第30話「アドバイス」

 ある日、僕は以前から気になっていたタブレットを見ようと思って、家でパソコンを眺めていた。


(なるほど、シェア一位というこれがよさそうだな……でもその中でも種類が色々あるな。値段も違うし、これは性能面で違うんだな……)


 ある程度は絞れたのだが、最後の決め手がない。値段で決めてしまってもいいのかもしれないが、せっかくなら性能のいいものを選びたいし、長く使いたい。そこで僕はある人にアドバイスをもらおうと思って、RINEを送ってみた。


『こんにちは、木下くんお久しぶり。元気にしてる?』


 そう、高校時代の友達の木下大悟きのしただいごくんに訊いてみようと思ったのだ。木下くんは本やアイドルが好きなオタクくんで、パソコンなどの知識もある。このパソコンを買う時も木下くんにアドバイスをもらったので、タブレットのことも木下くんなら分かるのではないかと思った。

 RINEの返事はすぐに来た。


『お、お久しぶり。うん、元気にしてるよ。どうかした?』

『あ、ちょっと訊きたいことがあって。通話できるかな?』

『う、うん、大丈夫だよ』


 木下くんから通話OKと返事が来たので、僕は通話をかけた。


「もしもし、木下くんお久しぶりだね」

「も、もしもし、お久しぶり。な、なんか訊きたいことがあるって言ってたけど……?」

「あ、うん、タブレットがほしいと思って色々見てたんだけど、シェア一位のものがPro、Air、mini、何もついてないやつ……になるのかな? 最後の決め手がなくてね、木下くんなら詳しく知ってるかなと思って」

「あ、な、なるほど、Proは一番上のスペックで、写真や動画編集などクリエィティブに使いたい人向けかな。何もついてないやつが無印で、エントリー向けって感じ。Airはその中間かな。miniはAirに近いんだけど、画面サイズが小さめで、持ち運びには便利だね」

「あ、なるほど……初心者が使うのはどれがいいと思う?」

「ぼ、僕は無印かAirがおすすめだと思うよ。せ、せっかくならペンも買って手書きすると便利なんだけど、Airと無印ではAir対応のペンの方が高性能だね」

「ああ、そうなんだね、じゃあAirにしようかな……容量もそこそこあった方が便利だよね?」

「う、うん、これはSDカードなどで拡張ができないからね、最初に少し大きめの容量を選んでおくといいと思うよ」

「そっか、今パソコンでシミュレーションしてみてるんだけど、けっこう値段するね……まぁ、貯めたバイト代で出せないことはないか……」

「う、うん、ここ最近の円安で値段も上がっていてね……ぼ、僕は値上げ前に買ったから、ラッキーだったよ」

「そうなんだね、うん、これにしようかな、ありがとう。木下くんに訊いてよかったよ」

「い、いえいえ。色々あって迷うよね」


 なんとかタブレットも決まったところで、僕はそうだ……と思って木下くんに訊いてみることにした。


「そういえば木下くん、杉崎さんとは仲良くしてる?」

「あ、う、うん、高校時代と変わらないかな……で、でも、ちょっと悩んでることもあって……」


 そう、木下くんと杉崎さんはお付き合いをしている……のだが、悩んでいること? もしかして杉崎さんと何かあったのだろうか。


「ん? 悩んでること? 何かあった?」

「い、いや、何かあったわけじゃないんだけど……その、ぼ、僕は陰キャのオタクだし、花音とは正反対というか、そ、そんな僕が一緒にいていいのかなって思うことがあって……か、花音ももっと明るくて陽キャの人とお付き合いしたいんじゃないかって……」


 なるほど、たしかに木下くんはどちらかというとおとなしい、僕と似たタイプの人だ。対して杉崎さんは木下くんの言う通り明るくて陽キャタイプだ。でも、それは気にする必要はないのではないかと思った。


「いやいや、木下くんの気持ちも分かるけど、きっと杉崎さんはそんなこと思ってないと思うよ。誠実で優しい木下くんのことを好きになったんだし、あまり気にしないでね」

「そ、そっか……ど、どこか気になってしまってね……あ、ケンカしたとかそういうわけではないよ」

「それならよかったよ。そういえば昔杉崎さんが木下くんを好きになった時、話を聞いたことがあってね。杉崎さんも恋をすることに不安を感じていたみたいなんだけど、それでも木下くんが好きになったって感じだったよ。今でもその気持ちは変わらないんじゃないかな」

「そ、そっか、そうだったんだね。ぼ、僕もいつまでもうじうじしてたらダメだな……花音に本当に嫌われてしまう」

「うんうん、木下くんが男としてしっかりしたい気持ち、よく分かるよ。僕も絵菜を引っ張ってあげたいって気持ちがあるからね」

「な、なるほど、そういえば沢井さんは元気にしてる?」

「うん、元気にしてるよ。専門学校の勉強も楽しいみたいだし、バイトも始めて前よりも積極的になったような気がするよ」


 絵菜のここ最近の頑張りは、僕も刺激を受けることが多くあった。僕はそういうことも大事なのではないかと思っている。


「そ、そっか、よかったよ。あ、そういえば花音が、さ、沢井さんと一度デートしたいとか言ってたような……」

「ああ、そうなんだね、杉崎さんも絵菜を慕っていたからね、二人で出かけるっていうのも楽しいんじゃないかな」

「う、うん、よかったら沢井さんに伝えておいてくれるかな? ぼ、僕も花音に伝えておくので」

「うん、分かった。伝えておくよ。それと、木下くんは大学生活楽しんでる?」

「う、うん、なんとか話せる人もできて、勉強は難しいんだけど、た、楽しくやってるよ」


 そういえば木下くんは臨床心理士になりたいと言っていた。そのためには大学院まで行かないといけないと。これから先もっと大変だと思うが、頑張ってほしいなと思った。


「そっかそっか、よかったよ。これからも大変だと思うけど、頑張ってね」

「あ、ありがとう。あ、ごめん、ちょっと母さんが呼んでる気がするので、このへんで……」

「あ、うん、ごめんね長々と話してしまって。ありがとう」

「う、ううん、こちらこそありがとう。それじゃあまた」


 木下くんとの通話を終えて、僕はパソコンを再び眺めた。よし、教えてもらった通りこのタブレットにしよう。

 今回も木下くんにアドバイスをもらってありがたかった。あ、それと絵菜に伝えることがあったな。僕は絵菜にRINEを送ることにした。

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