第33話「頼りになる」
あれから最上さんも落ち着いてきたので、僕と絵菜は最上さんを家まで送って行った。
最上さんは「日車さん、絵菜さん、迷惑かけてごめん……ありがと」と言っていた。全然迷惑じゃないよと僕と絵菜は伝えた。
絵菜と別れて家に帰ると、靴が二足あった。母さんと日向が帰って来ていたみたいだ。
「あら、団吉おかえり。バイトから今帰ってきたの?」
「あ、いや、そうじゃないんだけど、実は……」
最上さんのことを話していいのか迷ったが、隠しきれないと思ったので、今日あった出来事を二人に話した。
「そう……舞衣子ちゃん、かなり苦しい思いをしていたんじゃないかしら」
「うん……両親もすれ違いなどで合わないこともあると思うけど、子どもはたまったものじゃないよなぁと思って」
「そうね、親の都合で離婚するのは、子どもには全く関係ないものね。それにしても団吉も絵菜ちゃんも偉いわ。舞衣子ちゃんも少しホッとしたんじゃないかしら」
「いやいや、僕は大したことしてないけど、絵菜がいてくれてよかったよ。最上さんに少しでも落ち着いてほしいなと思って」
やはり絵菜がいてくれてよかったと、改めて思った僕だった。
「そっかー、舞衣子ちゃんきつい思いしてるんだね……やっぱり親が離婚だなんて嫌だなぁ」
「そうだな、うちはそんなことがなくてほんとによかったな。ま、まぁ、父さんは天国に行ってしまったんだけど……」
「うん、でもそれも受け入れないとね。いつまでもめそめそしてたらお父さんに笑われちゃうよ」
日向がニコッと笑った。少しずつ日向も成長しているんだなと思った。
「あ、そうだ、明日日曜日だし、真菜ちゃんと舞衣子ちゃん誘ってどこか行ってこようかな!」
「ああ、うん、日向も最上さんのそばにいてやってくれると嬉しいよ」
「よーし、そうと決まればRINE送っちゃおーっと!」
日向が楽しそうにスマホをポチポチと操作している。うん、三人で女子会というのも最上さんの気が紛れていいのではないだろうか。
「あ、返事来た! 真菜ちゃんも舞衣子ちゃんも行きたいって言ってる! よーし楽しみになってきたぞー」
「そっか、よかったな。最上さんによろしく伝えておいて」
その時、僕のスマホが鳴った。RINEが送られてきたみたいだ。送ってきたのは絵菜だった。
『団吉、お疲れさま。今いい?』
『お疲れさま、うん、大丈夫だよ』
『ありがと。ちょっと通話できないか? こっちは真菜もいるけど』
『あ、うん、大丈夫だよ。こっちも日向がいるよ』
絵菜が通話したいと言っていたので、日向にそのことを言うと僕の隣にやって来た。すぐに絵菜からビデオ通話がかかってきた。出ると二人が画面に映し出された。
「も、もしもし、お疲れさま」
「お兄様、日向ちゃん、こんにちは!」
「絵菜さん、真菜ちゃん、こんにちは!」
「もしもし、こんにちは、今日はお疲れさま。絵菜、ありがとうね」
「あ、いや、私は大したことしてないから……」
「ううん、絵菜がいてくれてほんとによかったよ。でも絵菜も昔のこと思い出してきつくなってない?」
「ま、まぁ、クソな父親思い出してしまって、ちょっと嫌な気持ちになったけど、大丈夫。ありがと」
そういえば以前、絵菜の父親が突然絵菜の家に来たことを思い出した。絵菜も真菜ちゃんも思い出したくない人だろう。僕は心がきゅっと締め付けられるような感じになった。
その時、母さんが僕たちの後ろから話しかけてきた。
「絵菜ちゃん、偉いわね。舞衣子ちゃんは心が救われた気持ちになったと思うわよ。絵菜ちゃんも昔を思い出してきつくなったかもしれないけど、無理はしないでね」
「あ、ありがとうございます……はい、私は大丈夫です」
「お兄様、お姉ちゃんからお話を聞きました。お兄様もお姉ちゃんもすごいです。やっぱり二人は頼れる大人になっているんですね」
「え、あ、まぁ、やっぱり最上さんが一番かわいそうでね……真菜ちゃんも最上さんと仲良くしてもらえると嬉しいよ」
「はい、もちろんです。私は会うのは初めてですが、すごく楽しみです」
真菜ちゃんが笑顔を見せた。優しい真菜ちゃんならきっと最上さんも話しやすいだろう。なんだか嬉しくなった。
「真菜ちゃん、明日どこ行こうか、久々にショッピングモールにでも行ってみる?」
「あ、うん! お姉ちゃんから聞いたけど新しくクレープ屋さんができてるらしいよ、そこ行ってみようか」
「うん、三人で行ってみて。美味しかったから」
「そっかー! クレープ食べながら、女子の秘密の話しようね!」
「うん! 楽しみにしてる!」
日向と真菜ちゃんが「ねー」と言っている。そ、そろそろ女子の秘密の話が何なのか聞きたいところだが、教えてくれそうになかった。
「ま、まぁ、女子会は楽しんでもらうとして……絵菜は明日はバイト?」
「うん、明日はバイト。少しずつだけど慣れてきた」
「そっかそっか、よかったよ。僕は休みだからレポートとかまとめることにしようかな……」
「ふふっ、団吉も頑張ってるな。あ、そういえば最上さんが団吉の手をずっと握ってたな……これは要注意人物なのだろうか……ブツブツ」
「あー、お兄ちゃん、もしかして舞衣子ちゃんとムフフなことしようとか思ってないよね?」
「まあまあ、お兄様、浮気はいけないと思いますよ」
「ええ!? い、いや、そんなこと思ってないよ! みんなしっかりして! 妄想はよくないよ!」
僕が慌てていると、みんな笑った。うう、どうしてこうなってしまうのか……あ、あれはきっと最上さんも心細かったというだけで……。
「ふふっ、冗談だよ。団吉は優しいからな、頼りたくなる気持ちも分かる」
「うんうん、お兄ちゃんは優しいところがいいんだもんね!」
「そうそう、お兄様は優しいところがとても素敵なのです」
「そ、そっか、僕はやっぱり優しすぎるみたいだね……ま、まぁいいか。なんかだんだん恥ずかしくなってきたけど……」
恥ずかしくなってちょっと俯いてしまった僕だった。
ま、まぁ、そんなこともあったが、明日は日向たちと出かけるみたいだし、最上さんも楽しく過ごしてもらって、少しでも楽になってくれるといいなと思っていた。
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