第23話「誕生日」

 五月五日。今年もこの日がやって来た。

 先日、最上さんと日向は、RINEの交換をしていた。最上さんはおとなしそうな感じだが、こういう時日向の明るくて誰とでも話せる性格はありがたいものだ。最上さんは小さな声で「あ、ありがと……あ、日車さんもRINE教えて……」と言っていたので、僕も教えることにした。あまり友達はいないと言っていた最上さんだが、こうして少しずつ話せる人が増えれば、気持ちも落ち着くかなと僕は思っていた。

 え? さっきの『この日がやって来た』とは何だって? そう、今日は僕の誕生日だ。今年はちゃんと覚えていた。もう十九歳にもなるのかと、自分でビックリしている。

 そして今日はなんと絵菜と真菜ちゃんがうちに泊まりに来るということで、朝から日向がバタバタと掃除をしていた。まぁ、楽しみなのは僕も一緒だ。


「ああ、あっちも掃除してー、トイレも綺麗にしてー、おもてなしおもてなしー」

「お、おう、日向、あまり頑張りすぎるとバテるぞ」

「ふっふっふー、部活で鍛えた体力があるもんね! 大丈夫だよー」


 そう言って日向が力こぶを見せた。まぁ元気な方が日向らしくていいか。

 そんなことを話していると、インターホンが鳴った。出ると絵菜と真菜ちゃんが荷物を持って来ていた。


「こ、こんにちは」

「お兄様、日向ちゃん、こんにちは! すみませんお世話になります」

「絵菜さん、真菜ちゃん、こんにちは! ささ、ご予約二名様でいつものお席をご用意しておりますので」

「おーい、いつも思うけどここはお店か?」


 僕と日向のやりとりに、絵菜と真菜ちゃんが笑った。

 二人をリビングに案内すると、母さんがニコニコしながらやって来た。


「あらあら、二人ともいらっしゃい。ゆっくりしていってねー」

「あ、お、おじゃまします」

「お母さん、こんにちは! すみませんおじゃまします」

「いえいえー、二人はもう娘みたいなものだからねー。あ、この前二人のお母さんとランチに行って来たわー、お互い子どもが成長してるねって話してたわ」


 母さんがふふふと笑った。ま、まぁ、いつも言っているけど親同士が仲良くしてもらえるのはありがたいというか。


「ま、まぁ、母さんたちが仲良くしてもらえるのはいいことというか……あはは」

「ふふふ、そうよーいいお友達ができたわ。四人に負けないくらい若々しくいかないとねーと話しててね……って、これがもうおばさんっぽいかしら、いやねー」

「うちのお母さんも、楽しかったって話してました。あ、話は変わりますがお兄様、お誕生日おめでとうございます。これ、私とお姉ちゃんからプレゼントです」


 真菜ちゃんがそう言って何かの包みを差し出してきた。


「え!? あ、ありがとう……ごめん、また気を遣わせてしまった……」

「ううん、団吉、誕生日おめでと。よかったら開けてみて」

「わ、分かった……あ、シャツ!?」

「はい、実はこれ、胸のところの小さなシルエット、トラゾーなんです。これだったらそんなに目立たないしワンポイントでいいんじゃないかなって」

「あ、そうなんだね……! すごい、ほんとにありがとう、大事に着させてもらうよ」


 トラゾーとは、少し前から有名になってきたご当地キャラだ。僕と真菜ちゃんが好きだった。


「よかったねお兄ちゃん、そんなお兄ちゃんに私からもプレゼントがあります! じゃーん!」


 日向もそう言って何かの包みを差し出してきた。


「え、あ、ありがとう……ごめん、いつも日向にはもらってしまって……」

「いやいや、お兄ちゃんも私にくれるから、当然だよー。よかったら開けてみてー」

「わ、分かった……あ、パスケースなのかな?」

「そうそう、お兄ちゃん電車で通学するようになったのに持ってなかったでしょ、これに定期券とか入れたらいいんじゃないかなって」

「な、なるほど、ありがとう、大事に使わせてもらうよ」


 日向からもらったのは、黒を基調としたチェックのパスケースだった。たしかにパスケースを持っていなかったので、今度からありがたく使わせてもらおう。


「ふふふ、よかったわね団吉、お母さんからもプレゼントがあるけど、ケーキだからそれは夕飯後のお楽しみにしておきましょうか」

「あ、そ、そうなんだね、ありがとう……申し訳ない気持ちにもなるけど、嬉しいよ。それに今日は絵菜と真菜ちゃんが来てくれたのも」


 自分が主役みたいでちょっと恥ずかしい気持ちになったが、今日一日くらいはいいのかもしれないなと思った。

 みんなで話しているとあっという間に夕飯の時間となった。今日はローストチキンやシチューなど、僕が好きなものがたくさん並んだ。


「さあさあ、みんなたくさん食べてねー」

「い、いただきます……あ、シチュー美味しい」

「ほんとだ、お母さん、美味しいです!」

「あらあら、ありがとう。ふふふ、美味しいって言ってくれると嬉しいわー」


 美味しい夕飯をいただいた後、みんなでケーキをいただくことにした。駅前の近くのケーキ屋さんのものだろうか、ショートケーキが五つあった。誕生日の僕から選んでいいと言われたので、いちごのショートケーキを選んだ。


「お兄ちゃん、美味しい?」

「あ、うん、甘い物は別腹と言うけど、ほんとにその通りだな」

「ふふふ、団吉もこれで十九歳になったのねー、どんどん大人になっていくわね。お母さん嬉しいわー。お父さんも天国から団吉の成長を喜んでいるかもしれないわね」

「ま、まぁ、そうかもしれないね。父さんが十九歳の頃ってどんな感じだったんだろ……」

「お父さんはカッコよかったわよー、細くて背も高くて、勉強もできたし、こっそりお父さんのこと好きな人がいたんじゃないかしら」


 たしか父さんと母さんは高校時代に知り合って、お付き合いを始めたと言っていた。そうか、僕が勉強が好きなのは父さんに似たのかもしれないな。


「みんな、ケーキ食べ終わったらお風呂に入りましょうか。入れてくるわね」

「あ、はーい。よし、またいつものようにじゃんけんしますか!」


 日向の一言でお風呂の順番を決めるじゃんけんが始まる。僕はすっかり忘れていた。いつも絵菜と真菜ちゃんが泊まりに来た時は、ドキドキが止まらないということを……。

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