第37話「プレゼント選び」

「ご、ごめん、遅くなってしまった」

「お兄様、こんにちは! すみません遅れてしまいました」

「こんにちは、ううん、大丈夫だよ。今日は来てくれてありがとう。じゃあ電車に乗ろうか」


 駅前から僕と絵菜と真菜ちゃんは電車に乗った。今日は休みの日で、三人で日向の誕生日プレゼントを買うために都会へ行こうと話していた。電車が発車して一駅過ぎるとちょうど席が空いたので、三人で座った。


「今日は日向ちゃんは部活なのか?」

「あ、いや、今日は休みみたいだよ。もちろんプレゼントを買いに行くって話は内緒で、絵菜とデートしてくるって伝えておいたよ。そう言ってもなんか行きたそうな顔はしてたけど」

「ふふふ、お兄様が大好きな日向ちゃんらしいですね。プレゼントはどんなものにするか決めたのですか?」

「うーん、それが母さんに訊いたら、こんなものもいいんじゃないかって言っててね……僕はさっぱり分からなくて、二人に教えてもらいたいなと思って」


 僕はそう言ってスマホを二人に見せた。


「ああ、コスメか……うん、日向ちゃんも年頃の女の子だし、いいんじゃないかな」

「まあまあ! そうですね、もらったら嬉しいと思いますよ」

「まぁそうなんだけどね、でも日向がメイクしているのってあまり見たことないな……」

「ふふっ、団吉、女の子は絶対興味あるから、大丈夫」

「そうですよお兄様、私もこれ、リップ塗ってるんですよ。日向ちゃんも可愛くなりたいと思いますよ」

「あ、そ、そうなんだね、じゃあ二人に訊くことが多くなると思うけど、そうしようかな」


 そんなことを話していると電車が都会に着いた。相変わらず人は多い。僕たちは駅の近くの商業施設に入った。一階に化粧品売り場があって、二人に引っ張られるようにして売り場を見ていくことにした。どこを見ても全然分からないな……でも今は男性もメイクをする人がいるとテレビで言っていたような気がする。


「日向ちゃんならあまり派手じゃないリップがいいかな……」

「そうだね、あ、ここのメーカーのもの有名だよね、この色とか日向ちゃんに似合いそう」

「ああ、そうだな、それとこっちのチークも可愛い色してるな……」


 二人が楽しそうに話しながらあれこれと決めている。うーん、やっぱりよく分からない……二人に任せるのも申し訳ないが、頼るしかないなと思った。


「あ、私たちが勝手に話してるけど、団吉が決めなくていいのか?」

「う、うーん、決めたいところだけど、さすがによく分からなくてね……お金は出すから、やっぱり二人にいいものを選んでもらおうかな」

「お兄様、それじゃあこのリップとこのリップ、どちらが日向ちゃんに似合うと思いますか?」


 真菜ちゃんが二つのリップを持って僕に見せてきた……って、あ、あれ? どちらも同じように見える……?


「う、うーん、同じように見えるけど……あ、ちょっと色が違うのか……」

「そうなんです、同じピンクのように見えてちょっと違うのです。少し明るめと、少し落ち着いた色ですね」

「な、なるほど、うーん、日向は明るい子だから、こっちの明るいリップの方がいいのかな……」

「ふふっ、決まりだな、じゃあこっちにしよう。それとこのチークとハンドクリームを合わせてプレゼントすればいいんじゃないかな」

「な、なるほど……じゃ、じゃあこれで……えっといくらくらいになるのかな……」

「あ、団吉、私も少しお金出すよ。バイト代も入ったし」

「お兄様、私も少しお小遣いから出させてください」

「え!? い、いや、それは申し訳ないというか……あ、でも、三人でプレゼントというのもいいのかな……じゃあ、お言葉に甘えることにするよ」


 絵菜と真菜ちゃんのお言葉に甘えて、僕たちは三人でお金を出し合ってコスメグッズを買った。プレゼントということでラッピングもしてもらった。


「ふふっ、日向ちゃんが喜んでくれるといいな」

「ふふふ、お兄様からのプレゼントです。きっと嬉しいと思います」

「そうだね、二人のおかげで今年もなんとか決まったよ、ありがとう。もちろん三人からプレゼントということで。あ、お昼食べに行こうか」


 僕たちは都会に来た時によく行く洋食屋さんへ行った。オシャレで大人の雰囲気のお店なのは変わらない。今日は三人ともオムライスを選んだ。


「いただきます……あ、やっぱり美味しいね」

「うん、美味しい。でも自分で作ってもやっぱりこんなにふわっとならないんだよな……」

「お姉ちゃん、また練習しようね、お兄様にも美味しいご飯食べてもらいたいし」

「そ、そうだな、料理も上手くならないと、このままだと団吉と一緒に暮らしたら大変なことになる……」


 絵菜はやはり僕と一緒に暮らす夢がある。苦手な料理を頑張ろうとする絵菜が可愛かった。


「う、うん、一緒に頑張ればいいんじゃないかな……あまり一人で抱え込まないようにね」

「そ、そっか、一緒に料理作ったりするのも楽しそう」

「ふふふ、お兄様もお姉ちゃんも、可愛いところがありますね。二人が一緒に暮らしたら、私遊びに行きますね」


 真菜ちゃんが僕たちを見てクスクス笑ったので、僕はちょっと恥ずかしくなってしまった。


「あ、団吉、この後寄りたいところある?」

「あ、そうだなぁ……ちょっと大きな本屋に寄りたいかも。気になる本があってね」

「ふふふ、さすが本が好きなお兄様ですね。お姉ちゃんも少しずつ本を読んでいるみたいだし、私にもおすすめの本を教えてくれませんか?」

「ああ、いいよ。読みやすいものがいいかな……いくつかあるから教えるよ」


 洋食屋さんを出て、僕たちはこのあたりで一番大きな本屋へと行く。ここは都会に来ると必ず来ているな。たくさんの種類の本があって、僕はテンションが上がる。ライトノベル系かエッセイ系なら入りやすいだろう、絵菜と真菜ちゃんにも読みやすくて面白い本を教えてあげた。

 その後もトラゾーのグッズを真菜ちゃんと盛り上がって見ていると、絵菜がクスクスと笑っていた。あ、相変わらずだなと思われていそうだな……。

 そんな感じで久しぶりの都会散策を楽しんだ。日向へのプレゼントも決まったし、二人がいてくれてよかったなと思った。

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