第12話「写真研究会」

 ある日、僕と拓海は講義が終わってから、一緒に行くところがあった。


「こ、ここが研究棟か……なんか緊張するっつーか」

「そ、そうだね、まぁ色々な人がいるみたいだからね。い、行こうか」


 少しビビりながら二人で研究棟に入る。そう、以前話していた写真研究会というサークルに入りたいと思った僕たちは、一緒に研究棟へ行くことにしたのだ。川倉先輩も慶太先輩もよくここにいると言っていた。お二人から詳しい話を聞きたいなと思った。

 研究棟は僕たちが主に学んでいる校舎とは違って、学部の研究室や、サークルや部活動の部室みたいなものが集まる、けっこうオールラウンドな建物だった。その表現が合っているのかどうかは分からないが、ここ以外にもいくつかあるらしい。


「お、おお、色々なサークルの名前が書かれてあるっつーか」

「そ、そうだね、えっと……写真研究会……あ、ここか」


 僕たちは川倉先輩からもらったパンフレットを見ながら、写真研究会の部室……と呼んでいいのかな、その部屋の前に来た。ドアの横に『写真研究会』と書かれてある。中から声も聞こえるような……?

 僕は拓海と目を合わせてから、ドアをノックした。「はい、どうぞ」と聞こえてきたので、ドアを開ける。


「し、失礼します!」

「し、失礼します、こちらが写真研究会でしょうか……?」


 元気よく挨拶する拓海と、ちょっと挙動不審になりながら話す僕だった。


「――ああ! 団吉くんに印藤くんじゃない、こんにちは! 来てくれたんだねー」


 そう言って駆け寄って来たのは川倉先輩だった。川倉先輩が僕と拓海とそれぞれ握手する。少しだけ恥ずかしかった。


「あ、は、はい、写真研究会がどんなところか興味が出て……」

「あはは、ありがとうー! ああ、せっかくだし入って入ってー、今ね、慶太ともう一人いるんだー」


 川倉先輩が僕たちの背中を押した。僕と拓海は「し、失礼します」と言って中に入らせてもらった。見ると慶太先輩と、もう一人女の人がいた。


「やあやあ、団吉くんに拓海くん、来てくれて嬉しいよ。ということはサークルに入りたくなったんだね?」

「あ、はい、お二人がいてくれると心強いし、興味が出たので……」

「ありがとう、そう言ってくれると嬉しいよ。またボクが手取り足取り教えてあげようではな――」

「はいはい、慶太はそのへんで。あ、もう一人いるから紹介するね、成瀬蓮なるせはすちゃんだよー」


 川倉先輩がそう言うと、もう一人の女の人が立ち上がった。


「はじめまして、文学部二年の成瀬……蓮……といいます。よろしくお願いします」


 女の人がペコリとお辞儀をした。二年生か、ということは慶太先輩と一緒なんだな。


「は、はじめまして! 理工学部一年の印藤拓海です。よろしくお願いします!」

「は、はじめまして、同じく理工学部一年の、ひ、日車団吉です、よ、よろしくお願いします」


 僕たちも慌てて自己紹介をしてお辞儀をした。


「お噂は亜香里先輩や慶太くんから聞いていました。可愛い人とカッコいい人が来るかもしれないって。ほんとにその通りですね」


 あ、あれ? 成瀬先輩はなぜ敬語なのだろうか。ま、まぁそういう話し方もあるよなと思った。成瀬先輩は少し小柄で、暗めの茶色の髪に、赤いメガネをかけていた。


「あ、い、いや、可愛いとカッコいいは言い過ぎかもしれませんが……あはは」

「いえいえ、お二人とも素敵です。これからよろしくお願いします」

「あ、蓮ちゃーん、ダメだよー、すーぐいい人を見ると食べようとするんだからー。二人は大事な仲間になってくれるんだからねー」

「……ええ!? い、いえ、そんなつもりでは……す、すみませんちょっと言い過ぎたかもしれません……」


 川倉先輩に言われて、成瀬先輩が顔を赤くして俯いた。下の名前が『はす』というのか、なかなかめずらしいなと思ったが、人のことは言えなかった。


「よーし、これで我が写真研究会も五人になったねー、よきかなよきかな」

「ああ、去年の四年生がいなくなって寂しかったけど、団吉くんと拓海くんが来てくれたならまた賑やかになりそうだね!」

「あ、これで全員なんですね……」

「そうそう、そして一応私、川倉亜香里がサークル長というか代表を務めているんだよー。まぁ年齢的にも一番上だから仕方ないんだけどさ」


 川倉先輩が胸を叩いてドヤ顔を見せた。そ、そうか、まぁ一番先輩である川倉先輩が代表というのも頷ける。


「あ、すみません、俺も団吉もカメラは素人だし、カメラ持ってないし、そんなんで入っていいのかちょっと迷ったっつーか、本当にいいのでしょうか……?」


 拓海が心配そうに訊いた。そう、写真研究会ということはカメラで写真を撮るということになるのだろう。カメラを持っていない僕たちは本当にいいのかなとちょっと不安になっていた。


「ああ、全然気にしないでー。カメラは私たちのもあるしさ、それに、今はスマホのカメラも高性能だから、そっちで撮るのもありだよー」

「そうそう、団吉くんも拓海くんも、これを見てくれたまえ。これはボクがスマホのカメラで撮った写真だよ」


 慶太先輩がいくつか写真を出してきた。お、おお、ボケ感というのかな、質感も綺麗で素敵な風景写真だなと思った。


「あ、そうなんですね、すごい……!」

「うむ、こんな感じでスマホのカメラでも十分綺麗な写真は撮れるから、まずはそっちで慣れてから、さらに興味が出たらカメラを買うというのもありだとボクは思うけどね!」

「あれ、慶太にしてはめずらしくいいこと言ってるね」

「ええ!? 亜香里先輩、ボクはいつもいいことしか言わないよ」

「いや、そうでもないと思います。慶太くんちょっとおかしいところあるし」

「ええ!? いやはや、蓮さんも厳しいね、これは二人がお嫁に行ける日はかなり遠い――」


 慶太先輩がそう言っている間に、女性二人にバシッと叩かれていた。な、なんだろう、成瀬先輩もおとなしそうに見えてツッコミが厳しい人なのだろうか。


「よし、慶太はいいとして、せっかく二人が来てくれたんだし、今度あそこにみんなで行きますかー!」

「ああ、亜香里先輩、ボクも同じことを考えていたよ」

「そうですね、お二人を歓迎するという意味を込めて」


 先輩三人が何かニコニコしている。何のことだろうかと思ったが、訊くのはやめておいた。

 それはいいとして、僕と拓海もこれでサークルというものに入ることになった。これも大学生活を楽しむ上で大事なものだろう。色々と頑張って、そして楽しんでいきたいなと思った。

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