晩秋レイニーナイトⅡ

「おじゃまします」

「いいよいいよ、わざわざ。誰もいないから」


 律儀に玄関口で頭を下げる詩述に、結菜は手を振ってそう言った。

 家の中に人の気配はない。もう時刻は午後七時を回っているというのに、夕食の香りはおろか家族の談笑する音すら聞こえてこなかった。


「……ご両親は留守なんですか?」

「うち片親なんだよね。で、おまけに水商売。朝方に帰ってきて夕方まで寝て、夜になる頃にまた出勤していくの。

 だから基本顔合わせることとかないし、こうやって友達呼んでも問題ないってわけ」

「なるほど。それはすみません、無神経なことを聞きました」

「いーよ別に、気にしたこととかないし。それに、これはこれで気楽な暮らしだしね」


 あの後。

 結局、結菜は泡野迷依を捕まえることができなかった。

 まさか逃すとは思わなかったのだが、詩述によると彼女の言う"協力者"……結菜達の担任である八朔冬美が迷依を捕らえていたらしい。

 詩述から八朔の真実を聞かされた時の感想としては、率直に言うと――かなり引いた。

 自分の身近にそんなモンスターと呼ぶ他ない人間がいたことに驚愕したし、そうとは知らず二人きりになったりしていたのを思い出してゾッとした。

 自分もあの担任からそういう目で見られていたのかもと思うと、流石に背筋に寒気が走るのを堪えられなかった。


「……にしても、あんなヤバい奴と関わって大丈夫なの。私もしのも危ないんじゃ」

「その辺はモーマンタイ、です。いざとなったらすぐにでも警察に通報できる準備はした上で会うようにしてますから。

 あとで結菜さんのスマホにも同じアプリを入れてあげますね」

「ん、よろ。流石に人喰いカッコ意味深な女と無防備な状態で関わり合いにはなりたくないわ、私も」


 詩述のことだ。

 風花に手を出させないように言い含めてはあるのだろうが、それにしたってそんな危険な相手を大事な友人にけしかけていいのだろうか。

 あちらが約束を破って風花を喰らってしまうようなことがあった時、詩述は大丈夫なのか。耐えられるのか。

 気になりはしたが、それをわざわざ口に出して問いかけることはしなかった。

 だってそうなれば、あの目障りな女は消え、詩述も過去の呪いに縛られることはなくなるのだ。

 もしも詩述が本当にその危険性リスクを見落としてしまっているのだとしたら、それはそれでいい。

 火箱風花の破滅は小椋結菜にとっての最終的な勝利条件なのだ。

 結菜と詩述は一蓮托生だが、目指すゴールは厳密には違う。

 変態教師にはその点、頑張って貰いたいものだった。自分と詩述の未来のために。


「適当になんか作るわ。リクエストある?」

「うに丼」

「ぶっ飛ばすぞ」


 家人がいないとわかるなり、ソファの上ででろーんと横になってのびのびし始める詩述。

 合皮は破けてスプリングまで露出している座り心地の悪いおんぼろなので少し恥ずかしかったが、満足げにしているので良しとしておく。


 冷蔵庫から取り出したウインナーを油を敷いたフライパンで痛めて、後は母親が店のオーナーから貰ってきたらしいボイルほたてをバター焼きに仕上げていく。

 米はインスタントのものをレンジでチン。味噌汁も、同じくインスタント。

 適当にカット野菜を取り出して盛り付ければ、年頃の女子にはだいぶあるまじき夕飯の完成だ。


 ――ちょっと適当すぎたかな。

 ありもので作ったからこれしかなかったんだけど。

 そんなことを思いながら出してみると、しかし思いの外。


「……ん、ん。味が濃くておいしいです。

 こういうのでいいんです、こういうので」

「あ、そう? 我ながら雑すぎるかなと思ったくらいなんだけど」

「はい。特にこのバターがおいしくて」

「バターは食材じゃねえよ」


 コメントはともかく、やっぱり雑な性格に違わず雑に味の濃い料理が好きらしい。

 ほたてのバター焼きをぺろりと平らげると、皿に溜まった醤油をご飯にかけてお下品な食事と洒落込んでいる。

 おまけに味噌汁までかけ始めた。あれはもうどういう味がするのだろう。さっぱり見当がつかない。


「身体に悪いぞー」

「おいしいものを食べ渋ってまで長生きしたって仕方ないんですよ。

 他人の生活習慣にいちいちケチつけてくるやつはどうしようもない暇人です。

 どんなに早寝早起きして食生活に気を遣ったって、此処でわたしが急に大声で襲いかかったら結菜さんは死んでしまうわけですし」

「風で飛んできた三角コーンにスマブラみたいにふっ飛ばされる体幹終わり人間がよく言うよ」

「体幹終わり人間」


 貧弱生物のくせに、食生活で自滅までされたらいよいよどうしようもない。

 自炊とかめんどくさいからする気もなかったけど、多少覚えるか。

 そんなことを考えている結菜に、詩述はにゅっとその味噌汁ぶっかけご飯を差し出してきた。


「そうと決まれば結菜さんを毒殺することにします。どうぞ」

「……じゃあ、せっかくだから」


 そう言って、半信半疑で一口口へ含んでみる。

 ――意外と悪くなかった。


「あ、結構おいしい」

「でしょう。バター醤油とお味噌汁は相性がいいんですよ」


 全部食べたら飽きが来そうだし、やっぱり見かけ通り身体に悪そうな味がするけれど、それはさておきなかなか美味しい。

 バターのこってり感が味噌の風味とマッチしているというか、なんというか。

 まさに背徳の味という感じだった。自慢気にしている詩述を見つつ、そこでふと気付く。


(……あ、これ間接――)


 詩述の使った箸を使って食べてしまった。

 そう気付いた途端、なんだかぼっと顔が熱くなってくる。

 自分と彼女はそういう関係ではない。もっと高尚な、探偵と助手。あるいは共犯者の関係だ。

 それなのに何を意識することがあるのかという話だが、それでも不意打ち気味なシチュエーションにどきどきしてしまった。

 詩述の方を見ると、彼女はいつも通りの調子で平然としていた。

 自分の方だけ妙に照れ臭くて、馬鹿らしくなってしまう。


 ――あいつらみたいじゃん、こんなの。


 自分達の"敵"二人の顔がよぎって、思わず自己嫌悪の念が湧いた。

 あんな変態連中と同類扱いされるなんて冗談じゃない。

 でも、あんな奴らと自分は違うのだと言い聞かせないとやっていけない気がするのはどうしてだろう。

 自分で自分がわからなくなってくる。最近はわからないことだらけだ。


「……割とうまいけど、もういいや。ていうか一口で満足するタイプの味だよこれ」

「もったいない。わたしをここまで大きくしてくれた味ですよ。バカにしないでください」

「何ひとつ大きくなってないじゃん」

「結菜さん?」


 ずざー、とかきこんでいく詩述の姿はまるで子どもみたいで、見てるとなんだか微笑ましくなってくる。

 そうして簡素な食事を平らげると、けぷ、と漫画のような声を出した。

 ご飯粒一つ残さず食べてもらえると、こんな雑な献立でも割と嬉しいものらしい。新発見だった。


「食器洗ってくるから、適当にテレビでも見ててよ」

「あれ。結菜さんは食べないんですか?」

「ダイエット中。夜飯抜いてるの」

「それこそ不健康じゃないですか。だめですよ、ご飯はちゃんと食べないと」

「はいはい。ま、後でアイスもあるから。それ一緒に食べて、それでご飯ってことにカウントしてよ」

「ハーゲンダッツ・クリスピーサンドで」

「スーパーカップ・バニラだよ馬鹿」



◆◆



 食器を片付け終えて、冷蔵庫にウインナーとほたてを少々食べた旨を書いたメモを貼り付ける。

 結菜の母親は基本的に適当で、何事にも頓着しないような性格なのだが、自分の予定を崩されることをめちゃくちゃに嫌う人間だった。

 だから物を食べた時はこうしてその旨を書いておかないと機嫌を損ねてしまう。面倒臭いことこの上ないが、もう慣れた。


 リビングに戻ると、ソファの上で膝を抱えて座っている詩述がいた。

 さっきまではごろんと横になっていたはずなので、結菜がいなくなった間に体勢を変えたのだろう。

 服の中に両膝を押し込めてだるまみたいに左右に揺れている様子はなんとも可愛らしい。

 ふ、と思わず笑みを浮かべながら、約束のアイスを持って彼女の隣に腰を下ろした。


「そういえば、結菜さん。なんで急にわたしをおうちに誘ってくれたんですか?」

「ん? だってしの、家に帰るの好きじゃないんでしょ」

「そんなこと言いましたっけ。わたし」

「しの、一緒にいるとやけにあちこち行きたがるじゃん。

 私といる時は大体ご飯も一緒に済ませようとするし。それってそういうことなんだろうなと思ってたけど」

「……まあ、間違ってはいません。結菜さんにあるまじき鋭い推理ですね」


 そう言うと、詩述はふふんと笑って横の結菜を見た。


「そこまで気付いているということは、結菜さんのことです。

 わたしのことも色々調べたのではないですか。例えば、両親のこととか」

「……参ったな。お見通しか」

「別に責めるつもりもありません。事実ですしね。

 インターネットは怖いものです。将来わたしはまともな就職はできないでしょう」


 死刑囚の娘。鬼畜の血だとか、見かけたら殺した方がいいとか、掲示板や個人ブログで好き勝手言われているのを結菜は見ていた。

 詩述が自分から話してくれるまではそのことを明かすつもりはなかったのだが、まさかこんな形で見透かされてしまうとは思わなかった。

 けれど詩述は言葉の通り、責める風ではなく。

 むしろ微笑んだまま、アイスを口に運びつつ話を続ける。


「勘違いしないでほしいのですが、別におうちのことは嫌いじゃありません。お母さんは優しい人ですし、うちには思い出もたくさんあります。

 でもあの人たちの中では、わたしは世界で三番目に大切な存在でしかないんです。

 そのことに、お父さんがいなくなってから――気付いてしまったみたいで」


 ふう、とため息をついて。

 どこか遠くを見つめるような、顔をした。


「わたしにだって心はあります。傷つくためだけに家に帰るのは、ちょっとつらいのです」

「……なに。虐待でもされてるの? だったら私に言えばすぐにでも」

「そういうわけじゃないですよ。ただ、見てくれないだけです。

 話しかければ返事もしてくれる。でも、あの人はわたしを見てくれない。

 人の苦しみと自分の苦しみに優劣をつけるなんて愚の骨頂ですが、わたしはいっそ、煙草でも押し付けられた方がまだ耐えられたでしょう。

 だってその時、あの人はわたしを見てくれるから」


 こいつは今、とても異常なことを言っている。

 それはきっと、自分の勘違いではない筈だ。

 実の親からの暴力を、「まだマシ」と形容するなんてことは普通ない。あってはならない、と言ってもいいだろう。

 結菜も大概、家庭環境は死んでいる方だが。母親とは互いに関心を持っていない、がらんどうの関係性だと思っているが。

 自分のそれと彼女のそれは、似ているようでまったく違う"死"であると、そう感じた。


「わたしには、お姉ちゃんがいたんです」

「……過去形、なんだ?」

「わたしが生まれる前に、どこかへ消えてしまったそうです。

 当時はお母さんもお父さんも、ずいぶん疑われたんだそうで。

 育ち盛りの娘をある日急に失った寂しさを埋め合わせるためにわたしを作ったのでしょう。

 その証拠に、あのふたりはいつだってわたしに別な誰かを見ていた。きっと、今もそう。最後に面会に行った時、父はわたしの名前を間違えましたから」


 あの時ほどみじめな気分になったことはありません。

 詩述は結菜の顔を見ることもなく、淡々と語っていく。

 表情は微笑んだまま。けれどそれが心からの笑みなのか、諦めなのか、それとも違う感情をそういう形に擬態させているのか区別がつかない。


「それでも、事件が起きるまでは幸せでした。貧しいけれど幸せな、あたたかい暮らしが確かにそこにはありました」

「……、……」

「事件が起きて、お父さんが連れて行かれたあの日。わたしの家は、壊れてしまった。

 知っていますか、結菜さん。悪いことをするとね、ちゃんと報いが来るんです。

 本人だけじゃない。その周りの人にも、それが降りかかってくる。世の中って"おおむね"よくできてるんですよ」


 その言葉を、結菜は否定できない。

 かつて自分は、その報いの代行者をしたことがあるからだ。

 他人を傷付け、追い込み、時には死にまで追いやりながら平然と生きていた女から。

 地位を奪い、尊厳を奪い、地の底にまで突き落としてやった。かつて詩述は、それと同じ目に遭ったことがあるのだろう。


「だからわたしは、壊れたあの家になるべく居たくないんです。

 好きだったものの成れの果てを見続けるのは、とてもつらいことだから。

 結菜さんを連れ回したのも、お察しの通り大体はそのためでした。迷惑でしたか?」

「……別に。ていうか見たら分かるでしょ、うちも大概だよ。こういう言い方されたら不快かもしれないけどさ」


 散らかった室内。もう午後八時を過ぎているのに、親の姿がない家。

 冷蔵庫に無数に貼られた連絡事項のメモ紙。娘も憚らず棚に置かれた避妊具を始めとした様々な仕事道具の数々。

 壁はヤニで変色し、娘の七五三の写真を収めた写真立ては罅割れて蜘蛛の巣が張っている。


「会っても必要事項しか話さないし、たまに男連れ込んで大声でやることやってるし。

 そもそも夜なんて誰もいない。そんな家に帰るのが多少遅くなったからって、迷惑に感じたりすると思う?」

「……、」

「むしろいい暇潰しになってるっていうか……、……そうだ」


 あんたといるのは楽しいよ、と言えないのは気恥ずかしさだった。

 ガキか、と自分でもそう思う。話を無理やり切り替えた時には、もう後悔が来ていた。

 今のは、ちゃんとそう伝えてやればいい場面だったんじゃないのか。

 そしたらこいつは、それこそ。遠くじゃなくて、自分を見てくれたかもしれないのにと。

 そんな風に思ったからこそ、続く言葉にはありったけの感情を込めた。


「家に帰るのが嫌だったらさ、これから毎日うちに帰ってくればいいよ」

「……それは」

「別にいいでしょ。だってやってるんだもん、私達にできないなんて話はないじゃん」


 どうせ、終わってるんだろう。

 あいつの――来瑠の家と同じなんだろう。

 だからあの時、これから倒す敵の弱みを知れたっていうのに気分悪そうにしていたんだろう?

 だったら、いいじゃないか。火箱があいつにしてやってるのと同じことを、自分がしのにしてやったって。


「母さんには友達連れ込むって言っとく。なんか言われたら、男連れ込んでるんだからおあいこだろって言ってやる」


 火箱風花のことは心底嫌いだ。

 あんな女は死ねばいい、目障りだから。今でもそう思っている。

 けれど。来瑠のために――大事な人間のために、迷わず自分を捧げられる人間だから。

 そういうことができる人間だから、あいつは舞台の上で輝けるんだと今そう理解した。


 なら、どうするか?

 決まってる。――並んでやる。

 今は私も舞台の役者だ。

 銀幕の向こう側の人間なんだ。

 そうでもしなきゃ、こいつに纏わり付く前作かこの残響は消し飛ばせないのだと確信している。


「……作戦会議も、悪だくみも、馬鹿話も、全部うちですればいいよ。

 ご飯だって、まあ、程々に好みに合わせて作ってあげる」


 そう言って、隣を向いた時。

 詩述が、やっと自分を見てくれた気がして。

 ざまあみろと、結菜は心の中であの追憶に中指を立てた。



◆◆



 ――馴れ馴れしい。あの子を虐めて嬲った人間が、何を人の心に寄り添うみたいなことを言っているのか。


 小綿詩述はヤニの匂いがこびりついた布団の中で身体を丸めながら、顔を歪めてそう独りごちた。

 いじめなんて可愛らしい呼び方をするのは良くない。あれは校内暴力と呼ぶべき、れっきな傷害行為だ。陰湿極まりない犯罪だ。

 気に入らないことがあるのなら対話で改善を求めればいいのに、そうすることもしないでありったけ陰湿な手で追い詰める。幼稚な行為だ。詩述の思想に照らし合わせて言うならば、いじめをする人間は即ち"死んでもいい人間"とイコールだった。


 その点。小椋結菜という人間に対して詩述が抱いている印象は、決して友情や親愛ではない。

 高嶺来瑠の添え物。金魚の糞。

 今まで召使いのように使っていた人間に蹴落とされ、虐げられる。

 彼女は来瑠の心を効率よく削る上で都合が良かったから声をかけて手駒にした、ただそれだけの存在――いや、それさえ下回る存在なのだから。


 だって結菜は、来瑠と一緒になって風花を虐めていた。

 その汚らしい悪意で、自分の大切な人を穢し、苦しめたのだ。

 許せるはずがない。そんな人間の傍にいることがどれだけ不快なことなのか、結菜は何も分かっていないに違いない。


「添え物が、ずいぶんと調子に乗ったものです。

 ちょっとお友達のふりをして、ちょっと弱いところを見せてあげたらこの通り。絵に書いたような単純さで、思わず笑ってしまいそう」


 結菜という駒の終わりは、詩述の中では既に二つにまで絞られていた。

 来瑠達との戦いの中で、文字通り使い潰すか。

 もしくはすべてが終わった後で、事後処理のように潰してしまうか。

 どうとでもできる。結菜のいじめの証拠は握っているし、それを使えば彼女の人生はちり紙を破くよりも簡単に幕を閉じるだろう。

 そんなことも知らずに、隣のソファでぐーすか寝息を立てている姿が滑稽で仕方なかった。

 わざわざ一つしかない布団を譲って、自分は座り心地の悪いソファで眠るなんて。

 一体どれだけ絆されているのやら。ホームズとワトソンだなんて、そんなおべんちゃらをもしかして本気にしているのか。

 だとしたら。それは――


「お気の毒です。精々、最後の最後までわたしのために頑張ってくださいな。役立たずのワトソンさん」


 ふ、とせせら笑って。

 詩述は目を閉じた。

 布団を譲ってもらったのはいいが、ヤニ臭くて結局不快なのは変わらない。そのせいで眠れず今まで無為な時間を過ごしてしまっているのだから。


「……はあ」


 結菜は順調に動いてくれている。

 八朔も、あの様子なら期待通りに働いてくれるだろう。

 何も問題はない。すべては小綿詩述、追憶探偵の手のひらの上だ。

 ただ一つ誤算だったのは。あの時勢いに負けて、ついつい頷いてしまったこと。


(着替えと荷物、取りに帰らないと……。お母さんになんて言って出てくればいいんですか、まったく……)


 本当に、ありがた迷惑もいいところだ。

 詩述はため息をついた。

 いつもとは違う歯磨き粉の匂いがして、なんだか新鮮なのがまた腹立たしかった。

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