第17話「女子会」

「あー、今日も終わったねー、なかなか難しいねー」


 ある日の授業が終わり、私の隣で春奈が伸びをしながらそう言った。

 専門学校の授業はどんなものだろうかと思っていたが、ネイルケア、カラーリング、リペアなどの基礎を学んでいた。今後すぐに検定試験に向けた勉強もあるようで、頑張らなければいけないなと思っていた。

 先日、団吉と火野と優子の爪を磨いてあげた。みんなにすごいと言われて、私は嬉しくなった。高校時代は私は四人の中で一番人の役に立っていないような気がしていた。みんなそんなことはないと言ってくれていたが、私としては気になっていた。

 こんな私でも、人の役に立てるんだなと分かって、このまま勉強を頑張ろうと思った。


「ねーねー絵菜、この後時間ある? ちょっと行きたいところがあるんだけどさー、一緒に行かない?」


 春奈がニコニコしながら言った。行きたいところ? 何だろうかと思ったが、特に用事もないので、


「うん、いいよ」


 と、返事をした。


「やった! よし、じゃあ行きますかー! 佑香も行くよー!」


 春奈の隣にいた佑香にそう言うと、佑香は何も言わずに立ち上がって、先に行こうとしていた。


「あ、まーた先に行ってー、絵菜も行こ行こー」


 春奈はそう言って私の左手を握った。ちょっと恥ずかしいが、こんな私にも仲良くしてくれるんだなと少し嬉しい気持ちもあった。

 どこに行くのだろうかと思っていたら、電車に乗ってショッピングモールへやって来た。そういえば団吉と初めてデートをしたのもここだ。懐かしい気持ちになった。


「今日からクレープの新しいお店ができるって聞いてさー、行ってみたいと思ったんだよねー。あ、あそこだ!」


 子どものように嬉しそうな顔をする春奈だった。なるほどクレープか、たまには甘い物もいいなと思った。

 私はチョコバナナパフェ、春奈はストロベリークリームチーズ、佑香はキャラメルマキアートクリームを選んだ。三人でクレープを持って、近くにあったテーブルの椅子に座った。


「よーし、いただきまーす! あ、美味しいー! 絵菜と佑香のは美味しい?」

「うん、美味しい」

「……美味しい。この世にこんな美味しいものがあるなんて」

「あははっ、佑香ったら面白いこと言うねー!」


 三人で笑いながらクレープをいただく。これは女子会というやつだろうか、団吉と一緒に出かけるのも好きだが、たまにはこういう集まりも悪くないなと思った。


「そーいえばさ、絵菜って好きな人とかいるのー?」


 いきなり春奈に言われて、私はクレープを喉につまらせるところだった。す、好きな人か、すぐに団吉の顔が思い浮かんできた。


「あ、う、うん、まぁいるというか……」

「そうなんだぁー! あ、もしかして彼氏がいるとか!?」

「う、うん……」

「ええー! 彼氏いたなんてー! もーなんで早く言ってくれないの!」

「……自分から言うことじゃないと思う」


 冷静にツッコミを入れる佑香だった。よく話す春奈と、あまり話さない佑香、バランスがいいのかもしれない。


「まーそうなんだけどさぁ、いいないいなー、彼氏さんっていつから付き合ってるの?」

「あ、高校一年生から……って、自分で言うの恥ずかしいな」

「えー! めっちゃ長いじゃーん! 私なんて高校時代ちょっと付き合ったことがあったけど、すぐフラれちゃったよー」

「……春奈がおしゃべりだからいけないんだと思う」

「あーっ、佑香め、生意気なこと言ってー!」


 春奈が佑香をポカポカと叩いている。二人ともタイプは違うが可愛いから彼氏がいてもおかしくなさそうだが、佑香はどうなのだろうか。


「ゆ、佑香は、彼氏いるのか……?」

「……私はこんなんだから、彼氏なんてできない」

「そ、そっか、まぁでも好きな人くらいはいたんじゃないか……?」

「うんうん、佑香はねー、実は高校時代、隣のクラスのイケメンがひっそりと好きで――」

「……それ以上は言わなくていい」


 佑香が春奈の口を手でふさいだ。


「な、なるほど、まぁ、好きな人がいるっていいよな」

「……ま、まぁ、そういうこともあったくらいで……今はいない」


 佑香がちょっと恥ずかしそうに顔をかいた。


「ねえねえ、絵菜の彼氏さんの写真ない? 見てみたいなー!」

「え、あ、そういえばこの前大学の入学式で、スーツ姿の写真もらったんだった……こんな感じ」


 私はスマホを取り出して、二人に団吉と日向ちゃんの写真を見せた。


「おおー! なんか可愛い顔してるじゃーん! 優しそうっていうかさー」

「……たしかに、優しそう」

「う、うん、昔からとても優しい……かな。勉強もかなりできて、よく教えてもらってた」

「そっかー、お隣は妹さんかな?」

「あ、うん、お兄ちゃんのことが大好きな妹さん」

「そっかそっかー、可愛くて優しくて勉強ができる人かぁー、いいなぁー、どこかにそんないい人いないかなー」

「……そんないい人がいても、たぶん春奈のことは好きになってくれなさそう」

「あーっ、また佑香が生意気なこと言ってるー!」


 また春奈が佑香をポカポカと叩いている。それを見て思わず笑ってしまった。


「ふふっ、二人はほんとに仲が良いな」

「そうなんだよー! 佑香とは一緒のクラスになることが多くてねー、よく遊んでたんだー」

「……まぁ、腐れ縁ってやつ」

「またまたー、そんなこと言っちゃってー、ほんとは佑香も嬉しいんでしょー」


 春奈が佑香の頬をツンツンと突いた。腐れ縁とは言っていたが、おそらく佑香も春奈が好きなのだろう。二人の関係性がいいなと思った。

 三人でクレープを食べながら恋バナをしてしまった。やはりこの女子会というのも悪くない。私は嬉しい気持ちになっていた。

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