第39話「みんなの先生」
日向の誕生日から二日後、日曜日の今日は、僕は頼まれごとがあった。
それは、日向たち高校生の定期テストが近いので、勉強を教えてくれないかということだった。日向も少しずつ勉強に対して真面目に取り組むようになったのだな……と思っていたら、今目の前であからさまに嫌そうな顔をしている日向がいた。
「ううー、せっかく誕生日があったのに、今日は勉強だなんて……」
「そう文句言うなよ、日向が言い出したことなんだぞ。真菜ちゃんも長谷川くんも来るんだろ、みんなで勉強するんだよ」
「ううー、お兄ちゃんが厳しい……頑張りますよ……」
少し文句を言いながらもしぶしぶ受け入れている日向だった。
その時、インターホンが鳴った。出ると真菜ちゃんと長谷川くんが来ていた。そういえば絵菜は今日はバイトと言っていたな。いつもなら真菜ちゃんについて来るのだが、今日はいなかった。
「あ、いらっしゃい。待ち合わせて来たの?」
「お兄様こんにちは! はい、駅前で待ち合わせて来ました」
「お兄さんこんにちは! すみません今日はお世話になります」
「そっか、日向が勉強が嫌そうな顔しているから、気合い入れてやってくれないかな。上がって」
二人をリビングに案内すると、テーブルに突っ伏している日向がいた。
「日向ちゃんこんにちは! もう勉強してるの? 偉いね!」
「ううー真菜ちゃ~ん、分からないよ~、今度こそ赤点かも……はい私は死にました。二人は私の屍を超えていってください……」
「だ、ダメだよ、日向がいなくなるとみんな寂しいよ。お兄さんが全てを解決してくれるよ!」
「ううー健斗く~ん、分かってる、分かってるんだけど……」
「ま、まぁ、教えるのはできるけど、頑張るのは三人だからね? 日向も分かってるのか分かってないのか分からんが、頑張ってくれ」
日向を励ましているのか気合いを入れさせているのか分からないが、そんなことを話していると、母さんがニコニコしながらジュースを持ってやって来た。
「ふふふ、みんな休みの日に頑張るわね、はい、ジュースでも飲んでね。おやつは後にしましょうか」
「お母さんこんにちは! ありがとうございます!」
「こ、こんにちは! すみませんありがとうございます!」
ジュースを少し飲んだところで、勉強開始となった。リビングのテーブルで日向と真菜ちゃんが、ダイニングのテーブルで長谷川くんが勉強をしている。日向は数学を、真菜ちゃんは英語を、長谷川くんは古文をやっているみたいだ。
「お兄様、ここの文章の意味が分からないのですが……」
「ああ、この文章はここに受動態の動名詞があって、こういう意味をしているから、こうなって……」
「ああ、なるほど! お兄様は英語もできるのですね、さすがです!」
「お、お兄さんすみません、ここの文が分からないのですが……」
「ああ、形容詞の活用覚えてる? ここは連用形だから、こうなって……」
「あ、なるほど! お兄さんすごいです。どうしてそんなに何でもできちゃうんですか?」
「い、いや、何でもできるわけじゃないけどね、僕も間違えることもあるよ……って、日向どうした?」
ふと日向を見ると、ペンを持ったまま固まって動かない。ああ、分からないんだなと思ったが、今にも泣きそうな顔をしている日向だった。そ、そんな顔しなくても……。
「お兄ぢゃ~ん……ここが全く分かりません……」
「どれどれ……ああ、三角関数か、ここがsinθだからそのグラフ覚えてるか? そこでこうなって……」
「な、なるほど……ううー難しいよー、そうだ、お兄ちゃんを食べたらお兄ちゃんの頭脳をゲットすることができるのかな……」
「なるほど! お兄様をみんなでいただいちゃえばいいんだね!」
「そ、そうか、その発想はなかった! 三等分になるから三分の一になるけど、それでもかなりの知識が……」
「ちょ、ちょっと待った、三人とも怖いこと言うのやめてよ、僕は食べ物じゃないからね?」
な、なぜそういう発想になるのか……僕が慌てていると、みんな笑った。
そんな感じでしばらく三人が頑張って、休憩しようかという話になった。母さんがおせんべいを持って来てくれた。
「ふふふ、みんなお疲れさま。おせんべいでも食べて元気出しましょうか」
「わー、お母さんありがとう! これ美味しいやつだ! いただきまーす!」
「い、いきなり元気になるな日向は……真菜ちゃんと長谷川くんは分かった?」
「はい! いつも思っていますが、お兄様の教え方が上手すぎてびっくりです。さすがお兄様ですね」
「ぼ、僕もなんとか分かりました。そういえばお兄さんは将来数学の先生になると日向から聞いたのですが……」
長谷川くんがぽつりと言った。そう、僕は将来数学の先生になりたいという夢があった。昔からこうして勉強を教えることで、みんなが分かったと言ってくれるのが嬉しい。数学も好きだし、それならばたくさんの人に教えることができる先生という職業がいいのではないかと思った。
「あ、うん、一応そのつもりだけど、まだどうなるかは分からないけどね。これから先採用試験とか色々あるだろうし」
「まあまあ! お兄様なら大丈夫です。きっと優しくていい先生になれます!」
「そうですよ! こんなに教えるのが上手だったら、生徒はみんなついて来るんじゃないでしょうか!」
「あ、ありがとう、そう言われると恥ずかしいけど、まぁ頑張ってみるよ」
「ふふふ、団吉も昔からよくみんなに教えていたわねー、それでみんなが分かったって言ってくれるのが嬉しかったんじゃないかしら」
「え!? な、なんで分かったの……?」
「ふふふ、団吉の顔に書いてあるわよー。でもそういう気持ちは大事だと思うわ。忘れないようにね」
そ、そうか、僕の顔に書いてあるのか、なんだかよく分からないが、母さんが言うならそういうことなんだろう。
「お兄ちゃんが先生かー、あ、教え子にムフフなことしたらダメだからね!」
「まあまあ、お兄様、それは立派な犯罪ですよ」
「お、お兄さん、さすがにそれはダメだと思います!」
「ちょ、ちょっと待って、そんなことしないよ、みんなおかしいよ、よく考えて!」
また僕が慌てていると、みんな笑った。うう、結局こうなってしまうのか……。
そんな感じで、三人とも頑張っているみたいだ。学業も学生の立派な仕事の一つだ。なんとかいい点数がとれるといいなと思った僕だった。
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