第47話「前期試験」
前期試験の日がやって来た。
僕は高校時代と同じように、これまできちんと準備してきたつもりだ。講義も真面目に受けたし、レポートの提出や講義内容の復習も真面目に取り組んできた。大学生になると今まで以上に楽しいこともあるが、学業も疎かにしてはいけない。
今日から一週間、試験は行われる。高校の時よりも長い。これは厳しい戦いになりそうだなと思った。厳しい戦いってなんだ?
まぁそれはいいとして、大学に行くと、校門のところで偶然拓海と一緒になった。
「おはよー、ついに試験だなぁ、なんか緊張してきたっつーか」
「おはよう、そうだね、まぁ受験の時に比べるとまだマシなのかも」
「そうだなー、受験の時はマジでドキドキしたよ。私立は地元の大学受けたけど、どうしてもここに行きたかったからさ」
「そうなんだね、まぁそのおかげで僕は拓海と出会えたんだけど……」
「ああ、そう思うとやっぱりここでよかったなーと思ってな。とりあえず今日からしばらく頑張るとするかー」
学校が新しくなると一人になりがちだった僕は、また一人になるのだろうかと思っていたが、たまたま隣になった拓海のおかげで一人にならずに済んだのだ。本当に感謝している。
拓海が言ったように、今日からしばらく頑張るかと、ひっそりと気合を入れていた僕だった。
* * *
「いやー、みんなお疲れさまー! 無事に前期の試験も終わったということで、乾杯しようではありませんかー!」
居酒屋で川倉先輩の声が響く。あれから一週間後、試験の最終日に僕たちサークルメンバーは『酒処 八神』に集まった。昨日川倉先輩からグループRINEに連絡があって、今日はみんなで飲みに行こうと言われていたのだった。
みんなでグラスを持って、「かんぱーい!」と言ってグラスを当てた。まぁ僕はいつも通りジュースなのだが。
「うんうん、みんなお疲れさまだね! 団吉くんと拓海くんは初めての試験だったが、どうだったかい?」
慶太先輩がニコニコしながら訊いてきた。
「あ、ちょっと緊張しましたが、まあまあできたんじゃないかなと思います」
「俺も同じような感じっつーか、やれることはやったかなという感じです」
「そうかそうか! さすがの二人だね! ボクが見込んだだけあるよ。そのまま頑張ってく――」
「はいはい、いつから拓海くんまでボクが見込んだ男になったのよ。でも、二人とも頑張ったねー、これで夏は思いっきり楽しむことができるね!」
川倉先輩がそう言ってビールをぐいっと呑んだ。ま、またすごい勢いで呑むのだろうか……と思っていたら、さっきから静かな人がいる。もちろんその人とは――
「あ、な、成瀬先輩もお疲れさまです」
「……ふふふ、団吉くんお疲れさま。私も頑張ったけんね~、これは褒められもよかって思わん?」
な、なんと、もう成瀬先輩は出来上がっているではないか……って、よく見るとビールをあっという間に呑んで焼酎にグラスチェンジしている。グラスチェンジってなんだ?
「あ、さ、さすがですね、成瀬先輩も素晴らしいです……あはは」
「ふふふ、団吉くん、女性を褒める時は可愛いとか綺麗とか言ってよかとよ。言われて嫌な気持ちになる人はおらんけんね~」
「え!? そ、そっちですか、あ、あの……今日も可愛いですね」
「ふふふ~、団吉くんに褒められちゃった~、嬉しかね~」
「ああ、今日はもう蓮さんは酔っているのか。すまないね団吉くん。おっと、そういえばボクも今月誕生日を迎えてね、二十歳になったし、旅行前になったけど今日はお酒をいただいてみようかなと思っているよ」
「お~そうだった! 大将ー! 慶太にビールを一杯お願いします~!」
「おう! すぐ持って行くよ!」
川倉先輩が大将に注文すると、すぐにビールを持って来てくれた。
「さあさあ、慶太、ぐいっといっちゃって~」
「ああ、いただきます……ん? ちょっと苦いけど、こういう味だったのか。なかなか美味しいではないか!」
「おお~、慶太も呑める人なのかな~、いいねいいね~、ぐびぐびいっちゃって~」
川倉先輩に絡まれながら慶太先輩もお酒を呑んでいる……も、もしかして慶太先輩も無限に呑める人なのだろうか……ん? でもなんか様子がおかしいというか……?
「あ、あれ? 慶太先輩、顔がもう赤くなってるような……」
「あ、ほんとだ、慶太先輩、顔が赤いっつーか、いつもと違うっつーか」
「え? そうなのかい? ボクはあまり分からないのだが……そんなに赤いかい?」
「あはは~、慶太はすぐ顔に出る人なんだね~、まぁあまり無理せずに、自分が呑める範囲でいいからさ~」
「ふふふ、慶太くん、顔赤くして可愛かね~、うんうん、無理はせんでよかとよ~」
「あ、ああ、そうするけど、そうか、ボクは顔に出る人なのか、なんか新たな発見という気がして面白いね」
ということは、川倉先輩や成瀬先輩よりはお酒に弱いということなのかな……よく分からないが、やっぱり慶太先輩の顔が赤い。まぁそういう人もいるよなと思った。
「でも、初めてのお酒は美味しいよ。ボクは少しずつ楽しむ方が合っているのかもしれないね」
「そうですか、よかったです。まぁたしかにそちらの方がいいと思います……若干ハイペースな方がお二人いるようなので……」
「あ~、団吉くん、私たちのこと言ったでしょ~、いけないんだ~」
「団吉くん、そげん私たちは呑んでなかよ~、いけない子にはおしおきばせんといかんね~」
「え!? い、いや、まぁ、この場が楽しいというのは変わりないので……って、ち、近――」
いつの間にか川倉先輩と成瀬先輩に挟まれてぐいぐい来られている僕だった。二人ともお酒のにおいがするが、それに混じってふわっといいにおいが……はい神様、僕は変態確定です。
「まったく、二人は相変わらずだね。すまないね団吉くん、許してやってくれたまえ」
「あ、は、はい、大丈夫です……なんか近いけど……あはは」
そ、そんな感じで盛り上がる僕たちだった。
とりあえず、試験も終わって僕はホッとしていた。これから先も続いていくが、勉強も油断せずに取り組んでいきたいところだ。
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