第44話「写真家」
昨日、梅雨明けの発表があった。
例年よりは少しだけ早いとかなんとか言っていたが、今年もそれなりに雨の日があったなと感じた。西の方では大雨になっていた日もあって、あまり降りすぎるのも困るなと思っていた。
今日は平日だが午前中で講義は終わる。一限からだったので絵菜が朝一緒に行こうと言っていて、二人で電車に乗った。
「団吉は午後も講義があるのか?」
「あ、いや、今日は午前中で終わるよ。絵菜は?」
「私も午前中で終わり。あ、そしたら午後会えないかな?」
「ああ、うん、今日はサークルもバイトもないから、会えるよ」
「そっか、私もバイトないから、たまには私の家に来ないか?」
「分かった、終わったら駅前で待ってるね」
そんな話をしながら絵菜の学校の最寄り駅に着くと、絵菜が「じゃあ、またRINEする」と言って降りて行った。
そっか、絵菜も午前中で終わるのか。会える日が増えて嬉しかった。
そんなことを考えながらも午前中の講義をみっちりと受けた。まだ前期も終わっていないが、今のところ真面目に講義も受けているから、単位的にも問題ないだろう。そして今月末には前期の試験がある。しっかりと取り組んでいきたいところだ。
講義が終わり、お昼はどうしようかなと思ったが、絵菜も食べていない可能性があるので、一緒に食べようかなと思った。とりあえず駅前まで戻る。RINEを見てみると、『終わった、今から駅前に行く』と絵菜からRINEが来ていた。
僕が先に着いたみたいで、日陰のベンチに座ってしばらく待っていると、
「ご、ごめん団吉、待たせたかな」
と、絵菜がやって来た。
「ううん、大丈夫だよ、学校お疲れさま」
「ありがと、団吉もお疲れさま。団吉はお昼食べた?」
「あ、いや、絵菜もまだかなって思って、一緒に食べようかなと思っていたけど……絵菜は食べた?」
「ううん、私もまだ。あ、そしたらハンバーガーでも買って持って帰らないか?」
「ああ、いいね、そうしようか」
二人で駅前のハンバーガー屋に行く。ここも高校時代からよく来ている場所だな。僕も絵菜も期間限定の海老カツバーガーにした。
できたてのハンバーガーを持って絵菜の家に行く。そういえば絵菜の家に来るのは久しぶりな気がした。絵菜が「あ、上がって」と言ったので、僕は「おじゃまします」と言って上がらせてもらった。
二人でリビングに行く。もちろん絵菜のお母さんも仕事だし、真菜ちゃんも学校でいない。絵菜がソファーに腰掛けて「こっち来て」と言ったので、僕も隣に座った。
「あ、まだ温かいし、ハンバーガー食べちゃおうか……え?」
ハンバーガーに手を伸ばそうとすると、先に絵菜が僕にきゅっと抱きついてきた。
「え、絵菜……?」
「ふふっ、ごめん、抱きつきたくなって、つい」
「あ、そ、そっか、絵菜だけずるいな、じゃあ僕も……」
僕もそっと絵菜を抱きしめる。これまで何度も絵菜を抱きしめているが、胸のドキドキはいつも通りおさまらないのだった。絵菜の綺麗な金髪がふわっと僕に当たる。
「……団吉」
絵菜が僕の目を見てニコッと笑った後、僕の唇にキスをしてきた。そういえば最初は絵菜がキスを求めていたのに、僕はどうしたらいいのか分からずに混乱していたなと、懐かしい気持ちになってしまった。
「ふふっ、この前の七夕のデート、私嬉しかった……ほんとに団吉がますます大好きになった」
「うん、僕も絵菜のことを想って一生懸命考えた……んだけど、やっぱりちょっと僕らしくなかったかな」
「ううん、私のために考えてくれたっていうのがとても嬉しい……私ドキドキしてヤバかった」
「そっか、嬉しいよ。僕も絵菜が大好きだなってよく分かったよ。あ、ハンバーガー食べようか」
二人で買ってきたハンバーガーを食べる。うん、海老が大きくて美味しい。期間限定だけどまた食べたいなと思った。
ハンバーガーを食べた後、僕はそうだ……と思って絵菜に提案してみた。
「絵菜、ちょっと絵菜の写真を撮らせてもらってもいいかな? この前のデートの時も撮ろうかと思ったんだけど、暗かったからやめておこうかなと思って。僕も一応写真研究会で色々先輩方から教わったから」
「え、そ、そっか、私を撮るのか……?」
「うん、スマホでポートレートを撮る練習もしてね、そのままソファーに座ってていいよ」
僕はスマホを取り出して、絵菜を撮ることにした。「ちょ、ちょっと待って」と言って、絵菜が髪の毛を慌てて整えている姿が可愛かった。
「はい、チーズ」
僕は色々な角度、距離から絵菜を撮った。なるほど、先輩方が言われていた通り、角度、距離、明るさなどでも雰囲気が違う。絵菜も僕のスマホを覗き込んできた。
「な、なんか背景がボケているような感じがするな……」
「ああ、ポートレートモードで撮ったからね、f値というものをいじるとこんな感じでスマホでも背景をぼかすことができるんだよ」
「そっか、なんか団吉が写真家っぽいな」
「あはは、カメラも持ってないしまだまだだけどね。これとかよく撮れてるんじゃないかな。きっと絵菜が可愛いからだね」
「……もう、団吉がどんどんお世辞がうまくなってる……」
「ううん、お世辞じゃないよ、ほんとに絵菜が可愛くて。綺麗な金髪はやっぱり写真映えするみたいだね」
僕がそう言うと、絵菜は「そ、そっか……」と、ちょっと恥ずかしそうにしていた。そんな絵菜も可愛かった。
「あ、そうだ、私も団吉の写真撮りたい」
「そっか、うん、絵菜のスマホにもポートレートモードがあれば、使ってみるといいよ」
僕はスマホのカメラの使い方を絵菜に教えて、今度は僕がソファーに座った。絵菜がパシャパシャと何度か僕を撮った。
「団吉はやっぱり写真で見ても可愛いな」
「そ、そっか、よく言われるけど本当に自分ではよく分からないんだよね……自信持っていいのかな……」
「うん、可愛いのが団吉だから。あ、また二人で一緒のところ撮らないか?」
「あ、うん、いいね。そうしようか」
二人でソファーに座って、僕が腕を伸ばして写真を撮る。以前撮った時よりもいい感じで撮れている気がするのは、先輩方から教えてもらったからだろうか。
「ふふっ、嬉しい……団吉の写真待ち受けにしようかな」
「あはは、ほんとはいいカメラで絵菜を撮りたいんだけどね、お金貯めて買うようにしようかなと思っているよ」
一眼レフなどのいいカメラで撮るとまた違うのだろうか、そんなことを考えていた僕だった。
それよりも、こうして絵菜と一緒にいれる時間がとても嬉しい。絵菜の笑顔を見ていると、僕も自然と笑顔になっていた。
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