第38話「お祝い」
六月二十一日、日向の誕生日になった。
今日は金曜日なので、みんな普通に学校がある。僕も大学に行って、講義が終わってから早めに帰ってきた。まだ誰も帰って来ていないようだ。僕はキッチンに行って今日の夕飯の準備をする。
今日は絵菜と真菜ちゃんと長谷川くんが来てくれることになっている。長谷川くんに会うのは久しぶりだなと思った。高校生の三人は部活があるので、それが終わってから一緒に来る予定だ。
キッチンで材料を出して、さぁ作るかと思っていた時にインターホンが鳴った。出ると絵菜が来ていた。
「ちょ、ちょっと遅くなった」
「ああ、絵菜お疲れさま、学校終わったんだね。上がって上がって」
絵菜をリビングに案内する……が、キッチンで色々準備していた僕に気づいたのか、絵菜もキッチンに来た。
「今日は団吉が料理作るのか?」
「うん、母さんも帰って来るのもう少し後になりそうだから、先に作っておこうかと思ってね」
「そっか、何作るんだ? ちょっと手伝いたい」
「ああ、豚の生姜焼きとサラダと、豚汁とご飯にしようかと思ってね。日向も好きだし。そしたらサラダのきゅうりとかレタスとかトマトとか切ってくれるかな」
僕が包丁を渡すと、絵菜がゆっくりときゅうりを切っていた。うん、絵菜も少しずつ包丁に慣れてきているのかな、以前よりは切るのもスムーズになってきた気がする。
「絵菜、ちょっと包丁使うのうまくなった?」
「あ、いや、練習はしてるんだけどまだ真菜がいないとダメで……団吉と一緒に暮らしたら、私も作らないといけないからな……」
「あ、そ、そうだね、この前も言ったけど、一緒に頑張ろうね」
僕がそう言うと、絵菜がニコッと笑った。その笑顔も可愛かった。
しばらく二人でキッチンに立っていると、玄関から「ただいまー」という声が聞こえた。母さんが帰ってきたみたいだ。
「――あら? あらあら、二人で夕飯作ってるの?」
「あ、おかえりなさい、おじゃましてます」
「おかえり、うん、絵菜も少しずつ慣れてきているみたいで」
「あらあら、ふふふ、絵菜ちゃんも頑張ってるのねー、二人がそうしているとほんと新婚さんみたいね」
「え!? あ、いや、それはまだ早すぎるんじゃないかな……あはは」
うう、ちょっと恥ずかしくなってしまった……でも、僕もいつか絵菜と……と思うと、そうなるといいなという嬉しい気持ちもあった。
母さんも加わって三人で夕飯の準備をしていると、また「ただいまー」という声が聞こえてきた。賑やかなので日向たちが帰ってきたのだろう。
「――あ、絵菜さん、こんにちは!」
「こ、こんにちは、おかえり」
「お兄様、お姉ちゃん、お母さん、お疲れさまです。今日は呼んでくださってありがとうございます」
「こ、こんにちは! お兄さんも絵菜さんもお母さんも、お久しぶりです!」
「みんなおかえり。長谷川くんは久しぶりだね。サッカー頑張ってる?」
「あ、はい! 少しずつ上達して、試合にも出してもらえるようになってきました」
「そっかそっか、今度は長谷川くんたちの代が引っ張っていかないといけないもんね」
「そうですね、頑張って全国に行けたらいいなって思ってます!」
長谷川くんがちょっと恥ずかしそうに顔をかいた。
「うんうん、健斗くん頑張ってるもんねー……って、あれ? 今日はみんな集まって何かあったっけ?」
「え!? 日向また忘れてるのか? 今日は日向の誕生日じゃないか、だからみんな集まってくれたんだよ」
「……ああ! そういえばそうだった! 朝起きた時は覚えてたはずなのに、すっかり忘れてたよー。ヤバい、お兄ちゃんよりも忘れっぽくなってるー」
日向がテヘッと舌を出したので、みんな笑った。
「ふふふ、日向も今日で十七歳ね、早いものだわー。さぁ、夕飯できたからみんなでいただきましょうか」
みんなで一緒に夕飯をいただく。うん、豚の生姜焼きも焦げずに綺麗に焼けたし、豚汁も具がたっぷりで美味しい。絵菜が盛り付けてくれたサラダもみんなどんどん食べていた。
美味しい夕飯をいただいた後、僕は用意していた誕生日プレゼントを日向に差し出した。
「ん? こ、これは……?」
「ああ、僕と絵菜と真菜ちゃんから、日向へ誕生日プレゼントだよ」
「ひ、日向ちゃん、誕生日おめでと……」
「日向ちゃん、誕生日おめでとう。今年も三人でプレゼント見に行ったんだよ」
「ええ!? そ、そうだったの!? あ、ありがとう……開けてみてもいいかな?」
「あ、うん、いいよ」
「なんだろう……わわっ、コスメグッズ!?」
「うん、日向も女の子だし、興味あるかなと思って……って、僕は全然分からなかったから絵菜と真菜ちゃんに教えてもらったけど」
「そ、そうなんだね、三人ともありがとう……大事に使うね」
「あ、ぼ、僕もプレゼントがあって、日向、これ……誕生日おめでとう」
長谷川くんが恥ずかしそうに何かの包みを日向に差し出した。
「え!? あ、ありがとう……開けてみてもいい?」
「うん、ぜひ」
「なんだろう……わわっ、ペン!?」
「うん、これ、ちょっとお高いんだけどすごく書きやすいんだ。僕も色違いを使っているよ」
「あ、そうなんだね、お揃いか……嬉しい、ありがとう」
「ふふふ、日向よかったわね、お母さんからもプレゼントがあるけど、いつものようにケーキだからみんなで一緒に食べましょうか」
そう言って母さんがケーキを持って来てくれた。
「わぁ! お母さんありがとう! あれ? いつものケーキと違うね?」
「そうよ、お母さんの会社の近くでケーキ屋を見つけてね、そこにしてみたわ。日向からいいものを選びなさい」
「ありがとうー! わーどれも美味しそうだなー、この可愛いくまさんにしようかな!」
「ふふっ、日向ちゃんよかったな」
「はい! 絵菜さんもありがとうございます! あ、お兄ちゃんと健斗くん、お礼に何かほしくない? ハグがいい? チューがいい?」
「ば、バカ! そんなものはいらないからケーキを……あ、長谷川くんはしてほしいんじゃないかな」
「ええ!? い、いや、あの……あれ? 去年も同じようなこと言ってたような……」
恥ずかしそうに俯く長谷川くんを見て、みんな笑った。
みんなでケーキをいただいた。日向もまだまだ幼いところはあるが、少しずつ成長している。これからも明るくて元気な日向でいてほしい。その気持ちはみんな一緒なのかもしれない。
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