第15話「楽しい時間」

 それからしばらくみんなで居酒屋で盛り上がっていた。

 特に女性二人の呑みっぷりがすさまじく、途中から何杯呑んでいるのか分からなくなってきた。二人ともビールから焼酎に切り替えて、ボトルを空にしようとしている。だ、大丈夫なのだろうかと心配になったが、楽しそうなので何も言わないでいた。


「拓海くんカッコいいね~、女の子にモテたでしょ~」

「い、いえ、そんなことはないです……まぁ、全然話さなかったってわけではないっつーか……」

「あはは~、いいよ謙遜しないで~、大学でも人気がでそうだねぇ~」


 相変わらず川倉先輩は拓海に絡んでいる。拓海も恥ずかしそうにしながらも笑っているので、まぁいいかと思うようにした。


「まったく、拓海くんすまないね、亜香里先輩はこうなったらしつこいんだ。許してやってくれたまえ」

「あ、い、いえ、大丈夫です」

「あー、慶太、私のこと酔っ払い扱いしたでしょ~、いけないんだ~、ねー拓海くん」

「はいはい、あんまり拓海くんにくっつかないようにね、拓海くんが呑んでないのに顔が真っ赤になってるよ」


 そんな感じで楽しそう……なのだが、僕の隣で静かに呑み続けている人を忘れてはいけない。成瀬先輩だ。


「……な、成瀬先輩? けっこう呑んでるみたいですが……」

「……やっぱりお酒は美味しかね。団吉くんって、よう見ると可愛か顔ばしとるね~、ふふふふふ」


 あ、あれ? なんか言葉が変わった……? よく分からないが、成瀬先輩にじーっと顔を見つめられている……って、ち、近――


「ふふふ、やっぱり可愛かね~、よかねよかね。ほら、団吉くんももっと呑まんね~」

「あ、ぼ、僕はジュースなので……でもいただきます……あはは」

「蓮さんは酔うと博多弁が出るのか。団吉くんすまないね、蓮さんは元々福岡出身でね、普段はそんなに方言は出ないんだけどね」

「あ、そ、そうなんですね……あはは」

「……慶太くん、私のことば酔っ払いと思うとるやろ? まだまだしっかりしとうけんね~」

「はいはい、団吉くんと拓海くんが来てくれてお酒が美味しいのは分かったから、ほどほどにね」


 な、なんだろう、いつもは慶太先輩がツッコミを受ける側なのだが、女性二人が酔うと慶太先輩がしっかりした大人に感じる……! いやそれは慶太先輩に失礼か。

 そんな感じで僕には成瀬先輩がなんか近い気がしたが、時間も遅くなってきたので帰ることになった。


「あはは~、楽しかった~、またみんなで行こうね~」

「す、すみません、僕と拓海の分、みなさんに出してもらって……」

「いいのいいの~、二人の歓迎会だからね~、団吉くんも拓海くんもこれからよろしくね~」

「そうそう~、二人とも可愛か~カッコよか~、これからよろしくね~」

「あ、はい、よろしくお願いします」

「はいはい、そろそろ帰るよ。ボクは女性二人を家まで送って行くことにするよ。団吉くん、拓海くん、これからもよろしく頼むね」

「は、はい、すみませんありがとうございました」


 慶太先輩が女性二人の背中を支えて歩いて帰って行った。よかった、歩くことはできたようだ。


「な、なんかすげーな、楽しかったけど、これが大人ってやつなのか……?」

「そ、そうかもしれないね……僕たちもお酒が呑めるようになると変わるのかな……」


 まだよく分からないが、初めてこういう席に参加させてもらって、ちょっと楽しい気分になった。



 * * *



「ただいまー」


 あの後僕はまっすぐ家に帰った。時計を見ると夜の十時を過ぎていた。夕方くらいからかなり盛り上がっていたため、時間がよく分からなくなっていたが、こんなに経っていたとは。


「あら、団吉おかえり」

「おかえりー、お兄ちゃんめずらしく遅かったねー」


 リビングに行くと、母さんと日向がテレビを観ていた。


「あ、うん、サークルの歓迎会みたいなものがあって、ちょっと遅くなっちゃった」

「あらあら、ふふふ、団吉もそういう飲み会に誘われるようになったのねー、私も大学生の頃思い出すわーって、なんかおばさんっぽいかしら、いやねー」

「う、うん、居酒屋ってあまり行ったことがなくて、ちょっと不思議な感じがした……」

「お、お兄ちゃん、まさかお酒呑んでるの!?」

「いやいや、まだ未成年だから呑んでないよ、今日はひたすらジュースを飲んでたかな」

「ふふふ、団吉もお父さんやおじいちゃんに似て、お酒が呑めるといいわねー」

「あ、ちょっと父さんのこと思い出したよ。そういえば夕飯の時に晩酌してたなって」

「そうね、たくさん呑むわけじゃなかったけど、お父さんはウィスキーが好きだったわね。それも懐かしいわー」


 そうか、父さんが呑んでいたのはウィスキーだったのか。どんな味がするのだろうか。


「そっかー、お兄ちゃんも大人になってるんだねー、まぁ可愛いのは変わらないけど!」

「お、おう、ありがとう。でも大人になっても可愛いって言われるのはどうなのかな……あ、いや、自分ではよく分からないけど……」

「ふっふっふー、お兄ちゃんは可愛いからお兄ちゃんなのだ!」

「な、なんだその理論……まぁいいか。あれ? 何かRINEが来たような……」


 ふとスマホを見るとRINEが来ていた。送ってきたのは絵菜だった。


『団吉お疲れさま、何かしてた?』

『お疲れさま、今日はサークルの歓迎会があって、さっき帰ってきたよ』

『そっか、色々楽しんでるみたいだな、よかった』

『うん、絵菜も学校生活楽しい?』

『なんか知らないことばかりで覚えるのが大変だけど、楽しい。友達もよく話してくれるし』

『そっかそっか、ほんとこの前の爪磨き、すごかったね。さすがだなって思ったよ』

『ううん、まだまだ勉強中だから全然だけど、ちょっとみんなの役に立って嬉しかった』

『うんうん、将来本当のプロになったら、女性陣はみんな行きそうだね』

『あ、みんなからお金たくさんもらうのもありだな……』

『え!? そ、そこは割引料金じゃないの……?』

『ふふっ、冗談だよ。みんなには特別価格で』


 この前もそうだったが、絵菜から『冗談だよ』って久しぶりに聞いたなと思った。まだお付き合いする前によく言っていたような……。

 僕はお風呂に入って来ると絵菜に伝えて、お風呂に入ることにした。今日は楽しい一日になったなと思った。

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