第8話「家族」

「ただいまー」


 あれから最上さんを家まで送って行った。僕の家からも歩いて行けないことはない。高校一年生の時に引っ越してきたらしいので、日向たちとは中学は違うのだろう。

 高校は青桜高校ではなく、少し離れたところにある女子高に通っているらしい。でも、学校に行けているというのはいいことだなと思った。僕も楽しくなかった時期も一応学校に行くことはやめなかった。最上さんも学校で話せる人ができるといいなと思った。

 リビングに行くと、母さんと日向が夕飯の準備をしていた。


「あら、団吉おかえり」

「お兄ちゃんおかえりー、今日は遅かったね」

「あ、ああ、ちょっとね……」


 最上さんのことを話していいのかどうか迷って、ちょっと中途半端な返事になってしまった。


「ちょっとって? あ、まさか浮気してきたとか!? 絵菜さんに言いつけるよ!」

「な、なんでそんな思考になるんだよ……違うよ、実は今日から新しいバイトの子が入ってきてね、その子の話を聞いていて」

「あ、そうなんだね、いくつくらいの人なの?」

「高校二年生らしい。女の子だよ。日向と同い年だな」

「えー! すごいなぁ、同い年でバイトしてるのかー、私は部活があるから無理だけど、尊敬するよー」

「まぁ、部活やってる日向も偉いと思うぞ」


 そう言うと日向がドヤ顔を見せた。単純な奴だな……というのは日向に失礼か。

 日向はサッカー部のマネージャーをしている。彼氏の長谷川くんもサッカー部だ。二人で頑張っているらしい。二人がサッカー部に入りたいと相談してきたのが懐かしく思えた。

 夕飯の準備ができて、三人で夕飯をいただく。今日は回鍋肉と餃子とサラダとわかめスープとご飯か。お腹が空いていたのでたくさん食べることができそうだなと思った。


「そういえば団吉、新しいバイトの子の話を聞いていたって言ってたわね、何かあったのかしら?」

「あ、まぁ……話していいのか分からないけど、いいか。どうもその子の家がごたごたしているみたいでね、両親がケンカとかしているみたいで。それで家が嫌になってるみたいで」

「なるほど……難しい問題ね。家が嫌になるのも分かるわ。親としてはそんな姿を子どもには見せたくないわ」

「うん、最上さんっていうんだけど、最上さんが一番きつい思いをしているんじゃないかと思って、胸が苦しくなったよ」

「そうね、もしかして家にいるのが嫌で、バイトを始めたんじゃないかしら?」

「うん、どうもそうみたい……って、母さんよく分かったね」

「ふふふ、団吉の顔に書いてあるわよー。でもそうね、今は気持ちを切り替えることができることをするのもいいと思うわ」


 そ、そうか、顔に書いてあるのか……よく分からないけど、母さんが言うならそういうことなのだろう。


「そっかー、両親がケンカとか嫌だねー、我が家は仲良し家族でよかった!」

「ああ、そうだな。父さんと母さんがケンカしたところなんて見たことなかったしな」

「ふふふ、そうよーお父さんとお母さんは仲良しだったからねー。それにお父さんが優しかったから、怒ることなんてなかったわ」


 母さんがニコニコしながら言った。そう、父さんはとても優しくて、母さんはもちろん僕たちを怒ることもなかった。しかし最上さんの両親はケンカをしている。親も色々なんだなと思った。


「最上さんも色々大変なんだね……あ、私と同い年だし、ちょっと話してみたくなった!」

「あ、うん、僕に妹がいるって話したよ。そのうち会ってくれないかな」

「もっちろーん! どんな子なんだろー、いい子だったらいいなー」

「うん、根は優しそうでいい子だと思うよ。バイトもこれから慣れてくれるといいなと思ってるよ」

「うんうん、あ、そういえばお兄ちゃん、大学で友達できたー? また一人になってないかなって思って」

「あ、うん、印藤拓海くんっていう、たまたま隣に座った人と話すようになったよ。拓海もいい人みたいで」

「そっかー、よかったよかった。お兄ちゃんあんまり自分からぐいぐい行くタイプじゃないもんねー」

「ま、まぁそうだな、とりあえずぼっちにはならなくて済みそうだよ」


 夕飯を食べ終わって片づけをして、リビングでのんびりしているとスマホが鳴った。RINEが送られてきたみたいだ。送ってきたのは拓海だった。


『お疲れさーん、今日は何かしてたか?』

『お疲れさま、今日はバイトがあって、帰ってゆっくりしてたとこだよ』

『おお、バイトしてるのかー、俺も飲食店でバイト始めたんだけどさ、なかなか難しいっつーか』

『ああ、そうなんだね、なかなか難しいよね。でもやっていけば慣れると思うよ』

『そうだよなー、なんとか頑張るよ。そういえば月曜日から講義始まるな、団吉は受けるのか?』

『うん、月曜日は一限から受けることにしているよ。ちょっと楽しみかな』

『お、そうなのか、俺も一限からだ。そしたら会えそうだな。俺もちょっと楽しみっつーか』

『そうなんだね、うん、なんとか一緒に頑張っていこうか』


 そう、大学もオリエンテーション期間も終わり、月曜日から前期の講義が始まる。僕も楽しみにしていた。


「お兄ちゃん、スマホ見てるね、もしかしてRINE?」

「あ、うん、さっき話してた拓海からRINEが来てね、月曜から講義が始まるから、その話してたよ」

「そっかー、講義って聞くとなんだか難しそうだねー、まぁお兄ちゃんなら勉強できるし大丈夫か!」

「お、おう、そういえば日向はちゃんと勉強して――」

「お、お兄ちゃん! 私の勉強の話はやめよう! あああ嫌な記憶が……!」


 耳をふさいで聞こえないようにする日向だった。


「だからちゃんと勉強しておけって。分からなかったら教えるからな」

「う、ううー、でも頑張らないと、真菜ちゃんと健斗くんに置いていかれる……あ、そういえば真菜ちゃんと健斗くんとは違うクラスになっちゃった……」

「そ、そっか、やっぱり二年生は分かれてしまう何かがあるのかな……」


 僕と絵菜も見えない力で二年生の時は別のクラスだったからな……って、見えない力ってなんだ?

 とりあえず今日は疲れたので、あとはゆっくりしておこうと思った僕だった。

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