第34話「アイドル」

 次の日の日曜日、僕は部屋にこもってレポートを書いたり、講義の復習をしたりしていた。前期の試験は七月末なので、もう少し先だが、少しずつ勉強もしておかないといけないなと思っていた。

 そういえば今日は日向と真菜ちゃんと最上さんが遊びに行っている。三人でクレープを食べている写真が送られてきた。最上さんも笑顔だったし、ちょっとは気が紛れていいのではないかと思った。


 ピンポーン。


 休憩しようかなと思ったその時、インターホンが鳴った。あれ? 宅配便かなと思って出てみたら――


「あ、団吉さん、お久しぶりです!」


 玄関先にいたのはなんと東城とうじょうさんだった。東城さんというのは東城麻里奈とうじょうまりな。僕の高校時代の後輩で、今は三年生。アイドル活動をしている可愛らしい女の子だ。


「あ、あれ!? 東城さん、お久しぶり……って、ど、どうかした?」

「あ、いえ、お休みで暇だったので団吉さんに久しぶりに会いたいなと思って来ました! って、すみません、お忙しかったですか……?」

「そっか、いやいや、大丈夫だよ、上がって上がって」


 僕が上がるように促すと、東城さんは「すみません、おじゃまします!」と言って靴を揃えて上がった。リビングに案内する。リビングで母さんがテレビを観ていた。


「あら? あらあら、お友達?」

「あ、うん、後輩の東城さん……って、以前うちにも来たことあるけど」

「こんにちは! 東城麻里奈といいます! すみませんおじゃまします」

「こんにちは、団吉と日向の母です。麻里奈ちゃんか、可愛いわね……って、以前来たのも覚えているけど、それ以外でどこかで見たような気がするわね」

「あ、たぶんテレビじゃないかな、メロディスターズっていうアイドルグループに所属しているから」

「……ああ! そういえばそうだったわ。歳とると忘れっぽくていやねー」

「いえいえ、お母さんお若いしお綺麗です! 団吉さんのお姉さんみたい!」

「あらまぁ! ふふふ、ありがとう。ちょっと待っててね、ジュース持ってくるわ」


 その時、みるくが「みゃー」と鳴きながら東城さんに近づいてくんくんとにおいを嗅いでいた。


「わぁ! みるくちゃんだ! 可愛いー! 日向ちゃんに写真は見せてもらってたけど、実際見るともっと可愛いー!」

「あはは、猫じゃらしあるから、東城さん遊んであげてくれるかな」


 東城さんに猫じゃらしを渡すと、東城さんは「えいっ! えいっ!」と言いながら猫じゃらしを振っていた。なんかその仕草が可愛いなと思った。


「はい、麻里奈ちゃんどうぞ、ジュースとお菓子でも食べてゆっくりしてね」

「あ、ありがとうございます! いただきます」

「東城さん、学校では楽しくやってる?」

「はい! たまに日向ちゃんたちとも会うし、みんなで女子の秘密の話してます!」


 ま、まさか僕の話とかはしてないよな……と思ったが、訊いても教えてくれそうになかった。


「団吉さんは大学生活、お忙しいですか?」

「あ、うん、勉強もさらに難しくなって大変だけど、楽しくやってるよ。サークルにも入ったしね」

「そうなんですね! さすが団吉さん、カッコいいです!」

「え!? い、いや、カッコよくはないけどね……あはは」


 僕が慌てていると、東城さんがクスクスと笑った。うう、東城さんみたいな可愛い人にカッコいいと言われると恥ずかしい……。


「あ、そうだ、絵菜さんはお元気ですか?」

「うん、元気にしてるよ。今日はバイトって言ってたな……今頃は頑張ってると思うよ」

「そうなんですね! いいなーお二人はずっとラブラブで、うらやましいなー」

「ま、まぁ、高校時代と変わらない……かな、あはは……って、東城さんは天野くんと仲良くしてるの?」

「あ、あう、はい、こっそりとですが、仲良くしてます……こ、この前もデートして……は、恥ずかしいですね」


 そう、天野くんと東城さんは秘密でお付き合いをしている。秘密というのは、東城さんは『メロディスターズ』というアイドルグループに所属しているため、あまり公言できないのだった。一度はアイドルを辞めるつもりだった東城さんだったが、メンバーや周りの人の協力もあって、アイドル活動も続けることができているのだ。


「そっか、それはよかった。そういえばこの前天野くんと会ったよ。変わらず元気にしているみたいで」

「あ、そうなんですね! はい、蒼汰くんも生徒会長として立派にお仕事してて、すごいなぁっていつも思ってます」

「いやいや、学業とアイドルを続ける東城さんも立派だよ。すごいなぁっていつも思ってたよ」

「ありがとうございます! えへへー、団吉さんに褒められちゃった!」


 そう言って東城さんがぴょんぴょんと跳ねた。くそぅ、東城さんがやるとなんでも可愛く見える。


「そういえば東城さんは三年生だけど、進路はどうするの?」

「あ、私は高校卒業したら、進学はしないでアイドル活動に専念しようと思っています! ちょっとでも応援してくれるみなさんを笑顔にできたらいいなって思って!」

「あらあら、お仕事に専念ってすごいわねー、今は進学する子が多いからね、でも自分のやりたいことをやれるっていいわね」

「ありがとうございます! えへへー、お母さんにも褒められちゃった!」


 東城さんが嬉しそうな笑顔を見せた。そうか、アイドル活動に専念か。よく考えると社会経験が一番豊富なのは東城さんだ。それもまたすごいなと思った。


「そっか、またメロディスターズのライブにも行きたいなと思ってるよ」

「はい! ぜひまたみなさんで遊びに来てもらえると嬉しいです! よーし、その時のために頑張ろーっと!」

「うん、また行かせてもらうね。学業とアイドル活動と忙しいと思うけど、頑張ってね」


 僕がそう言うと、東城さんは「よーし、頑張るぞー!」と言った。日向たちとも変わらず仲良くしてくれているみたいだし、僕は嬉しい気持ちになった。

 天野くんとのお付き合いはなかなか大変なのかもしれないが、これからも二人仲良くしてほしいなと思った僕だった。

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