第35話「はじめまして」

 六月六日、この日は大学の創立記念日で休講だった。

 絵菜も今日は学校が午前中で終わるらしく、それならば駅前で待ち合わせをして、午後からデートをしようかという話になった。

 しばらくのんびりしていると、絵菜からRINEが来た。


『ごめん、今終わった』

『お疲れさま、じゃあ僕も駅前に行こうかな』

『う、うん、それと……ごめん、私の友達がどうしても団吉に会いたいと言っているんだけど、連れて来てもいいかな?』


 ん? 友達というのは以前話していた二人のことだろうか。なぜ僕と会いたいのかよく分からなかったが、断る理由もないので、


『うん、いいよ』


 と、返事をした。


『ありがと、じゃあ今から行く』


 絵菜の返事を確認してから、僕も家を出る。ここのところ雨が多かったが、今日は曇り空だった。少し蒸し暑くてじわっと汗をかく。

 しかし、僕に会いたいとはまた不思議なこともあるものだ。は、初めての人でちょっと緊張するが……。

 駅前に着き、ベンチに座っておくことにした。しばらく待っていると、


「ご、ごめん団吉、遅くなった……」


 と、絵菜の声がした。見ると絵菜と、絵菜の横に可愛らしい女性が二人いた。


「いやいや、大丈夫だよ。学校お疲れさま」

「あ、ありがと……あ、紹介する、こちらが春奈で、こちらが佑香」

「はじめましてー! 私、池内春奈といいますー!」

「……鍵山佑香です」

「あ、ど、どうも、はじめまして、日車団吉といいます……」


 ぼ、僕にしてはさらっと自己紹介できたような気がするが、どうだろうか……池内さんが手を出してきたので、握手した。ちょっとだけ恥ずかしかった。


「あ、こ、ここで話すのもなんだし、そこの喫茶店行く?」

「あ、そうだな、そうしよう」


 四人でいつもの駅前の喫茶店に行く。人はいたが混んではおらず、奥の席に僕と絵菜、池内さんと鍵山さんに分かれて座った。


「へぇー、学校の近くにある喫茶店に似てるねー、あ、パフェがあるー! 私食べちゃおうかな」

「……春奈、太るからいけない」

「あーっ、佑香め、気にしてること言ってー!」


 そう言って池内さんが鍵山さんをポカポカと叩いている。どこかで見たような光景だな……と思ってしまった。


「ご、ごめん団吉、この二人いつもこんな感じなんだ……」

「あ、そ、そうなんだね、仲が良さそうで……あはは」

「あははっ、そーなんですー! 私たち仲良しで! 最近はそれに絵菜も加わった感じなんです……って、団吉さん同い年でしたよね、タメ口でもいいですか?」

「あ、は、はい、大丈夫……です」

「ありがとー! 敬語だとなんかよそよそしくてねー、それにしても団吉さん、写真よりもさらに可愛い顔してるねー」

「……うん、可愛い」

「え!? い、いや、たしかによく言われるけど、あまり自覚はないというか……あはは」


 池内さんがぐいっと身を乗り出して僕を見てくる。鍵山さんもじーっと僕を見ている。は、恥ずかしい……。


「ふ、二人とも、団吉とっちゃダメだからな……」

「あははっ、絵菜ったらー可愛いところあるんだからー! とったりしないよー安心して!」

「……団吉さんは絵菜のもの」

「あ、いや、まぁ、そうとも言わないこともないというか……あ、あれ? 私何言ってるんだろう」


 絵菜の慌てる姿がめずらしくて、僕はつい笑ってしまった。


「ねーねー、団吉さんは大学に通ってるって聞いたけど、どこの大学?」

「あ、桐西大学に通ってるよ」

「えー! めっちゃ頭いいじゃーん! 絵菜が言ってた通りだー! すごいすごい、でもどうやって絵菜と知り合ったのー?」

「あ、高校一年生の時に同じクラスで、たまたま話すようになって、それから仲良くなったというか……」


 さすがに絵菜が上級生に絡まれていたとは言えなかった。


「そっかー、いいないいなー、私も団吉さんみたいないい彼氏ほしいなー!」

「……春奈はおしゃべりすぎるからいけない」

「えーそうかなぁー、まぁこれが私らしいっていうか、ポリシー? ってやつ!」


 なんかちょっと違う気がしたが、ツッコミを入れるのはやめておいた。なるほど、よく話す池内さんと、あまり話さない鍵山さんか、バランスがいいんだろうなと思った。

 その時、店員さんが注文していたパフェやジュースを持って来てくれた。


「あ、パフェ来た来たー! いっただきまーす! あ、美味しいー!」

「……春奈、ちょっとちょうだい」

「あー、佑香もほんとは食べたかったんでしょー、はいあーんして」

「……ほんとだ、美味しい」

「でしょー! はい、絵菜もあーんして」

「え!? わ、私も……!? わ、分かった……あ、美味しい」

「でしょでしょー! あ、団吉さんも食べてみる?」

「え!? い、いや、僕は大丈夫……あはは」


 なんだろう、なんか三人が楽しそうだ。学校でもこんな感じなのだろうか。


「……あ、そういえば、団吉ごめん、学校で男の人と知り合いになってしまった」

「あ、そうなんだね、そういえば男の人もいるって言ってたね」

「あー、絵菜、あいつのことは忘れて。団吉さんにも紹介する必要なーし!」

「……うん、絵菜の記憶の抹消を忘れてた」

「あ、あれ? なんかよく分からないけど、もしかしてあまりいい人ではないの……?」

「わ、私もよく分からないんだけど、二人がどうも嫌ってるようで……」


 う、うーん、まぁ男の人と出会うこともあるとは思うけど、二人が嫌ってるような人なのか……なんか気になるな……。


「そ、そうなんだね、いい人ではないのかな……って、な、なんか余計に気になってきた……!」

「団吉さん、大丈夫。絵菜のことは私たちがちゃーんと守るから! 気になるのも分かるけどね」

「……うん、絵菜のことは任せておいて」

「そ、そっか、じゃあ、お二人にお任せしようかな……よろしくお願いします……って言うのも変なのかな」

「あははっ、そんな奴のことより、もっと団吉さんと絵菜の話が聞きたいなー!」

「……うん、どうして好きになったのとか」

「え!? あ、まぁ、いろいろなことがありまして……その、あの……あはは」


 その後、池内さんと鍵山さんに質問攻めにあう僕と絵菜だった。

 でも、性格は正反対そうな二人は、とてもいい人そうだ。絵菜にもいい友達ができたんだなと、僕は嬉しくなっていた。

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