真菜ちゃんの隣に座った日向に、高梨さんが突っ込んで抱きついていた。高梨さんは年下の女の子が大好きなのだ。


「日向ちゃんも真菜ちゃんも久しぶりだねぇー、二人ともちょっと大人になった?」

「お久しぶりです! そうですかね、自分ではよく分からないのですが」

「ふふふ、優子さんは変わらず綺麗ですね」

「ありがとー! ああ、二人が大人になって可愛い……これはもう食べるしかないのでは……じゅるり」

「た、高梨さん心の声が……でも、久しぶりに二人に抱きついているの見たよ」


 僕がそう言うと、またみんな笑った。


「団吉、今日はお母さんと長谷川くんはいねぇのか?」

「ああ、母さんは絵菜たちのお母さんとランチに行ってて、長谷川くんは家族で出かける用事があるらしいよ。まぁまたそのうち会えばいいんじゃないかな」

「そっか、しかし団吉の家に来るのも久しぶりだなー、高校生の時はみんなでよく集まったな」

「そーそー、課題が終わらないから日車くんに教えてもらいながらやったねぇー、あれはきつかったねぇ」

「うっ、優子、思い出してしまうじゃないか……でも、団吉のおかげでなんとかなってた」

「あはは、なんか懐かしいね、課題がいっぱいある時はよく集まってたもんなぁ」


 なんだか高校時代を思い出すようで、懐かしい気持ちと同時に嬉しくなった。


「そうだなー、きつかったけどあれも思い出ってことで。あ、日向ちゃんと真菜ちゃんは二年生の夏だから、もう部活も中心になってるんじゃねぇかな?」

「あ、はい! サッカー部は健斗くんもみんなも頑張ってます。私もなんとか頑張ってるところです」

「バスケ部は三年生が引退して、私は一年生のマネージャーの子と一緒に頑張ってます。みんな頑張ってますよ」

「そかそかー、みんな頑張ってて偉いよー。あー私も思い出すなぁ、あの頃も楽しかったなぁ」

「そうだなー、俺も朝から晩までサッカーのこと考えてたなぁ、なんだかそれも懐かしいぜ」


 火野と高梨さんが笑った。二人も高校時代は部活で頑張っていたのだ。高校一年生の時は火野は足を怪我していたが、またサッカーができると言って嬉しそうだったのを思い出した。


「試合も観に行かせてもらったけど、二人ともすごかったよね。スポーツではやっぱり二人にはかなわないなぁって思ったよ」

「まぁ、俺らが団吉に勉強でかなわねぇのと一緒だよな。スポーツならなんでもこいってもんだ!」

「そーそー、スポーツならおまかせあれ! 実はねぇ、大学でもバスケのサークルがあったから入ったんだー。部活動みたいにガンガン試合やる感じではなくて、みんなで身体を動かそうって感じで。楽しいよー」

「ああ、そうなんだね、それはよかった。僕も写真研究会ってサークルに入って、楽しくやってるよ」

「ふふっ、みんな大学生活が楽しそうだな。私も大学目指せばよかったかな……」

「何言ってんのー、絵菜はやりたいことが見つかったんだから、それでいいんだよー」

「そうだな、大学が全てじゃねぇからな。専門学校行ってる人も、高校出て働いてる人も、浪人してまたチャレンジする人も、みんな偉いんだよ」

「そ、そっか……あ、優子、また爪磨いてあげようか。カラーリングもできるけど」

「おおー! じゃあお願いしようかなー! いい色あるー?」


 絵菜と高梨さんが楽しそうに絵菜が持っていたマニキュアを見ていた。さすが、女性は綺麗になることを忘れないんだなと思った。


「……こ、こんな感じかな、どうだろ?」

「おおー! すごーい! いいピンク色してるー! 絵菜、ありがとー!」


 高梨さんが手を見せてきた。おお、たしかに綺麗な色をしている。爪も輝いて見えた。

 その後、日向と真菜ちゃんの爪を磨いてあげている絵菜だった。きっと絵菜自身も嬉しいんだろうな、なんだか僕も嬉しくなった。


「そうだ、今度また花火大会あるじゃんか、毎年のことだけど、今年もみんなで一緒に行かねぇか?」

「ああ、そうだね、そうしようか。みんなでよく行ったよね」

「うんうん、私はやっぱり火野さんと高梨さんがお付き合いを始めたのが忘れられないなー!」

「ふふふ、そうでした。お二人とも嬉しそうで、今でもあの笑顔を思い出せます」

「ああ、そうだな、火野がガチガチだったのも覚えてるし、二人で手つないでたのも覚えてる」

「お、おお、そうだった、なんかあの時のこと思い出して恥ずかしいな……」

「そ、そだね、そんなこともあったね、わ、私も思い出しちゃった……」


 火野と高梨さんが同じように俯くので、みんな笑った。この二人は高校一年生の時の花火大会で、火野が告白してお付き合いするようになったのだ。たしかに懐かしい気持ちになった。


「あはは、そんなこともあったね。まぁ今年もみんなで行けるのを楽しみにしておくよ」


 それからしばらく最近の話や、思い出話で盛り上がった。みんな元気で楽しそうでよかった。

 今年も花火大会にみんなで行くのか、そちらも楽しみになってきた僕だった。

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