第43話「七夕デート」
テストも終わり、今日は七月七日。日曜日で団吉とデートをする予定にしていた。
私はバイト代で新しく買った薄いピンクのスカートをはいた。そういえば団吉と初めてデートをした時もこんな色のスカートだったな、なんだか懐かしくなった。
今日は団吉が夜に出かけたいところがあると言っていた。詳しい場所は教えてくれなかったのだが、団吉が考えてくれたことが私は嬉しかった。
夕方に駅前で待ち合わせにしていたので、私は遅れないように家を出た。日は傾いてきたが外は蒸し暑い。でも晴れてよかったなと思った。
駅前に着くと、団吉が先に来ていたみたいだ。私は団吉の元へ駆け寄った。
「ご、ごめん、遅れてしまったかな」
「ううん、まだ時間になってないから、大丈夫だよ。なんか僕楽しみで早く着いてしまったみたいで」
「そっか、私も楽しみにしてた」
「うん、あ、絵菜の格好可愛いね。あれ? な、なんか自分が気になってしまった……!」
「ふふっ、団吉もカッコいいから大丈夫。あ、電車来るみたいだな……って、どこに行くんだ?」
「ああ、それはまだ秘密。僕について来て」
いつもデートをする時は行くところを話してくれる団吉だが、やっぱり今日は詳しい場所を教えてくれなかった。まぁいいかと思って団吉について行く。電車に乗り、しばらく揺られる。けっこう長いこと乗っているんだな……と思っていたら、団吉が「ここで降りよう」と言った。
「あ、あれ? ここどこだ……?」
「ああ、けっこう南の方まで来たね。ここからちょっと歩くけど、いいかな?」
「う、うん」
団吉がそっと私の手を握った。二人で手をつないで歩いて行く……のだが、私は本当にここがどこか分からなかった。団吉とも来たことはないよな……と思ったその時、私の目の前に――
「あ、う、海……!?」
「うん、あそこの海の見える公園に連れてきたかったんだ。あの公園、前方は海が見えるのと、後方は光があって夜景が綺麗だよ」
な、なるほど、海か……あまり来ることのない場所のはずだ。まだ少しだけ明るいが、夕陽が海に当たってとても綺麗な色だった。
「あ、公園に行くのは後にして、先に夕飯食べようか。この近くに美味しいカレー屋さんがあるらしくて、そこでもいいかな?」
「あ、う、うん、大丈夫」
公園の近くのカレー屋に二人で入った。インドカレーのお店みたいで、店内も異国の雰囲気があった。
団吉はじゃがいもとナスのカレーを、私はバターチキンカレーを選んだ。キョロキョロと店内を見渡しながら、私は団吉に訊いてみた。
「な、なぁ、団吉はここ知ってたのか……?」
「ああ、いや、公園もここも、ネットで一生懸命調べてね、ここが美味しいって書いてあったから。僕も初めて来るところだよ」
そ、そっか、もしかして他の女の人と来てたんじゃないかとか、変なことを考えてしまった自分が恥ずかしくなった。
注文していたカレーが運ばれてきた。カレーのスパイシーな香りがして美味しそうだ。
「いただきます……あ、美味しい。絵菜のは美味しい?」
「うん、美味しい。私が作ってもこうはならない……」
「あはは、やっぱりプロが作ると違うよね。でも絵菜も少しずつ料理できてるよね」
「いや、まだ真菜や団吉がいるからなんとかなってるだけで……もっと練習しないと」
「うんうん、少しずつね。あ、僕のカレー少し食べてみる?」
二人で少しだけお互いのカレーを食べてみる。うん、団吉のもまた味が違って美味しい。なるほど、ナスを入れても美味しいのだなと思った。
カレーをいただいた後、外に出るともう日が沈んでいた。二人で海の見える公園に歩いて行く。ちょっと小高い丘のようなところにあって、たしかに前方には海が、後方には街の明かりが見えて綺麗だった。
「あ、き、綺麗……」
「ほんと綺麗だね、あそこのベンチに座ろうか」
見晴らしのいい場所にあったベンチに二人で腰掛けた。目の前に海が広がっている。こんなところがあったのかと、びっくりしたのと同時に、私は嬉しい気持ちになった。
「あの海、夏は海水浴場になっているみたいだから、いつかみんなで来るのもいいかもしれないね」
「そっか、そうだな、プールは行ったけど、あまり海に行くことないからな……」
「うん。あ、絵菜、上を見て」
団吉が上を見ているので私も見ると、星がたくさん輝いていた。今日は雲も少なく晴れていたのと、街灯はあるが周りがそんなに明るくないこともあって、一段と星が輝いて見えた。
「あ、星も綺麗……」
「うん、絵菜、今日は何の日か知ってる?」
「ん? 今日は七月七日だから……七夕?」
「うん、七夕といえば、織姫さんと彦星さんはね、二人とも真面目で働きものだったんだ。でも二人が結婚した後、遊んで暮らすようになってね、怒った神様が二人の間に天の川を作って引き離したんだって。それから二人はまた真面目になるんだけど、一年に一度、今日しか会えなくなってしまってね」
団吉がぽつぽつと話してくれた。一年に一度しか会えないのか、もし私と団吉がそうなってしまったら、私は悲しくなってしまうだろうな。
「……まぁ、今の話は諸説あるみたいだけどね。でも、僕はやっぱり離れるのは嫌だなって。こうして絵菜のそばにいて、絵菜と一緒に海や空を眺めていたいなって思って。な、なんかちょっとキザな奴って思われそうだけど」
団吉がそう言って少し笑った。私は胸がドキドキした。離れる時間も多くなってしまったが、こうして言葉にしてそばにいたいと言ってくれるとやっぱり嬉しい。私も団吉のそばにいたい。その気持ちはずっと変わらない。私は嬉しくなって団吉の左腕に抱きついた。
「え、絵菜……?」
「嬉しい……すごく嬉しい。こうして団吉が今日のこと考えてくれて、私と一緒にいてくれて……ますます大好きになった。あ、それは変わらないか」
「あはは、僕も大好きだよ……って、や、やっぱりキザな奴っぽくない? 僕らしくないというか……」
「ふふっ、そんなことないよ、さっき織姫と彦星にも『さん』をつけていたから、優しい団吉らしいなって思った」
「そ、そっか、なんか急に恥ずかしくなってきた……! ま、まぁいいか……」
慌てる団吉を見て、私は笑ってしまった。
「そうだ、絵菜とずっと一緒にいれますようにって、お願いしておこうかな」
「うん、私も団吉とずっと一緒にいれますようにってお願いしておく」
二人で海と星空を眺めていた。高校一年生のあの時、団吉と出会えて、そして可愛くて優しい団吉を好きになって本当によかった。
私は嬉しすぎてどこかフワフワした気持ちになっていた。
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