第46話「一緒に勉強」
ある日、僕は拓海と一緒に勉強をするために、また拓海の家におじゃましていた。
七月末の試験が近い。拓海も分からないところがあると言っていたので、僕が教えることになったのだ。まぁ、僕もまだ手探り状態のところはあるのだが、友達が頑張っているのを見過ごせなかった。それは高校時代から変わらないなと、ちょっと懐かしくなった。
「オレンジジュースとコーラとあるけど、団吉はどっちがいい?」
「あ、じゃあコーラで、ありがとう」
拓海がコーラを出してくれた。
「いやー、試験が近いなぁ、俺もなんとか真面目に講義は出ているから、単位的には今のところ大丈夫だとは思うんだが、試験の結果も大事だよなぁ」
「そうだね、普段のレポートとかもそうだけど、試験も二年生になるためには大事な要素の一つだよね」
「そうだなー、総合的にできないといけないのかもしれないなー。ああ、ちゃんと勉強しないとな。分からないところあるから教えてくれ」
「あ、うん、いいよ」
二人で勉強を進める。拓海は解析学と微分積分学を中心に勉強をしているようだ。
「なぁ、ここどうやったらこうなるんだ?」
「ああ、三角関数の極限覚えてる? ここはこうして、こうなって……」
「あーなるほどな! 団吉の説明分かりやすいな。昔からそうなのか?」
「そうだなぁ、たしかに高校時代もよく友達に教えてきたけど、みんな分かりやすいって言ってくれたよ」
「そうかー、友達の気持ちが分かるよ。まるで先生みたいだもんな」
拓海の言葉に、僕は少しハッとした。そう、この前日向たちと話していた通り、僕は数学の先生になるのが夢だった。先生になって、みんなに分かりやすく教えてあげたい。その気持ちはずっと持っていた。
「そうかな、まぁ、僕は実は数学の先生になりたいなって思っててね」
「おお、そうなのかー、団吉ならいい先生になれるよ。生徒からの人気もあるんじゃないかって思うな」
「そ、そっか、まぁ僕が教えることで、人が分かったって理解してくれるのが嬉しくてね。その気持ちは忘れずに持っておきたいなと思って」
「そうだなー、しかし団吉は偉いな、先のことまで考えていて。俺なんて将来のことまではまだ分からないっつーか」
「いやいや、まぁ、まだ先は長いし、これから見つけていくって感じでもいいんじゃないかな」
「そうかもしれないなー、ああ、おしゃべりしてないで進めないとな」
真面目に勉強に取り組む拓海は、きっと高校でもけっこう勉強ができた方なのではないだろうか。僕も負けられないなと、ひっそりと気合いを入れていた。
* * *
「ふー、こんなもんかなー、ちょっと休憩ー。さすがに疲れるなー」
そう言って拓海がテーブルに頭をつけた。あれからしばらく二人で勉強を続けていた。拓海も分からないところもあるが、コツを教えるとスイスイと解いていく。さすがだなと思った。
「うん、さすがに疲れるね……拓海はフランス語とかできそう?」
「あー、俺文系科目苦手だからさ、ちょっと自信ないっつーか。さっき団吉に教えてもらったけど、団吉は何でもできるんだなー、すごいなぁ」
「あ、いや、僕も完璧ではないから、間違えることもあるよ」
「いやー、すごいと思うなぁ。高校ではやっぱり一番成績がよかったのか?」
「あ、ううん、僕よりもすごい人がいたよ。生徒会長もやってた女の子で、テストでは全然勝てなかったな」
僕はふと九十九さんのことを思い出した。九十九さんはいつも学年一位で、勉強では僕の目標の人でもあった。な、なんか僕に近いこともあったが、それは気のせいだろう。
「マジかー、団吉より勉強できるって、すごすぎるなー。その人はうちの大学なのか?」
「いや、ちょっと離れたところにある大学の理学部に通ってるよ。この前久しぶりに会ったけど、元気そうでホッとしたよ」
そういえば九十九さんは、なぜか男の人から声をかけられることがあると言っていた。今頃大丈夫だろうか……と、ちょっと心配になってしまった。
「そっかー、でも友達に会えるっていいよな。俺なんて地元が遠いからさー、なかなか会えないっつーか」
「ああ、そうだよね、夏休みとか実家に帰ったりするの?」
「ああ、数日だけ帰ろうかなって思ってるよ。なんで帰るのが少しかっつーと、俺、車の免許を夏休みに取ろうかなって思っててさ。この前サークルで免許の話あったじゃんか、それでほしくなってさ」
な、なるほど、車の免許か。たしかに夏休みという長い休み期間ならちょうどいいのかもしれない。
「そっか、そういえば僕も免許持ってないんだよなぁ」
「あ、そうだ、俺と一緒に教習所に通わないか? 嫌だったら無理しなくていいんだけど、俺も知り合いがいると心強いしさ、どうだろ?」
「あ、なるほど……うん、ちょっと考えてみるよ」
そこまで話して、そういえばこの前タブレットを買うためにバイト代を使ってしまったなと思った。全くお金がないわけではないが、免許を取るのってどのくらいお金が必要なのだろうか。後で調べておこうかなと思った。
「そういえばさ、夏休みのサークルでの旅行、楽しみだなー。なんか大学生って感じするよな、お泊まりだし」
「ほんとだね、これも大学生の楽しみの一つなのかもしれないね」
「そうだよなー、俺らもお酒が呑めるようになったらもう少し楽しめるのかもしれないけど、まぁそれは楽しみとしてとっておくとするか」
「そうだね、来年には呑めるようになるから、そのときは拓海と楽しむことにするよ」
大学生になって色々なことを楽しんでいるが、一歩ずつ大人になっているのが実感できた。
お酒か……僕は父さんやおじいちゃんのように呑める人なのだろうか、それとも全然ダメなのだろうか。それが分かるのももうすぐだ。何だか楽しみになってきた。
その後、拓海が英語で分からないところがあるというので、僕は教えていた。こうして教えることで自分の記憶の整理にも役立つ。なんとか頑張って試験を乗り越えたい気持ちだった。
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