第25話「恥ずかしい」

 次の日、目が覚めると目の前に絵菜の寝顔があった。

 昨日は眠くなるまでずっと絵菜とくっついていたのだが、いつの間にか二人とも眠っていたようだ。絵菜を起こさないようにそっと起き上がる。頭をなでると起きてしまうかな……と思ったが、可愛い絵菜の綺麗な金髪をなでていた。


「――ん、団吉……?」


 その時、絵菜が半分目を開けた。


「あ、おはよう、ごめん、起こしてしまったかな」

「おはよ、ううん、大丈夫……私いつの間にか寝てしまってた……」

「僕もいつの間にか寝てたよ。絵菜の寝顔が可愛くてつい頭をなでてしまって」

「……もう、ずるい」


 そう言って絵菜がきゅっと抱きついてきた。


「私、やっぱり早く夢を叶えたいな」

「ん? ああ、僕と一緒に暮らして、くっついて寝るって言ってたあれ?」

「うん、大人になったら絶対にそうしたい」

「そうだね、僕たちももうすぐ大人になるから、絵菜の夢は叶うと思うよ」


 僕がそう言うと、絵菜がニコッと笑顔を見せた。やっぱり可愛い……僕は嬉しくなって絵菜の綺麗な金髪をなでてあげた。

 まだパジャマ姿だったので、二人で着替えることにした。


「絵菜、先に着替える?」

「あ、うん、でももう向こう向かなくてもいいよ、団吉なら見られても大丈夫」

「え、そ、そっか、じゃあ、このままここにいることにするよ……」


 僕が言うのと同時に、絵菜がパジャマを脱ぎ始めた。う、うう、刺激が強すぎる……日向の着替えとは全然違う……というのは日向に失礼か。絵菜の体のラインが美しく、途中で恥ずかしくなってちょっと下を向いてしまった。


「ふふっ、団吉可愛いな、赤くなってる」

「うう、さすがに恥ずかしくて……あ、僕も着替えるね」


 僕も着替えることにする……のだが、絵菜がじーっとこちらを見ている……ううう、火野と違って筋肉もないし、ちょっとは鍛えるべきかな……と思ってしまった。

 着替えてリビングに行くと、みんな起きていたみたいだ。そしてみるくが「みゃー」と鳴きながらすりすりしてきた。


「あああ、みるくちゃんが可愛い……」

「あはは、絵菜にもすっかり懐いたね、膝にも乗って来るし」

「あらあら、二人ともおはよう、絵菜ちゃんよく眠れたかしら?」

「おはようございます。はい、いつの間にかぐっすり寝てたようで……」

「それならよかったわ。団吉が寝かさないようにしてたんじゃないかと思ってしまったわ」

「お兄ちゃん、絵菜さん、おはよー! あーお兄ちゃんも絵菜さんを襲ってしまったのかぁ」

「お兄様、お姉ちゃん、おはようございます。お兄様も男ですからね、仕方ないです」

「お、おはよ……」

「お、おはよう……って、ちょっと待って、なんで僕が襲ったの前提で話してるの……」


 恥ずかしくなっていると、みんな笑った。うう、神様ごめんなさい、絵菜の胸を触ったりしたのは僕です。どうかお許しを……!

 朝食をいただいた後、みんなで話をしていた。絵菜と真菜ちゃんはみるくと遊びながら写真を撮っていた。


「みるくちゃんもけっこう大きくなったな、猫の成長って早いな……」


 みるくと遊びながら、絵菜がぽつりと言った。


「ああ、そうだね、けっこう大きくなったね。来た頃はまだかなり小さかったもんなぁ」

「ほんとですね、でも可愛いです。こうして私やお姉ちゃんとも遊んでくれるし」

「元野良猫にしては人を怖がらないんだよね。猫にも色々と性格があるみたいなんだけど、みるくは人が好きみたいで」

「そうそう、みるくは遊ぶのも好きだもんねー、猫じゃらしもたくさん増えたよー、ねーみるく」


 日向がそう言うと、みるくが「みゃー」と鳴いた。『みるく』と呼ぶと反応するというか、耳が動く。自分はみるくだと分かっているのかもしれないなと思った。


「あ、全然関係ないんだけど、絵菜はバイト順調かな? きつくなったりしてない?」

「う、うん、今のところ大丈夫……バイト先の人たちもみんな優しいし、色々教えてくれる」

「そっかそっか、それはよかった。まぁでも始まったばかりだからね、少しずつ慣れていってね」

「ありがと、無理しないようにする」

「ふふふ、絵菜ちゃんもバイト頑張ってるのねー、これは前にも言ったように絵菜ちゃんが頑張る姿をこっそり見に行かないといけないわね」

「あ、お母さん、私も行きたい!」

「お母さん、私も行きたいと思っていました」

「ちょ、ちょっと待った三人とも、絵菜が恥ずかしいというか、緊張しちゃうじゃないか」

「ふふふ、大丈夫よ、声をかけたりはしないわ。こっそり見るだけだから。あ、団吉もまた見に行こうかしら」


 クスクスと笑う母さんだった。絵菜は恥ずかしそうにしていた。う、うーん、こっそり見るとか言いながら、声をかけそうなんだよな……まぁいいか。


「そ、そういえば、団吉のバイト先の子……その子とも会えるかな……?」

「ああ、最上さんか、うん、もしかしたら会うこともあるかもしれないね」

「ふっふっふー、舞衣子ちゃんとはRINEで話してるもんね! あ、真菜ちゃん、今度女子会しない? この前話してた舞衣子ちゃんと一緒に!」

「ああ、お兄様のバイト先の……! うんうん、三人で女子の秘密の話しよう!」


 日向と真菜ちゃんが顔を合わせて「ねー」と言っている。ま、また女子の秘密の話をする人が増えた……。


「それはいいけど、日向も真菜ちゃんも学校の課題とかない? よかったら教えるよ」

「うっ、お兄ちゃん、それは言わないで……せっかく楽しいところだったのに……」

「ということはあるんだな、ほら、隠してないで持って来い。教えてやるから」

「う、ううー、お兄ちゃんが勉強しろって言う……マヌケー」


 ぶーぶー文句を言う日向を見て、みんな笑った。

 真菜ちゃんはさすがというか、勉強道具も持って来ていたので、それから二人に勉強を教えていた。それなのに、え、絵菜を抱きしめたこととか、色々思い出して心の中では恥ずかしくなっていた僕だった。神様、どうか許してください……。

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