第41話「旅行計画」

 六月末の木曜日、今日は講義が終わって研究棟に行くことにしていた。ここのところバイトに入る日が多く、なかなかサークルの方へ行くことができなかった。

 そういえば最上さんの両親は正式に離婚届を提出したらしく、最上さんは考えた結果、お母さんについて行くことにしたと言っていた。その最上さんと昨日こんな会話をした。


「……そっか、お母さんについて行くんだね」

「うん、絵菜さんに言われて気がついた。ちょっとの差だけど、あとで大きくなるかもって」

「そうだね、どんな選択でも、最上さんが楽しく過ごしてもらえるのが一番だよ」

「ありがと、日車さん……あ、日車さんじゃなくて、団吉さんって呼んでもいい? うちのことも舞衣子って呼んでほしい」

「え!? そ、そっか、分かった……じゃあ、舞衣子ちゃんと……」


 そ、そんな感じでちょっと恥ずかしかったが、最上さ……舞衣子ちゃんは笑顔を見せた。うん、やっぱり笑顔の方が可愛いなと思った。

 そんなことを思い出しながら部室に行くと、先輩方と拓海が何かを話していたようだ。


「おっ、団吉くんお疲れさまー」

「お疲れさまです、すみません遅くなりました」

「いやいや、気にしないでー。みんなさっき集まったって感じだからさー」


 川倉先輩がケラケラと笑った。川倉先輩も笑顔が可愛くて美人だよな……って、ぼ、僕は何を考えているのだろう。


「やあやあ、団吉くんお疲れさま。ここのところ会えなくてボクは寂しかったよ」

「あ、すみません、どうしてもバイトの方が忙しくて……」

「そうかそうか! いやいや、バイトも頑張らないといけないからね、さすが団吉くんだ。ボクが見込んだ男だよ」

「ボクが見込んだってのが余計だけど、そうだよね、大学生は色々忙しいよね。こっちは空いてる時でいいからさ、よろしくね」

「あ、はい、今日からしばらくはこっちに来れると思います」


 大学生活も勉強に、サークルに、バイトに、遊びに、それぞれ楽しんでいきたいという気持ちは変わらない。しばらくバイトを頑張ったので、今度はサークルに力を入れようと思っていた。もちろん学業も忘れてはいけないが。


「ふふふ、団吉さんも頑張っていますね。今日はそんなみなさんにいいお知らせがあるんですよね、亜香里先輩」


 成瀬先輩がニコニコしながら言った。いいお知らせ? 何のことだろうか。


「そうそう! はいみなさん、ホワイトボードに注目注目ー!」


 そう言って川倉先輩がホワイトボードに何かを書いている。なんだろう……と思っていたら、『写真研究会 夏季休暇旅行計画』と書いたようだ。


「じゃーん! ここに書いた通り、夏休みにこのメンバーで旅行をしないかなと思ってねー」

「お、おお、旅行ですか、なんつーか、大学生って感じがするっつーか」

「そう! 拓海くんご名答! 勉強ももちろん大事だけど、大学生らしく遊びも楽しまないとねー。ということで今日はこの旅行計画の話ができたらなーと思ってね」


 な、なるほど、旅行か……たしかに拓海の言う通り、大学生っていう感じがする。なんか大人になった気分だ。


「まぁ、そういう話を慶太と蓮ちゃんとしてたんだけどね、旅行先は伊豆の方に行ってみようかなと思っててねー。一泊二日で行くにはちょうどいいと思うし、写真スポットも色々ありそうで、撮影しながら行けたらいいなーとね」

「そうなんだ、温泉もあるしゆっくりできそうな気がしてね、ボクは大賛成だよ!」

「そうですね、絶景スポットも色々ありますし……撮影のしがいがありますね!」


 そうか、伊豆方面か……僕は行ったことがない。たしかに距離的にもいいのかもしれないなと思った。


「な、なるほど……でも移動手段はどうしましょうか?」

「ふっふっふ、団吉くんいいところに気がついたね、私と慶太と蓮ちゃんが車の免許を持っているので、私のお父さんのワンボックスカーを借りようと思ってねー。その車なら五人乗るし、運転も交代しながらやればちょうどいいんじゃないかなー」


 お、おお、車での移動か。そういえば僕は運転免許を持っていない。拓海はどうなのだろうか。


「そうなんですね、僕は免許を持ってないです……拓海は免許持ってる?」

「あ、いや、俺も持ってない。だから何の役にも立たないっつーか……」

「いやいや、団吉くんも拓海くんも、気にしないでくれたまえ! 三人いれば十分だよ。ボクの華麗な運転を見せてあげようではないか!」

「ふふふ、そうですよ、団吉さんと拓海さんはじっくり楽しんでもらえればいいのです」


 慶太先輩と成瀬先輩がニコニコしている。な、なんか申し訳ない気持ちになるが、持ってないものは仕方がないので、お言葉に甘えることにしようと思った。


「まぁ、三人で安全運転で行けば大丈夫だよー。そして伊豆で一泊して、また伊豆方面を楽しんで帰ってこようかなーってね」

「な、なるほど、はい、僕はいいと思います」

「お、俺も賛成っつーか、いいんじゃないかなと思います」

「よーし、これで全員賛成ということになったね! 一応八月に行こうと思っているので、みんなそのつもりでいてねー。ホテルは私が予約するし、細かいプランはこれから決めるってことで。あ、当日気になった場所に行くのもありだね!」

「ああ、ボクも楽しみになってきたよ! その頃には二十歳にもなっているし、ボクもついにお酒が呑めそうだよ」

「ふふふ、ついに慶太くんもお酒デビューですね! 一緒に呑みましょう」


 お酒といえば、この前の居酒屋での出来事を思い出した。とても楽しかったのだが、女性二人の呑みっぷりがすごかった……また同じような感じになってしまうのだろうか。


「ということで、時間もあるし細かいプランを調べながら決めてみようか。ここに行きたいというのがあれば遠慮なく言ってねー。みんなの旅行だからね」


 五人でスマホやパソコンを使いながら、伊豆のことを調べながら話していた。なるほど、こういう場所があるのだな。温泉もあるし食べ物も美味しそうだし、何だか楽しみになってきた僕だった。

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