第36話「オンライン」

 梅雨真っただ中のある月曜日、今日はオンラインで講義が行われる。

 大学に行かなくていいのは楽であるように思えて、家で講義を受けるというのがちょっと新鮮なのと緊張感があった。

 僕は事前にパソコンにインストールしていたWeb会議ツールを立ち上げ、指定されたIDのルームに入室する。オンラインで出欠もとることができるらしい。すごい時代になったんだなと思った。

 画面にこの講義を受ける学生の顔が映っている。あ、拓海もいるみたいだな。画面が切り替わって先生の顔が映った。どうやら始まるみたいだ。

 画面の中で先生が説明を行っている。やはりどこか新鮮だ。こういうことにも慣れていかないといけないな。

 そのままいくつか講義を受け、昼になった。今日は午後はないので、ここで終了だ。新鮮だが、なかなか疲れるなと思った。

 

 ピロローン。

 

 ツールを終了させたら、スマホが鳴った。RINEが来たみたいだ。送ってきたのは拓海だった。


『お疲れさーん、団吉も受けてたんだな』

『お疲れさま、うん、僕も拓海を見つけていたよ』

『おーそうか、なぁ、ちょっとビデオ通話してもいいか?』

『あ、うん、いいよ』


 すぐに拓海から通話がかかってきた。出ると画面に拓海の顔が映し出された。


「もしもし、お疲れー」

「もしもし、お疲れさま、どうだった?」

「うーん、なんか不思議な感じしたなー。まぁでもたまにはいいんじゃないかと思ったかな」

「そうだね、全部の講義ではないけど、大学行かなくていいというのは楽かも。でも家で講義を受けるってなんか新鮮だね」

「そうだなー、今日は雨だしな、こういう日にオンラインはありがたいっつーか」

「たしかに、それはあるかもしれないね」


 拓海があははと笑ったその時、部屋の扉をかりかりと引っ掻く音と「みゃー」という声が聞こえた。みるくが部屋に入りたいようだ。


「あ、ちょっと待ってね、猫が部屋に入りたいみたいで」


 僕は拓海に一言かけてから席を外して、部屋の扉を開ける。みるくが「みゃー」と鳴きながら入ってきたので、スマホを立てかけて、みるくを抱き上げて拓海に見せた。


「おお、猫ちゃんか! 名前なんていうんだ?」

「あ、みるくっていうよ。まだ一歳にもなってないんだけど……って、うわ、顔をなめるのはやめてくれ」

「あはは、可愛いなー、うちは実家でチワワ飼っててさー、ちょっと思い出したっつーか」

「ああ、そうなんだね、犬も可愛いよね」

「そうだなー、そういえばさっきの講義の内容、団吉は理解できたか? 俺はところどころ分からないところがあったっつーか」

「うん、だいたいは理解できたんじゃないかな」

「そっか、さすが団吉だな。今度ちょっと教えてくれないか?」

「あ、うん、いいよ。教えるのは得意だから、任せてもらえれば……って、自分で言うのもどうかと思うけど」


 しばらく拓海と話していると、玄関から「ただいまー」という声が聞こえてきた。あれ? 母さんもう帰ってきたのだろうか。


「あ、ごめん、母さんが帰ってきたみたいで」

「おお、そうか、んじゃまた大学でな」

「うん、それじゃあまた」


 拓海との通話を終了して、膝に乗っていたみるくを抱きかかえて、僕はリビングへと行く。


「あれ? 母さんもう帰ってきたの?」

「ああ、この前休日出勤したからねー、その分の代休を今日と明日午後休でもらうことにしたのよ。そういえば団吉はオンラインの講義って言ってたわね、どうだったかしら?」

「うーん、なんか不思議な感じがしたよ。でも、今日みたいな雨の日に大学に行かなくていいのはいいなって思ったりして」

「そうね、お母さんもリモートワーク始めた時、同じようなこと感じたわ。それにしても今は講義もオンラインで行われることがあるのねー、お母さんの時はまだそういうのはなくてね」

「まぁそうだよね、時代とともに変わってきているんだろうね」

「ふふふ、なんでも少しずつ慣れなさい。お昼まだでしょ、お母さんもまだだから、軽く作るわね」


 そう言って母さんがキッチンへと行った。このデジタル化社会の中で、大学や会社も時代とともに変わってきているのだろう。乗り遅れないようにしないといけないなと思った。

 そんなことを考えていると、またスマホが鳴った。RINEが来たみたいだ。送ってきたのは絵菜だった。


『団吉、お疲れさま、お昼だから送ってみた』


 絵菜はよくお昼にRINEをくれる。僕は嬉しくなって返事を送った。


『お疲れさま、絵菜は昼休みなんだね、僕はさっきオンラインでの講義が終わったよ』

『そっか、オンラインってすごいな。どんな感じなんだろ』

『うーん、家で受けられるというのが新鮮なのと、ちょっと不思議な感じがしたかな。絵菜の学校はオンラインだと難しそうだね』

『うん、実技があるからな……でも、座学ではできないこともないのかも』

『そうだよね、あ、そうだ、日向の誕生日が近いから今度プレゼントを買いに行こうかと思うんだけど、よかったら一緒に来てくれないかな?』

『あ、うん、私も行く。もしかしたら真菜も行くかも』

『ありがとう、でも何をプレゼントすればいいのかまた迷いそうで……』

『また都会に行ってみるか? まだ行ったことないところもあるし、いろいろありそうだし』

『あ、そうだね、そうしようか。久しぶりにあの洋食屋に行くのもありかもしれないね』

『うん、楽しみにしてる』


 母さんがご飯ができたと言ったので、僕はそのことを絵菜に伝えて、お昼を食べることにした。

 そう、さっき絵菜に話した通り、日向の誕生日が近いのだ。僕もいつも日向に誕生日プレゼントをもらっているので、僕もちゃんとあげないといけないなと思っている。まぁ、毎年何にするか迷ってしまうのだが……。


「母さん、日向に誕生日プレゼントを贈ろうと思うんだけど、何がいいのかいつも迷ってて」

「ああ、そうねぇ……日向も年頃の女の子だし、こんなのはどうかしら?」


 母さんがそう言ってスマホを見せてきた。お、おお、これはさすがに男の僕では分からないな……絵菜や真菜ちゃんに教えてもらうのもありかもしれないなと思った。


「な、なるほど、こういうものがいいのか……絵菜と真菜ちゃんに教えてもらおうかな」

「ふふふ、団吉からもらうなら、日向は何でも嬉しいと思うけどねー」


 母さんがニコニコしながら言った。ま、まぁでも、せっかくなら使ってもらいたいし、いいものをあげたいというか。そんなことを考えている僕だった。

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